智囊 / 狡黠・京師騙子
胠篋唯京師最黠,有盜能以一錢誆百金者。作貴游衣冠,先詣馬市,呼賣胡牀者,與一錢,戒曰:「吾即乘馬,爾以胡牀侍。」其人許諾,乃謂馬主:「吾欲市駿,試可乃論價。」馬主謹奉羈的,其人設胡牀,盜上馬,疾馳而去。馬主初意設胡牀者其僕也,已知其非,乃亟追之。盜逕扣官店,維馬於門,云:「吾某太監家下,欲緞匹若干,以馬為質,用則奉價。」店賭良馬,不之疑,如數畀之。負而去,俄而馬主蹤跡至店,與之爭馬,成訟。有司不能決,為平分其馬價云。
新字:胠篋唯京師最黠,有盗能以一銭誆百金者。作貴游衣冠,先詣馬市,呼売胡牀者,与一銭,戒曰:「吾即乗馬,爾以胡牀侍。」其人許諾,乃謂馬主:「吾欲市駿,試可乃論価。」馬主謹奉羈的,其人設胡牀,盗上馬,疾馳而去。馬主初意設胡牀者其僕也,已知其非,乃亟追之。盗逕扣官店,維馬於門,云:「吾某太監家下,欲緞匹若干,以馬為質,用則奉価。」店賭良馬,不之疑,如数畀之。負而去,俄而馬主蹤跡至店,与之争馬,成訟。有司不能決,為平分其馬価云。
書き下し
胠篋は唯だ京師、最も黠なり。盗に能く一銭を以て百金を誆く者有り。貴游の衣冠を作し、先ず馬市に詣り、胡牀を売る者を呼び、一銭を与え、戒めて曰く、「吾即ち馬に乗らん。爾は胡牀を以て侍せよ」と。其の人許諾す。乃ち馬主に謂う、「吾は駿を市わんと欲す。試みて可なれば乃ち価を論ぜん」と。馬主、謹んで羈的を奉ず。其の人、胡牀を設く。盗、馬に上り、疾く馳せて去る。馬主、初めは意に胡牀を設くる者は其の僕なりと為す。已にして其の非なるを知り、乃ち亟かに之を追う。盗は逕ちに官店を叩き、馬を門に維ぎ、云う、「吾は某太監の家下なり。緞匹若干を欲す。馬を以て質と為し、用い畢らば価を奉ぜん」と。店、良馬を睹て、之を疑わず、数の如く之を畀う。負いて去る。俄にして馬主の跡して店に至り、之と馬を争いて訟を成す。有司決すること能わず、為に其の馬価を平分すと云う。
現代語訳
こそ泥の中でも、とくに都の者は悪賢い。わずか一銭で百金をだましとる泥棒がいた。身分の高い者の衣冠を整え、まず馬市に行って、腰かけの胡牀を売る男を呼び、一銭を与えて言い含めた。「私はこれから馬に乗る。お前は胡牀を持って付き添え」。その男は承知した。次に馬の持ち主に言った。「私は良い馬を買いたい。試し乗りしてよければ値段の話をしよう」。馬主は恭しく手綱と轡を差し出した。胡牀売りの男が胡牀を据え、泥棒は馬に乗り、猛然と走り去った。馬主は最初、胡牀を据えたのは泥棒の召使いだと思っていた。やがてそうではないと知り、急いで追いかけた。泥棒はまっすぐ官営の店を訪ね、馬を門につなぎ、言った。「私はある太監の家の者だ。絹織物が何反か欲しい。馬を担保にして、用が済んだら代金を持ってこよう」。店は良い馬を見て疑わず、希望どおりに渡した。泥棒は背負って去った。まもなく、馬主が足跡をたどって店に来て、馬をめぐって争い、訴訟になった。役所はこれを裁けず、馬の価格を二人で半分ずつ分けさせたという。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『智囊』狡黠・京邸假宦官嘉靖の間、一士人京邸に候選す。官有りと雖も、久客にして橐空し。千金を貸さんと欲し、故の遊客と談ず。数日にして命を報じて曰く、「某中貴、爾に五百を允す」と。士人猶お少なきを恨む。客曰く、「凡そ貸す者は例として厚贄を以て先にす。内相は性、諛を喜ぶ。苟くも其の歓を得れば、益を請うこと難きに非ず」と。士人拮据して、器幣を湊貨し、約そ百金に値す。期して入謁し、門に及ぶ。堂軒は巨麗にして、蒼頭・廬児は皆綺縞を曳く。両壁の米袋は棟に充ち、皆「御用」の字有り。久しくして主人出づ。壮横にして肥え、両童子の頭を以て背に抵えて行く。礼を享けて微笑し、八百を貸すを許す。廬児曰く、「已に晩し、須らく明日たるべし」と。主人これを可とす。士人既に出で、喜び自ら勝えず。客復た耳に属して曰く、「当に早く至るべし。我は此に俟たん」と。明に及んで往くに、寥然たる空宅にして、堂下に煤土の両堆、皆袋の傾く所なり。主宅の者に問うに、曰く、「昨、内相の宅を賃ること半日。知らず是れ誰何ぞ」と。客も亦た跡を滅す。方に其の詐を悟る。
