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大学或問 / 『大学或問』豊年の損失と借金の重み

二十二諸國米穀捨り候事、 (問)前にいへる富有大業其外の數ヶ條は豐年の時に行て凶年の備となすべき事なり、とかくするほどに今年にも四時不順にて五穀の取實すくなくば、本より諸國米すくなけれども、勢にて多きやうなりし所あらはれて、米俄に高直に成なば又々飢饉すべき哉、諸浪人も十年已前には一倍も多かるべし、諸人困窮の上なればいかなる變かあらん心もとなし、此の如き時も世の中くつろぐべき政あらんや、 (答)凶年至りては富有大業の仁政もなしがたし、變をすくはん事もむづかし、近年豐年にて米下直なりし事五六年もあらんか、此間にすたりたる米金を積りて見れば、高拾萬石の諸侯中分の領地にして五ッ物成なれば現米五萬石なり、一年のすたり一銀千貫目主人藏入家中共之損一同貳千貫目在中之損一同五百貫目城下町中之損合して三千五百貫目のすたりなり、五年に壹萬七千五百貫目の損なり、拾萬石已上の大名物成よき所はいよ〳〵すたり夥し、公儀の御藏入は猶以ての事なり、小身といへども其分に應じての損あり、知行百石取も四ッ物成にして一年のすたり金拾兩なり、千石取は百兩の損なり、五年に五百兩の損あり、諸大名諸家中旗本ともに大につまりたるもことわりなり、在町の損も同前なり、諸浪人遊民の歎き言語に述がたし、時に造化を助る政あれば、右の損すたれずして諸人の有となるべきものなるに、時務を申人なき故に、すたりて天下の困窮となれり、 (問)右の如くなれば諸國の損益夥し、算にもかゝらぬほどの金銀なるべし、諸國に左樣に金銀は有べからずいかゞ、 (答)日本國中の借金高は有金の百倍にも過ぬべし、故に損益共に此の如く大なり、

新字:二十二諸国米穀捨り候事、 (問)前にいへる富有大業其外の数ヶ条は豊年の時に行て凶年の備となすべき事なり、とかくするほどに今年にも四時不順にて五穀の取実すくなくば、本より諸国米すくなけれども、勢にて多きやうなりし所あらはれて、米俄に高直に成なば又々飢饉すべき哉、諸浪人も十年已前には一倍も多かるべし、諸人困窮の上なればいかなる変かあらん心もとなし、此の如き時も世の中くつろぐべき政あらんや、 (答)凶年至りては富有大業の仁政もなしがたし、変をすくはん事もむづかし、近年豊年にて米下直なりし事五六年もあらんか、此間にすたりたる米金を積りて見れば、高拾万石の諸侯中分の領地にして五ッ物成なれば現米五万石なり、一年のすたり一銀千貫目主人蔵入家中共之損一同貳千貫目在中之損一同五百貫目城下町中之損合して三千五百貫目のすたりなり、五年に壱万七千五百貫目の損なり、拾万石已上の大名物成よき所はいよ〳〵すたり夥し、公儀の御蔵入は猶以ての事なり、小身といへども其分に応じての損あり、知行百石取も四ッ物成にして一年のすたり金拾両なり、千石取は百両の損なり、五年に五百両の損あり、諸大名諸家中旗本ともに大につまりたるもことわりなり、在町の損も同前なり、諸浪人遊民の嘆き言語に述がたし、時に造化を助る政あれば、右の損すたれずして諸人の有となるべきものなるに、時務を申人なき故に、すたりて天下の困窮となれり、 (問)右の如くなれば諸国の損益夥し、算にもかゝらぬほどの金銀なるべし、諸国に左様に金銀は有べからずいかゞ、 (答)日本国中の借金高は有金の百倍にも過ぬべし、故に損益共に此の如く大なり、

