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大学或問 / 『大学或問』儒を借りることと神道の孤立

(問)中庸を三種の注解とせば儒をかるにあらずや、 (答)唐土は四海の師國なり、四方の國より法を取て習はずといふ事なし、昔は官位衣服禮樂悉く傳來て用ひられたり、南蠻西戎北狄は文字通せず、本邦朝鮮琉球は文字通ず、故に昔より漢字を習ひ來て我邦の學とす、已に昔は京都に大學校あり、諸氏の學校あり、國々にも學校有たれども、戰國久しかりし間に絕たり、後世武士の弓矢神とする八幡宮の御在世には、百濟國より儒を召して學び給へり、經傳は道德の駕なり、唐土の文字をからでは道明らかならず、佛氏は大に儒をかり佛道を弘めたり、天竺國へは文字通ぜざるだに悉く唐土の文字理學を借たり、今は借たる事をいはず、却て聖門より出たる辭を佛語とす、况や三種の象は孔門傳授の心法なり、是を本として神道を興起せんに殘す事あるべからず、神道者は儒を借事を憚れり、故に理狹くして孤獨の小術のごとく成りて儒佛に對すべき道學なし、賢君出世し給はでは神道の再興難かるべし、

新字:(問)中庸を三種の注解とせば儒をかるにあらずや、 (答)唐土は四海の師国なり、四方の国より法を取て習はずといふ事なし、昔は官位衣服礼楽悉く伝来て用ひられたり、南蠻西戎北狄は文字通せず、本邦朝鮮琉球は文字通ず、故に昔より漢字を習ひ来て我邦の学とす、已に昔は京都に大学校あり、諸氏の学校あり、国々にも学校有たれども、戦国久しかりし間に絶たり、後世武士の弓矢神とする八幡宮の御在世には、百済国より儒を召して学び給へり、経伝は道徳の駕なり、唐土の文字をからでは道明らかならず、仏氏は大に儒をかり仏道を弘めたり、天竺国へは文字通ぜざるだに悉く唐土の文字理学を借たり、今は借たる事をいはず、却て聖門より出たる辞を仏語とす、況や三種の象は孔門伝授の心法なり、是を本として神道を興起せんに残す事あるべからず、神道者は儒を借事を憚れり、故に理狭くして孤独の小術のごとく成りて儒仏に対すべき道学なし、賢君出世し給はでは神道の再興難かるべし、

書き下し

(問)中庸を三種の注解とせば儒をかるにあらずや、 (答)唐土は四海の師國なり、四方の國より法を取て習はずといふ事なし、昔は官位衣服禮樂悉く傳來て用ひられたり、南蠻西戎北狄は文字通せず、本邦朝鮮琉球は文字通ず、故に昔より漢字を習ひ來て我邦の學とす、已に昔は京都に大學校あり、諸氏の學校あり、國々にも學校有たれども、戰國久しかりし間に絕たり、後世武士の弓矢神とする八幡宮の御在世には、百濟國より儒を召して學び給へり、經傳は道德の駕なり、唐土の文字をからでは道明らかならず、佛氏は大に儒をかり佛道を弘めたり、天竺國へは文字通ぜざるだに悉く唐土の文字理學を借たり、今は借たる事をいはず、却て聖門より出たる辭を佛語とす、况や三種の象は孔門傳授の心法なり、是を本として神道を興起せんに殘す事あるべからず、神道者は儒を借事を憚れり、故に理狹くして孤獨の小術のごとく成りて儒佛に對すべき道學なし、賢君出世し給はでは神道の再興難かるべし、

現代語訳

問う。『中庸』を三種の注解とするなら、儒を借りることではないか。 答える。中国は四海の師の国である。四方の国が法を取って学ばないことはない。昔は官位・衣服・礼楽がことごとく伝来して用いられた。南蛮・西戎・北狄は文字が通じないが、本邦・朝鮮・琉球は文字が通じる。ゆえに昔から漢字を習い、我が国の学問としてきた。すでに昔は京都に大学校があり、諸氏の学校があった。国々にも学校があったが、戦国が久しい間に絶えた。後世の武士が弓矢の神とする八幡宮が在世のときには、百済国から儒者を召して学ばれた。経伝は道徳の乗り物である。中国の文字を借りなければ道は明らかにならない。仏氏は大いに儒を借りて仏道を広めた。天竺には文字が通じなかったのに、ことごとく中国の文字・理学を借りた。いまは借りたことをいわず、かえって聖門から出た言葉を仏語とする。ましてや三種の象は孔門伝授の心法である。これを本として神道を興し起こすなら、欠けるところはないはずである。神道者は儒を借りることをはばかる。ゆえに理が狭くなり、孤独な小さな術のようになって、儒・仏に対抗できる道学がない。賢君が世に出なさらなければ、神道の再興は難しいだろう。

解説

『中庸』で三種の神器を解くのは儒を借りることではないか、という問いに、蕃山は学問の借用は昔からの普通のことだと答えます。文字が通じる日本は漢字を学び、八幡宮の時代には百済から儒者を召した例を挙げ、仏教も儒の言葉や理を大いに借りて広まったと指摘します。神道者が儒を借りるのをはばかるために理が狭く孤立し、儒や仏に対抗できる道学がないというのが批判点です。江戸前期の蕃山の神儒観として読む条です。現代でも、他分野の知見を借りるのを避けて自前主義にこだわると、考え方が狭くなり競争力を失う、という教訓にできます。
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この章句が説くこと

儒を借りる中庸漢字八幡宮仏教道学

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