大学或問 / 『大学或問』豊年が民を苦しめる理由
(問)近年ほど高免なる事は古來聞さる事にて民至極困窮せり、何方より取て富有なるべきや、 (答)天下の高免をゆるし、諸國の武士富足るやうにして、公儀の御藏幷に諸侯の藏ともに米みち〳〵て、置所なき樣にすべき政あり、今は誰か有にもならで廢たる米限なし、然れども今の勢は其廢たる故に世間立つ事なり、百姓は年貢を納め武士は物成取て已後は、多く廢たるほど貴賤ともによき勢となれり、此勢を變ぜずして廢たらぬやうにせば、世の中ます〳〵困窮すべし、廢たりを取あげたらば米復下直なるべし、近年豐年故武士も民もます〳〵困窮す、士民詰まりたればあきなひなし、工商も亦困窮す、浪人は米下直にてよきやうなれども、大身小身詰りたれば合力も成かたく拘へらるゝ事も稀に、浪人するものは多し、其日過の者はよき樣なれども、士農工商ともに詰まりたれば傭ふ者少なし、此の惣詰りは米少し多く成たる故なり、 (問)民は豐年を願はずや、 (答)民も近年の豐年にて借銀ます〳〵多く成て至極詰まりたり、七八拾目の時に借たる銀を三四拾目の米を賣てかへせば、元銀ばかりも一倍なり、其上に利足をかくれば一倍の上なり、豐年とても田に一倍は出來ざるなり、江州にて鰯を買に先年は米壹荷持行て貳荷取來りたり、近年は米貳荷持行て鰯壹荷取來れり、米下直なる故なり、萬事此の如くなれば、其餘は推て知るべし、民は凶年の高直なるには賣べき米なければ用にたゝず、豐年には米の價よからねば息をつぐべき樣なし、故に廢たる米を取あげ、新田など起す事も今の勢にはよからず、
新字:(問)近年ほど高免なる事は古来聞さる事にて民至極困窮せり、何方より取て富有なるべきや、 (答)天下の高免をゆるし、諸国の武士富足るやうにして、公儀の御蔵幷に諸侯の蔵ともに米みち〳〵て、置所なき様にすべき政あり、今は誰か有にもならで廃たる米限なし、然れども今の勢は其廃たる故に世間立つ事なり、百姓は年貢を納め武士は物成取て已後は、多く廃たるほど貴賤ともによき勢となれり、此勢を変ぜずして廃たらぬやうにせば、世の中ます〳〵困窮すべし、廃たりを取あげたらば米復下直なるべし、近年豊年故武士も民もます〳〵困窮す、士民詰まりたればあきなひなし、工商も亦困窮す、浪人は米下直にてよきやうなれども、大身小身詰りたれば合力も成かたく拘へらるゝ事も稀に、浪人するものは多し、其日過の者はよき様なれども、士農工商ともに詰まりたれば傭ふ者少なし、此の惣詰りは米少し多く成たる故なり、 (問)民は豊年を願はずや、 (答)民も近年の豊年にて借銀ます〳〵多く成て至極詰まりたり、七八拾目の時に借たる銀を三四拾目の米を売てかへせば、元銀ばかりも一倍なり、其上に利足をかくれば一倍の上なり、豊年とても田に一倍は出来ざるなり、江州にて鰯を買に先年は米壱荷持行て貳荷取来りたり、近年は米貳荷持行て鰯壱荷取来れり、米下直なる故なり、万事此の如くなれば、其余は推て知るべし、民は凶年の高直なるには売べき米なければ用にたゝず、豊年には米の価よからねば息をつぐべき様なし、故に廃たる米を取あげ、新田など起す事も今の勢にはよからず、
書き下し