書き下し

二十二諸國米穀捨り候事、 (問)前にいへる富有大業其外の數ヶ條は豐年の時に行て凶年の備となすべき事なり、とかくするほどに今年にも四時不順にて五穀の取實すくなくば、本より諸國米すくなけれども、勢にて多きやうなりし所あらはれて、米俄に高直に成なば又々飢饉すべき哉、諸浪人も十年已前には一倍も多かるべし、諸人困窮の上なればいかなる變かあらん心もとなし、此の如き時も世の中くつろぐべき政あらんや、 (答)凶年至りては富有大業の仁政もなしがたし、變をすくはん事もむづかし、近年豐年にて米下直なりし事五六年もあらんか、此間にすたりたる米金を積りて見れば、高拾萬石の諸侯中分の領地にして五ッ物成なれば現米五萬石なり、一年のすたり一銀千貫目主人藏入家中共之損一同貳千貫目在中之損一同五百貫目城下町中之損合して三千五百貫目のすたりなり、五年に壹萬七千五百貫目の損なり、拾萬石已上の大名物成よき所はいよ〳〵すたり夥し、公儀の御藏入は猶以ての事なり、小身といへども其分に應じての損あり、知行百石取も四ッ物成にして一年のすたり金拾兩なり、千石取は百兩の損なり、五年に五百兩の損あり、諸大名諸家中旗本ともに大につまりたるもことわりなり、在町の損も同前なり、諸浪人遊民の歎き言語に述がたし、時に造化を助る政あれば、右の損すたれずして諸人の有となるべきものなるに、時務を申人なき故に、すたりて天下の困窮となれり、 (問)右の如くなれば諸國の損益夥し、算にもかゝらぬほどの金銀なるべし、諸國に左樣に金銀は有べからずいかゞ、 (答)日本國中の借金高は有金の百倍にも過ぬべし、故に損益共に此の如く大なり、

現代語訳

二十二 諸国の米穀が捨たる(損なわれる)ことについて。 問う。前に言った富有の大業やその他の数か条は、豊年のときに行って凶年の備えとすべきことである。そうしているうちに、今年も気候が不順で五穀の実りが少なければ、もともと諸国の米は少ないのだが、勢いで多いように見えた所が現れて、米が急に高値になったなら、また飢饉になるだろうか。浪人も十年前に比べて倍も多いだろう。人々が困窮している上に、どのような変事があるか心もとない。このような時でも、世の中がゆるむ(余裕ができる)ような政治はあるだろうか。 答える。凶年に至っては、富有の大業の仁政もなしがたい。変事を救うことも難しい。近年は豊年で米が安かったことが五、六年もあるだろうか。この間に捨たった米と金を見積もってみると、高十万石の諸侯が、中程度の領地で五つ成の年貢なら、現米五万石である。一年の損失は、銀一千貫目(主人の蔵入り・家中ともこれ)、家中の損失は二千貫目、在中の損失は五百貫目、城下町中の損失は合わせて三千五百貫目の損失となる。五年で一万七千五百貫目の損である。十万石以上の大名で年貢の良い所は、いよいよ損失が大きい。公儀の御蔵入りはなおさらである。小身といえども、その分に応じた損がある。知行百石取りも四つ成の年貢で、一年の損失は金十両である。千石取りは百両の損である。五年で五百両の損がある。諸大名・諸家中・旗本ともに大いに行き詰まったのも、もっともである。在町の損も同様である。浪人や遊民の嘆きは言葉で述べがたい。その時に、造化を助ける政治があれば、右の損失は捨たらずに、人々の有(財産)になったはずなのに、時務(その時の務め)を申す人がなかったので、捨たって天下の困窮となった。 問う。右のようであれば、諸国の損益は大きい。計算にもかからないほどの金銀であろう。諸国にそれほどの金銀はあるはずがない。どうか。 答える。日本国中の借金の高は、有り金の百倍にも過ぎるだろう。だから損益ともにこのように大きいのである。

解説

豊年が続くと米の値が下がり、領主も家臣も民も収入が減って損をする。蕃山は、その損失を大名や家中、町人ごとに銀の額で見積もってみせます。十万石の大名で年に三千五百貫目、五年で一万七千五百貫目という数字を挙げ、時務を述べる人がいなかったために、損が天下の困窮に変わったと嘆きます。数字で損失を可視化して原因を示す手法は、現代の経営分析に通じます。損の大きさと原因が見えて初めて、対策の必要が実感できるという点も教訓的です。
『人生の方程式』の表紙

人生を、一行の式にしてみた。

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この章句が説くこと

豊年米価下落損失の見積もり借金浪人時務

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