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『智囊』狡黠・江南士子科は嘗て人の為に公事を居間す。其の人は約して公所に物を封ず、正に較量する次、一跛丐有り、右に杖を持ち、左に竹籃を携え、籃内に破衣有り、挨り入りて乞賞す。科は零星を掂りて之に与うるに、丐は少なきを嫌う、科は佯り怒り、元宝一錠を取りて籃中に擲ち、叱して曰く、「汝は此を欲するか」と。丐は悚懼して曰く、「財主は添えざれば則ち已む、何ぞ必ずしも怒らん」と、双手に宝を捧げて几上に置きて去る。後に事諧わず、其の人は封を啓くに、則ち元宝は乃ち偽物にして、向の丐者の為に易え去られたり、丐者は即ち科の党の仮る所なり。〔述〕蘇城は四方輻湊の地、騙局甚だ多し。曾て記す万暦季年、徽人の叔姪の墳を争う事有り、結訟すること数年、其の姪は先に人の郡の司理に通ずる有り、撫台に於いて一詞を准して之を発せんと欲す。忽ち某公子の閶門外に寓する有り、是れ撫公の年姪なりと云い、衣冠甚だ偉に、僕従も亦た都なり。徽姪は往きて拝し、因りて之を邀えて飲む。偶ま此の事を談及するに、公子は一力して承当す。遂に物を封じて質と為し、期に及びて、公子は公服し、訟詞を取りて袖中に納れ、径ちに撫台の門に入る、徽姪は外より之を伺うに、忽ち公事已に畢りて門閉ざされたり、意うに撫公は公子を留めて餐せしめんと。門役に詢うも、俱に知る莫し、乃ち晩衙に、公子は人叢の中より酒容にして出で、意気揚揚として、云う、「撫公の相待つこと頗る厚く、請う所已に諧えり」と。徽の寓に抵り、官封を袖中より出だすに、印識は宛然たり。
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『智囊』詰奸・某京師指揮京師に盗有り、一家を劫かし、一冊を遺す。旦に之を視れば、尽く富室の子弟の名なり。書に曰く、「某日、某甲、某地に会飲して事を議す」と。或いは「聚博して娼を挟む」云云と、凡そ二十条。以て官に白す。冊に按じて捕え至るに、皆な桚弛の少年なり。良に以て是なりと為す。各おの父母は諸児の素より不逞なるを謂い、亦た頗る自ら疑う。群少の飲博する諸事の悉く実なるに及び、蓋し盗は毎に偵して之を籍せしなり。少年は榜毒に勝えず、誣いて服す。賄の所在を訊すに、浪りに言う、「郊外の某処に埋む」と。之を発けば悉く獲たり。諸少相顧みて駭愕して云う、「天、我を亡ぼす」と。遂に案を結び決を伺う。一指揮、之を疑いて其の故を得ず。沈思すること良や久しくして曰く、「我が左右の中に一髯有り、職は馬を豢うのみ。何ぞ斯の獄を訊するたびに輒ち侍側するを得んや」と。因りて復た囚を引きて鞫すること数四、察するに髯は必ず至り、他は則ち否なり。猝かに呼びて問えば、髯は他無しと辞す。即ち炮烙の具を取らしむれば、髯は叩頭して左右を屏けんことを請い、乃ち曰く、「初め事の本末を知らず。唯だ盗、奴に賂し、斯の獄を治むる毎に、必ず公と囚との言を記して馳せ報ぜしめ、我に百金を酬ゆるを許せり」と。乃ち知る、発く所の贓は、皆な報を得て宵に瘞めしことを。髯、賊を擒えて自ら贖わんことを請う。指揮、数兵をして雑衣して与に往かしむ。僻境に至り、悉く之を擒え、諸少乃ち釈かるるを得たり。
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