(問)近年ほど高免なる事は古來聞さる事にて民至極困窮せり、何方より取て富有なるべきや、 (答)天下の高免をゆるし、諸國の武士富足るやうにして、公儀の御藏幷に諸侯の藏ともに米みち〳〵て、置所なき樣にすべき政あり、今は誰か有にもならで廢たる米限なし、然れども今の勢は其廢たる故に世間立つ事なり、百姓は年貢を納め武士は物成取て已後は、多く廢たるほど貴賤ともによき勢となれり、此勢を變ぜずして廢たらぬやうにせば、世の中ます〳〵困窮すべし、廢たりを取あげたらば米復下直なるべし、近年豐年故武士も民もます〳〵困窮す、士民詰まりたればあきなひなし、工商も亦困窮す、浪人は米下直にてよきやうなれども、大身小身詰りたれば合力も成かたく拘へらるゝ事も稀に、浪人するものは多し、其日過の者はよき樣なれども、士農工商ともに詰まりたれば傭ふ者少なし、此の惣詰りは米少し多く成たる故なり、 (問)民は豐年を願はずや、 (答)民も近年の豐年にて借銀ます〳〵多く成て至極詰まりたり、七八拾目の時に借たる銀を三四拾目の米を賣てかへせば、元銀ばかりも一倍なり、其上に利足をかくれば一倍の上なり、豐年とても田に一倍は出來ざるなり、江州にて鰯を買に先年は米壹荷持行て貳荷取來りたり、近年は米貳荷持行て鰯壹荷取來れり、米下直なる故なり、萬事此の如くなれば、其餘は推て知るべし、民は凶年の高直なるには賣べき米なければ用にたゝず、豐年には米の價よからねば息をつぐべき樣なし、故に廢たる米を取あげ、新田など起す事も今の勢にはよからず、
現代語訳
問う。近年ほど年貢が高い割合になっていることは昔から聞いたことがなく、民はひどく困窮している。どこから取って富有になるのか。 答える。天下の高い年貢の率を緩め、諸国の武士が豊かで足りるようにし、公儀の御蔵と諸侯の蔵ともに米が満ちて、置き場もないようにする政治がある。今は誰の役にも立たず無駄になった米の限りがない。しかし今の勢いでは、その無駄になることによって世間が成り立っている。百姓は年貢を納め、武士は収入を取ってのち、多く無駄にするほど、身分の上下ともによい状態になっている。この勢いを変えずに無駄にしないようにすれば、世の中はますます困窮するだろう。無駄を取り上げたら、米がまた安くなるだろう。近年は豊年のため、武士も民もますます困窮する。武士も民も行き詰まっているので商いがない。職人と商人もまた困窮する。浪人は米が安いのでよいように見えるが、大身も小身も行き詰まっているので、援助も難しく、召し抱えられることもまれで、浪人になる者は多い。その日暮らしの者はよさそうに見えるが、士農工商ともに行き詰まっているので、雇う者が少ない。この全体の行き詰まりは、米が少し多くなったからである。 問う。民は豊年を願わないのか。 答える。民も近年の豊年で借銀がますます多くなって、ひどく行き詰まっている。七、八十匁のときに借りた銀を、三、四十匁の米を売って返せば、元の銀だけでも倍である。そのうえ利息がつけば、倍以上になる。豊年といっても、田から倍の収穫が出るわけではない。近江で鰯を買うのに、先年は米一荷を持って行って二荷を取って来たが、近年は米二荷を持って行って鰯一荷を取って来た。米が安いからである。万事がこのようなので、その他は推して知るべきである。民は、凶年の高値のときには売るべき米がなく役に立たず、豊年には米の値がよくないので、息をつく手立てがない。だから、無駄になった米を取り上げ、新田を起こすことなども、今の勢いではよくない。
解説

人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見るこの章句が説くこと
関連する章句
-
