智囊 / 狡黠・假皇帝
唐懿宗屢微行游寺觀。奸民聞大安國寺有江淮進奏官寄吳綾千匹在院,於是暗集其群,內選一人肖上之狀者,衣上私行之服,多以龍腦諸香薰襲,引二三小僕,潛入寄綾小院。其時有丐者一二人至,假服者遺之而去,逡巡,諸色丐求之人接跡而至,給之不暇,假服者謂院僧曰:「院中有何物可借之。」僧未諾間,小僕擲眼向僧,僧驚駭,曰:「櫃內有人寄綾千匹,唯命是聽。」於是啟櫃罄而給之,小僕謂僧曰:「來早於朝門相覓,可奏引入內,所酬不輕。」假服者遂跨衛而去,僧自是經月訪於內門,杳無所見,乃知群丐並是奸黨。
新字:唐懿宗屡微行游寺観。奸民聞大安国寺有江淮進奏官寄呉綾千匹在院,於是暗集其群,内選一人肖上之状者,衣上私行之服,多以竜脳諸香薫襲,引二三小僕,潜入寄綾小院。其時有丐者一二人至,仮服者遺之而去,逡巡,諸色丐求之人接跡而至,給之不暇,仮服者謂院僧曰:「院中有何物可借之。」僧未諾間,小僕擲眼向僧,僧驚駭,曰:「櫃内有人寄綾千匹,唯命是聴。」於是啓櫃罄而給之,小僕謂僧曰:「来早於朝門相覓,可奏引入内,所酬不軽。」仮服者遂跨衛而去,僧自是経月訪於内門,杳無所見,乃知群丐並是奸党。
書き下し
唐の懿宗、屡々微行して寺観に游ぶ。奸民、大安国寺に江淮進奏官の寄する呉綾千匹の院に在るを聞く。是に於いて暗に其の群を集め、内より一人の上の状に肖たる者を選び、上の私行の服を衣せ、多く龍脳の諸香を以て薫襲し、二三の小僕を引き、潜かに寄綾の小院に入る。其の時、丐者の一二人至る有り。仮服の者之に遺りて去る。逡巡して、諸色の丐求の人、跡を接して至り、給すること暇あらず。仮服の者、院僧に謂いて曰く、「院中に何物か有る、之を借るべきや」と。僧未だ諾せざる間に、小僕、眼を僧に擲つ。僧驚駭して曰く、「櫃内に人の綾千匹を寄する有り。唯だ命のままに聴かん」と。是に於いて櫃を啓き、罄して之を給す。小僕、僧に謂いて曰く、「来早に朝門にて相い覓めよ。奏して引き入れて内に入るべし。酬ゆる所は軽からず」と。仮服の者、遂に衛に跨がりて去る。僧は是より経月、内門に訪ぬるも、杳として見る所無し。乃ち群丐は並びに是れ奸党なるを知る。
現代語訳
唐の懿宗は、たびたびお忍びで寺や道観に遊びに出かけた。悪者たちは、大安国寺に、江淮の進奏官が預けた呉の綾織物千匹が院の中にあると聞きつけた。そこでひそかに仲間を集め、その中から皇帝に姿が似ている者を一人選び、皇帝のお忍びの服を着せ、龍脳などの香を何種類も焚きしめ、二、三人の小者を連れて、ひそかに綾織物を預けてある小さな院に入り込んだ。そのとき、物乞いが一人二人来た。偽の皇帝は金品を与えて去らせた。しばらくすると、さまざまな物乞いが次々に絶え間なく来て、与えるのに忙しいほどになった。偽の皇帝は院の僧に言った。「この院に何か物はあるか、それを借りられるだろうか」。僧がまだ承知しないうちに、小者が僧に目配せをした。僧は驚いて言った。「櫃の中に、人が預けた綾千匹があります。どうぞお命じのままに」。そこで櫃を開け、ことごとく与えた。小者は僧に言った。「明朝、宮城の門で私を探しなさい。奏上して宮中に連れて行ってやる。褒美は軽くない」。偽の皇帝は馬に乗って護衛を従えて去った。僧はその後ひと月、宮門を訪ね歩いたが、手がかりはなかった。そこでようやく、物乞いたちがみな悪党の仲間だったと知った。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『智囊』狡黠・京邸假宦官嘉靖の間、一士人京邸に候選す。官有りと雖も、久客にして橐空し。千金を貸さんと欲し、故の遊客と談ず。数日にして命を報じて曰く、「某中貴、爾に五百を允す」と。士人猶お少なきを恨む。客曰く、「凡そ貸す者は例として厚贄を以て先にす。内相は性、諛を喜ぶ。苟くも其の歓を得れば、益を請うこと難きに非ず」と。士人拮据して、器幣を湊貨し、約そ百金に値す。期して入謁し、門に及ぶ。堂軒は巨麗にして、蒼頭・廬児は皆綺縞を曳く。両壁の米袋は棟に充ち、皆「御用」の字有り。久しくして主人出づ。壮横にして肥え、両童子の頭を以て背に抵えて行く。礼を享けて微笑し、八百を貸すを許す。廬児曰く、「已に晩し、須らく明日たるべし」と。主人これを可とす。士人既に出で、喜び自ら勝えず。客復た耳に属して曰く、「当に早く至るべし。我は此に俟たん」と。明に及んで往くに、寥然たる空宅にして、堂下に煤土の両堆、皆袋の傾く所なり。主宅の者に問うに、曰く、「昨、内相の宅を賃ること半日。知らず是れ誰何ぞ」と。客も亦た跡を滅す。方に其の詐を悟る。
