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大学或問 / 『大学或問』諸大名の困窮は天下の困窮

十一上の御冥加損益の事、 (問)諸大名困窮すれば勢ひなくして、公儀の御爲却てよしと申す說あり、然るに諸國ともに富有なるべき政はいかゞ、 (答)諸侯不勝手にて武士困窮すれば、民に取事つよくて百姓も困窮す、士民困窮すれば工商も困窮す、しかのみならず浪人餘多出來て飢寒に及びぬ、是天下の困窮なり、天下困窮すれば上の天命の冥加おとろへぬ、天命おとろへてはいかんともする事なし、堯曰く、四海困窮天祿永終と、然かれば諸大名の困窮は上の御爲あしき第一なり、然かるを御爲よしといへるは伯術にしても、分別あさき事なり、右大將家北條足利は伯者なり、中にも北條をすぐれたりとす、諸大名の在鎌倉三年に一度五十日と定めて、それさへ鎌倉にて費多からぬやうにと戒しめられたり、諸國の潤澤を鎌倉にてからさん事を恐れてなり、

新字:十一上の御冥加損益の事、 (問)諸大名困窮すれば勢ひなくして、公儀の御為却てよしと申す説あり、然るに諸国ともに富有なるべき政はいかゞ、 (答)諸侯不勝手にて武士困窮すれば、民に取事つよくて百姓も困窮す、士民困窮すれば工商も困窮す、しかのみならず浪人余多出来て飢寒に及びぬ、是天下の困窮なり、天下困窮すれば上の天命の冥加おとろへぬ、天命おとろへてはいかんともする事なし、堯曰く、四海困窮天禄永終と、然かれば諸大名の困窮は上の御為あしき第一なり、然かるを御為よしといへるは伯術にしても、分別あさき事なり、右大将家北条足利は伯者なり、中にも北条をすぐれたりとす、諸大名の在鎌倉三年に一度五十日と定めて、それさへ鎌倉にて費多からぬやうにと戒しめられたり、諸国の潤沢を鎌倉にてからさん事を恐れてなり、

書き下し

十一上の御冥加損益の事、 (問)諸大名困窮すれば勢ひなくして、公儀の御爲却てよしと申す說あり、然るに諸國ともに富有なるべき政はいかゞ、 (答)諸侯不勝手にて武士困窮すれば、民に取事つよくて百姓も困窮す、士民困窮すれば工商も困窮す、しかのみならず浪人餘多出來て飢寒に及びぬ、是天下の困窮なり、天下困窮すれば上の天命の冥加おとろへぬ、天命おとろへてはいかんともする事なし、堯曰く、四海困窮天祿永終と、然かれば諸大名の困窮は上の御爲あしき第一なり、然かるを御爲よしといへるは伯術にしても、分別あさき事なり、右大將家北條足利は伯者なり、中にも北條をすぐれたりとす、諸大名の在鎌倉三年に一度五十日と定めて、それさへ鎌倉にて費多からぬやうにと戒しめられたり、諸國の潤澤を鎌倉にてからさん事を恐れてなり、

現代語訳

十一 上の御冥加の損益のこと 問う。諸大名が困窮すれば勢いがなくなり、かえって幕府のためによいという説がある。それなのに、諸国ともに豊かになるような政治を行うというのはどうなのか。 答える。大名が不如意で武士が困窮すれば、民から取り立てることが厳しくなって百姓も困窮する。武士と民が困窮すれば職人や商人も困窮する。そればかりか浪人が大勢出てきて飢え凍えるに至る。これが天下の困窮である。天下が困窮すれば、上の天命の冥加が衰える。天命が衰えてはどうすることもできない。堯は「四海困窮すれば天禄永く終わる」といった。そうであれば、諸大名の困窮は上のためにならない第一のことである。それなのに上のためによいというのは、覇者の術としても考えが浅い。右大将家(頼朝)、北条、足利は覇者である。中でも北条を優れているとする。諸大名が鎌倉にいるのは三年に一度五十日と定め、それでさえ鎌倉での出費が多くならないようにと戒められた。諸国の潤沢を鎌倉で枯らすことを恐れたからである。

解説

大名を弱らせれば幕府は安泰だという考えに対し、蕃山は逆だと答えます。大名が窮すれば武士が窮し、民への取り立てが重くなり、職人や商人にも波及して浪人が増えるという連鎖を示し、これを天下の困窮と呼びます。論拠は『論語』堯曰篇の「四海困窮すれば天禄永く終わる」です。覇者とされる北条でさえ、諸大名の鎌倉滞在を三年に一度五十日にとどめ、各地の富を消耗させまいとしたと述べます。現代でも、取引先や子会社を締めつけて自社だけが得をする構図は長続きしません。周囲の体力が全体の安定の土台だと考えさせられる条です。
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この章句が説くこと

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