童子問 / 卷中
問。宋孝宗召朱熹。或有要之於路。以正心誠意爲上所厭聞。戒以勿言者。翁曰。吾平生學問。只在正心誠意。豈可囘互而欺吾君乎。如何。曰。愚謂其說固善。然在學者則可。非所以告于人君也。如學者。固不可不以此自修。在人君。則當以與民同好惡爲本。其徒知正心誠意。而不能與民同好惡。於治道何益。苟側身勵行。起居動息。以與民同好惡爲志。則民志奮起。士氣雄壯。雖南宋之脆弱。可以撻北韃之勁兵。觀孟子所說齊梁諸君者。可見矣。且如庸暗之主。豈能受誠意正心之說。而得從事之哉。正所謂欲其人。而閉之門也。明太祖以迂濶目之。不可謂過論。
新字:問。宋孝宗召朱熹。或有要之於路。以正心誠意為上所厭聞。戒以勿言者。翁曰。吾平生学問。只在正心誠意。豈可囘互而欺吾君乎。如何。曰。愚謂其説固善。然在学者則可。非所以告于人君也。如学者。固不可不以此自修。在人君。則当以与民同好悪為本。其徒知正心誠意。而不能与民同好悪。於治道何益。苟側身励行。起居動息。以与民同好悪為志。則民志奮起。士気雄壮。雖南宋之脆弱。可以撻北韃之勁兵。観孟子所説斉梁諸君者。可見矣。且如庸暗之主。豈能受誠意正心之説。而得従事之哉。正所謂欲其人。而閉之門也。明太祖以迂濶目之。不可謂過論。
書き下し
問ふ。宋の孝宗朱熹を召す。或ひと之を路に要して、正心誠意は上の厭ひ聞く所為るを以て、戒むるに言ふこと勿れを以てする者あり。翁曰く、吾が平生の学問は、只正心誠意に在り。豈に回互して吾が君を欺くべけんや、と。如何。曰く、愚謂へらく、其の説固より善し。然れども学者に在りては則ち可なり。人君に告ぐる所以に非ざるなり。学者のごときは、固より此を以て自ら修めざるべからず。人君に在りては、則ち当に民と好悪を同じくするを以て本と為すべし。其の徒に正心誠意を知りて、民と好悪を同じくすること能はずんば、治道に於て何の益かあらん。苟も身を側めて行ひを励まし、起居動息、民と好悪を同じくするを以て志と為さば、則ち民志奮起し、士気雄壮にして、南宋の脆弱と雖も、以て北韃の勁兵を撻つべし。孟子の斉梁の諸君に説く所の者を観れば、見るべし。且つ庸暗の主のごときは、豈に能く誠意正心の説を受けて、得て之に従事せんや。正に所謂其の人を欲して、之が門を閉づるなり。明の太祖迂闊を以て之を目す。過論と謂ふべからず。
現代語訳
問う。宋の孝宗が朱熹を召したとき、ある人が途中で待ち受けて、正心誠意の話は陛下が聞き飽きているから言わないようにと戒めた。朱熹は「私の生涯の学問は正心誠意にしかない。どうしてごまかして我が君を欺けようか」と言った。これをどう思うか。答える。私の考えでは、その説はもとより善い。しかし学ぶ者に対してならよいが、人君に告げるべきことではない。学ぶ者ならば、もちろんこれによって自らを修めなければならない。しかし人君にとっては、民と好き嫌いを共にすることを根本とすべきである。ただ正心誠意を知るだけで、民と好き嫌いを共にすることができなければ、治世の道に何の益があろうか。もし身を慎んで行いに励み、起き伏しの一つ一つに民と好き嫌いを共にすることを志とすれば、民の志は奮い立ち、士気は勇ましくなり、南宋の弱さでも北方の強兵を打ち負かすことができたであろう。孟子が斉や梁の君主たちに説いたことを見ればわかる。そもそも凡庸で暗愚な君主が、どうして誠意正心の説を受け入れて、それを実践できようか。まさに「その人に入ってきてほしいと願いながら、門を閉ざす」というものである。明の太祖が朱熹を迂遠だと評したのも、言い過ぎとは言えない。
解説
この章句が説くこと
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