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『智囊』狡黠・江南士子科は嘗て人の為に公事を居間す。其の人は約して公所に物を封ず、正に較量する次、一跛丐有り、右に杖を持ち、左に竹籃を携え、籃内に破衣有り、挨り入りて乞賞す。科は零星を掂りて之に与うるに、丐は少なきを嫌う、科は佯り怒り、元宝一錠を取りて籃中に擲ち、叱して曰く、「汝は此を欲するか」と。丐は悚懼して曰く、「財主は添えざれば則ち已む、何ぞ必ずしも怒らん」と、双手に宝を捧げて几上に置きて去る。後に事諧わず、其の人は封を啓くに、則ち元宝は乃ち偽物にして、向の丐者の為に易え去られたり、丐者は即ち科の党の仮る所なり。〔述〕蘇城は四方輻湊の地、騙局甚だ多し。曾て記す万暦季年、徽人の叔姪の墳を争う事有り、結訟すること数年、其の姪は先に人の郡の司理に通ずる有り、撫台に於いて一詞を准して之を発せんと欲す。忽ち某公子の閶門外に寓する有り、是れ撫公の年姪なりと云い、衣冠甚だ偉に、僕従も亦た都なり。徽姪は往きて拝し、因りて之を邀えて飲む。偶ま此の事を談及するに、公子は一力して承当す。遂に物を封じて質と為し、期に及びて、公子は公服し、訟詞を取りて袖中に納れ、径ちに撫台の門に入る、徽姪は外より之を伺うに、忽ち公事已に畢りて門閉ざされたり、意うに撫公は公子を留めて餐せしめんと。門役に詢うも、俱に知る莫し、乃ち晩衙に、公子は人叢の中より酒容にして出で、意気揚揚として、云う、「撫公の相待つこと頗る厚く、請う所已に諧えり」と。徽の寓に抵り、官封を袖中より出だすに、印識は宛然たり。
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『智囊』靈變・張佳胤張佳胤は滑に令たり。巨盗の任敬、高章は、偽りて錦衣使と称して来たり謁え、直ちに堂階に入り、北に向かいて立つ。公は心に怪しみ、案を判ずること故の如し。敬は声を厲しくして曰く、「此れ何の時ぞ、大尹は猶お倨りて使臣に見ゆるか」と。公は稍や容を動かし、席を避けてこれを迎う。敬曰く、「身は旨を奉ず、揖するを得ず」と。公曰く、「旨は我を逮するか」と。命じて香案を設けしむ。敬は耳に附して曰く、「公を逮するに非ず、耿主事の家を没せんと欲するのみ」と。時に滑の人の耿隨朝というもの有り、戸曹に任じ、草場の火に坐して獄に繋がる。
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『智囊』狡黠・竊磬賊・假跛書生・假斷腳偷郷の一老嫗、向に経を誦す。古銅の磬有り。一賊、石塊を以て包を作り、之を負いて媼の門外に至る。人問う、「何物ぞ」と。曰く、「銅磬なり。将に鬻がんとするのみ」と。門に入りて人無きを見て、石を地に棄て、磬を負いて門内に反向して曰く、「磬を買わんと欲するか」と。曰く、「家に自ずから有り」と。賊、磬を包み、復た負いて出づ。内外皆覚らず。閶門に匠有り、肆に金を鑿つ。忽ち一士人、巾服甚だ偉にして、跛曳して来たり、自ら語りて曰く、「暴令は小過を以て我を毒撻す。我必ず之に報いん」と。因りて袖より一大膏薬を出し、炉次に薫じ、将に以て瘡を治せんとする者の若し。其の熔化するを俟ち、急ぎ匠の面孔に糊す。匠、熱を畏れ、手を援きて之を取る。其の人、即ち金を持ちて奔り去る。又一家、門に米袋を集む。忽ち躄者有り、腹を垂るること甚だ大にして、其の足を盤旋して来たり、米袋の上に坐す。衆の共に観るも、何に由るかを知らず。米一袋を胯下に匿し、復た盤旋して去る。後に米を失い、始めて之を知る。蓋し其の腹は襯塞して成り、而して躄も亦た偽りなり。
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