大学或問・『大学或問』豊年の損失と借金の重み二十二諸國米穀捨り候事、 (問)前にいへる富有大業其外の數ヶ條は豐年の時に行て凶年の備となすべき事なり、とかくするほどに今年にも四時不順にて五穀の取實すくなくば、本より諸國米すくなけれども、勢にて多きやうなりし所あらはれて、米俄に高直に成なば又々飢饉すべき哉、諸浪人も十年已前には一倍も多かるべし、諸人困窮の上なればいかなる變かあらん心もとなし、此の如き時も世の中くつろぐべき政あらんや、 (答)凶年至りては富有大業の仁政もなしがたし、變をすくはん事もむづかし、近年豐年にて米下直なりし事五六年もあらんか、此間にすたりたる米金を積りて見れば、高拾萬石の諸侯中分の領地にして五ッ物成なれば現米五萬石なり、一年のすたり一銀千貫目主人藏入家中共之損一同貳千貫目在中之損一同五百貫目城下町中之損合して三千五百貫目のすたりなり、五年に壹萬七千五百貫目の損なり、拾萬石已上の大名物成よき所はいよ〳〵すたり夥し、公儀の御藏入は猶以ての事なり、小身といへども其分に應じての損あり、知行百石取も四ッ物成にして一年のすたり金拾兩なり、千石取は百兩の損なり、五年に五百兩の損あり、諸大名諸家中旗本ともに大につまりたるもことわりなり、在町の損も同前なり、諸浪人遊民の歎き言語に述がたし、時に造化を助る政あれば、右の損すたれずして諸人の有となるべきものなるに、時務を申人なき故に、すたりて天下の困窮となれり、 (問)右の如くなれば諸國の損益夥し、算にもかゝらぬほどの金銀なるべし、諸國に左樣に金銀は有べからずいかゞ、 (答)日本國中の借金高は有金の百倍にも過ぬべし、故に損益共に此の如く大なり、
-
大学或問・『大学或問』米価を定めて凶年に備える小策二十一小惠ながら益あるべき事、 (問)前に承る富有大業は古今有がたき仁政なれども、餘りに大きなる事なれば急に成かたからんか、今其まゝにて成やすく、世間もくつろぎ、北狄の手當十分ならずども、成べき事あらんか、 (答)近年豐年にて大身小身士民共に至極困窮せり、民も今豐年の時、米高直ならでは用達せず、凶年には賣るべき米なければ、高直にても益なし、大名家中ともに然り、たとへば中の國、至極の凶年にはあらで、中より下の年なれば、大坂へ上する賣米三萬石あり、近年豐年にて五萬石ならば、凶年の積りに三萬石上せて、二萬石泉にて積置、北狄の手當さては後來凶年飢饉の備とせん、諸國これに應ずべし、しからば一石五拾錢目にはなるべきか、それより高直成事もあらんか、今は壹石五拾錢目中分なり、さありては武士も下々も難義なるべからず、しかれども近年のごとく米を急にうらで叶はざる勢ひなれば、右の積益なき事ならん、米を錢の直段のごとく石五拾錢目に定め、米にてなりとも銀にて成ともさりきらひなく、少しの賣買はいふに及ばず、借銀の利上、吳服所の代物までも、米にて遣し度ものは、つけ上せるやうならば手支あるまじ、暫く貴賤ともくつろぎの間は、借銀すます事を相延し、かし主へは家内の用ほど、諸大名より米を差上せば、米壹萬石借銀の利息の爲に銀に賣るかたは漸く千石にて足べし、九千石を五拾錢目の米にして遣はゞ、今のごとくに江戶詰にても用は足べき哉、又江戶大坂にて米の直段五拾錢目六拾錢目の間に定り、六拾一錢目に上りなば五拾九錢目に買下げ、四拾九錢目に下りなば五拾壹錢目に買上げ、其間拾錢目は米屋の利倍たるべし、御藏と諸大名の藏とめぐりて買上げ買下げせばつかへ有まじきか、かやうの事にはつかへ有ものなれども、其時にいたりてつかへを解事やすし、五拾錢目の餘は浪人と一日過の者のために少し高過たるやうなれども、武士競ひぬれば親類知音合力も成やすし、一日過も武士と民とよければ工商もよし、雇もの多ければこれも少し高直なるは却てよし、所帶にても遲ひあるべし、六拾錢目餘は高直過て飢者あり、右の畜へ米改にては凶年とても六拾錢目の餘へは出べからず、此まゝにて食つめに困窮し變を待んよりはまさるべき歟、しかれども其分にては浪人遊民等の無告の者も在附ず、士農工商の借金もすまず、北狄の備も全からず、大なる仁政にはあらず、
-
大学或問・『大学或問』借金を残らず済ます法八世間借金貸主迷惑せず殘らず相濟、天下無借銀になるべき事、 (問)城主國守は江戶の入用を御免ありて餘米多し、家中の小身者は知行の物成にて家內の用も足がたきものあり、何の餘米ありて借銀を返辨すべきや、 (答)城主國守の餘米は左樣のものゝ借物をすまさん爲なり、其上仁政行はれ式定る時は今までの遣ひ用は入らず、今迄なかりし物は出來る事なれば、思ひの外に小身のものまで心安くなる事なり、然かれば主人家中共に公儀の下知なり、是尤役人あり、京大坂にも役人あり、諸國へ金銀かしたるものをしるし、多きは年をのべ、少きは年をしゞめて、彼には百石二百石、彼には三拾石五十石と分ち、多くかしたるものにも一度に過て遣はさず、十年二十年にて濟もあるべし、甚だ多くして年數にかゝはらざるは永代の知行のごとくして其用を達せしむべし、大名三人五人にかしたるは、三五人より集れは遣はす所は多からじ、かし主共手前不足等もなく、奢もせで心安くおくるやうに奉行よりはからひあるべし、かくのごとくならばたくはへ米四萬石づゝある國守も、借金多くとも貳三千石にては借金の埓あくべきか、扨百姓の借銀すまし遣はすには米多く出べけれども、三年も五年もかゝりてすまさば、四萬石の積米の給人は年々に二萬石づゝ出して郡切に裁判せしむべし、今の高免にても年貢ほどは大方あれども、借銀の元利に引れて不足すれば、いよ〱借銀多くなりて今は至極困窮に及べり、借物さへ濟し給はゞ所により一寸の免のさがりたるにあたるべきか、在々にて裁判の仕形多けれども、長々しければ大數ばかりいひて殘すなり、右の通なればいまだ餘米多く諸浪人の在付も一度になるべし、
-
大学或問・『大学或問』廃たる米と米遣いの構想(問)此勢を變ずる政ありて廢たる米は何々ぞ、 (答)大廢たりあり、之をすて給はずば公儀も諸侯も大富有に成給ひて、今の藏々にては置所なかるべし、諸侯の分にては叶はず、公儀に大道の御志あれば今の節は易かるべし、此勢少も變ぜば御志出來とも叶ふべからず、誠に少ばかり記すべし、故に眼前小事の廢たりを記すなり、川堤の普請の仕樣其地理を得ずして廢たる米、六十餘州にて水年には大凡高百萬石はあるべし、又池所あれどもせず、すれども無功にて用すくなき廢たり旱年に多し、第二には江戶の大廻船九州四國西國北國より大坂への米船破損の廢たり數しらず、第三には昔の粟納變じて米納となり、藏々にて蟲に成て廢たる米數しらず、第四には酒屋昔に百倍して水に成て廢たる米數しらず、第五にはたばこ地の廢たり、第六には田に綿を作る廢たり、第七には民力よわく田に出來べき米のすくなき廢たり、第八には南蠻菓子昔に百倍する廢たり、此の如きの廢たり此の外に多かるべし、今は此の廢たりなくては武家米を賣りて公儀を勤むべき樣なし、近年世の中あしからで賣米多ければ、天下の困窮となりたるにて知るべし、 (問)廢たる米をすてずして米は下直ならず、貴賤とも悅ぶべき政は何ぞや、 (答)今は金銀錢の通用なる故米を賣らでは公役も何も調はず、此故に大坂江戶の津にては賣米のみ滿ち〳〵て買者少なければ下直に成て諸人困窮す、根本國々の米は思ひの外にすくなし、米の直段を錢のごとく定て、京大坂江戶諸國共に諸色を米にて賣買し、吳服所を初め米にて渡さば、其の下の職人にも米にて渡し、諸物米にて買ふべし、東國衆の京の買物西國衆と米爲替にもなるべし、少しづゝ差支へることはあれども、それは時にあたりて解□易かるべし、米を賣らでも事のかけざるやうにして、彼の廢たる米を取あげ、粟にて諸國に積置なば飢饉にも餓る者なく、北狄來るとも兵粮に事欠べからず、 (問)金銀錢は廢たるべきか、 (答)是も其まゝつかはるべし、米金銀錢きらひなく取遣するときはいづれも用に立なり、 (問)米の直段はいかゞ、 (答)一石銀五拾目今の中なるべし、其後は勢次第にて時の中あるべし、
-
大学或問・『大学或問』公儀の入用と富有の本義(問)萬事調て後十一の貢に歸せば、公儀の藏入天下の用に不足ならんか、 (答)今は諸矦に給て諸侯の益にもならぬ事あり、又上に奉りて上の益にもならで下にて財の費る事あり、箇樣の事は上下共やめ給ふべければ、公儀の不足あるべからず、若不足ならば古法のごとく、在國二年に五十分一の貢を取給はゞいかやうの事も調ふべし、納米壹萬石より米貳百石の貢物なり、拾萬石に貳千石なり、外にうき物成の貢あり、京大坂駿府等の在番もやむべし、神佛の寺社も數すくなく、修理にて調へけれは公儀の入用は多くはあるまじ、其上有道の代は道ある入用なれは、萬一公儀御不足の事あらば、諸大名の相談にていかやうにも足給ふ樣になるべし、諸大名大分の公用をゆるされ給へば、貢少し多く奉り給ふとも不足あるべからず、上より諸侯を子のごとくし給へば、諸侯も上を父の如く思ひ給ふべし、 (問)富有大業財用置所なかるべしと承れば、いつとても上の不足はあるまじきか、 (答)富有は天下の爲めの富有なり、置所なき穀物も文事武備の用なればいつとても不足なし、四海の困窮くつろぎ萬事調て已後は、餘財用なければ農兵の昔に返り、十一の貢に成て財散じ人心あつまり、足る事を知て富有淳厚の風俗と成て人民足らざる事を知らず、農兵とならば本邦の武勇格別强く眞の武國の名に叶ふべし、武士農を別れてよりこのかた身病氣に手足弱く成ぬ、心ばかりはいさむとも敵にもあはで渡るべく病死すべし、其上若黨小者共も一年居にて主をおもはず、是は軍用の損なり、平生も農兵ならざれば風俗あしく成て長久ならず、農兵の昔に返すべきは此時なり、
-
大学或問・『大学或問』木綿田と酒屋の整理(問)世間に人多く成たる故に田にも木綿を作るなるべし、米を作るよりは木綿にては百姓の勝手もよし、木綿をやめ米を作りては愈〳〵年貢不足せん、 (答)近年は儉約の法きびしく士己上歷々迄も木綿を着す、農工商の富有人も木綿を着する故に木わたを多く作るなり、木わたを作りて年貢出しよくばいよ〳〵高免になりて畢竟民のためにもならず、給人も免は少し高く取れど米下直なれば、昔の少し下免なりし時よりも勝手あしく、田木綿やめて免少し下るとも仁政にて武士の勝手よき事多ければつかへにはならず、十年の間には諸侯幷に家中ともに借金皆なく成べし、其上士己上の木綿着物は費なり、木綿は糊こはくつけ表は色紙あてゝむしろの上にて着するものゝ爲にはよし、五十年己前までは士己上の者は綸子縮緬紗綾羽二重を着したり、歩若黨も絹紬を着たり、人に依ては卷物も着たり、中小姓己上も人により絹紬を着たり、其時は今の樣にすり切て借金多きものはなかりき、政道にとりて昔のごとく成べければ田に木わた作らずとも木綿澤山にて下々事欠とあるべからず、其上庶人の富人も昔のごとく卷物を着すべし、家屋も富る百姓町人は小身の武士より格別うるはしく、小袖も同前の物なり、貴賤は色を以て分ち高直下直の物にてはわかたざるものなり、先急用の大事多ければ唐物幷に我邦の物の事は末に論すべし、 (問)酒屋をやめん事世間の事欠なり、其上多くの酒屋產業を失ふべければ如何、 (答)世間にも事かゝず酒屋も迷惑せざるやうあり、米遣ひになれば米にて賣り、其利米を以て一家の用をなし、あまる米にて酒を作るなり、船にて方々する事をせざれは海に入て廢たる費なく、海陸にて盜取廢たりなし、他所の酒を通ぜず處々にて作る時は多く作らず、其廢たりなければやめずしてくるしからじ、但北狄の備か大飢饉にて急に米をたくはへ給ふ事あらば一二年はやめらるゝ事もあるべし、