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智囊 / 雄略・苻堅妻

堅妻張氏,明辨,有才識。堅將寇晉,群臣切諫不從,張氏進曰:「妾聞聖王御天下,莫不因其性而鬯之,湯、武滅夏、商,因民欲也,是以有因成,無因敗。今朝臣上下,皆言不可,陛下復何所因乎?術士有言:『雞夜鳴者,不利行師;犬群嗥者,宅室必空。兵動馬驚,軍敗不歸。』秋冬以來,每夜犬嗥雞鳴,又聞廄馬驚逸,武庫兵器,無故作聲,即天道崇遠,非妾所知;遽斯人事,未見其可,願陛下熟思之。」堅曰:「軍旅之事,豈婦人所知?」遂興兵,張氏請從。堅敗,張氏即自殺。

新字:堅妻張氏,明弁,有才識。堅将寇晋,群臣切諫不従,張氏進曰:「妾聞聖王御天下,莫不因其性而鬯之,湯、武滅夏、商,因民欲也,是以有因成,無因敗。今朝臣上下,皆言不可,陛下復何所因乎?術士有言:『鶏夜鳴者,不利行師;犬群嗥者,宅室必空。兵動馬驚,軍敗不帰。』秋冬以来,毎夜犬嗥鶏鳴,又聞廄馬驚逸,武庫兵器,無故作声,即天道崇遠,非妾所知;遽斯人事,未見其可,願陛下熟思之。」堅曰:「軍旅之事,豈婦人所知?」遂興兵,張氏請従。堅敗,張氏即自殺。

書き下し

堅の妻張氏は、明辨にして、才識があった。堅が将に晋を寇そうとするとき、群臣が切諫したが従わなかった。張氏が進んで言った、「妾は聞きます、聖王が天下を御するには、その性に因ってこれを暢べないことはなく、湯、武が夏、商を滅ぼしたのは、民の欲に因ったからで、それゆえ因があれば成り、因がなければ敗れます。いま朝臣は上下みな不可と言います。陛下はまた何に因るのですか。術士は言います、『雞が夜に鳴けば、師を行るに利しからず。犬が群れて嗥えば、宅室は必ず空しくなる。兵が動き馬が驚けば、軍は敗れて帰らない』と。秋冬以来、毎夜犬が嗥き雞が鳴き、また廄の馬が驚き逸れ、武庫の兵器が故なく声を作すのを聞きます。天道は崇遠で妾の知る所ではありませんが、これを人事に遽がせるなら、まだ可なるを見ません。願わくは陛下は熟思ください。」堅は言った、「軍旅の事は、どうして婦人の知る所か。」ついに兵を興し、張氏は従軍を請うた。堅が敗れると、張氏はただちに自殺した。

現代語訳

苻堅の妻の張氏は、道理に明るく、才識があった。堅が晋に攻め込もうとしたとき、群臣は強く諫めたが、堅は従わなかった。張氏が進み出て言った。「私は、聖王が天下を治めるには、民の本性に従ってそれを伸ばさないことはなく、湯王と武王が夏と商を滅ぼしたのも民の望みに従ったからで、だから民の支えがあれば成功し、なければ失敗すると聞いております。いま朝廷の臣は上から下までみな不可と申しています。陛下は何を拠りどころにされるのですか。術士は『鶏が夜に鳴けば、軍を動かすのに不利。犬が群れて吠えれば、家は必ず空になる。兵が動き馬が驚けば、軍は敗れて帰らない』と言います。秋から冬にかけて、毎夜犬が吠え鶏が鳴き、また厩の馬が驚いて逃げ出し、武器庫の兵器が理由もなく音を立てると聞いております。天道は高遠で私の知るところではありませんが、人事に当てはめてみても、まだ可とする理由が見えません。どうか陛下、よくお考えください。」堅は言った。「軍事は婦人の知ることではない。」ついに兵を起こし、張氏は従軍を願い出た。堅が敗れると、張氏はすぐに自殺した。

解説

張氏は、天命の問題を持ち出す前に、民の望みに従うことが成功の条件だと基本原則を述べ、朝臣の反対が上下でそろっている事実を突きました。縁起の話は補助的に挙げるにとどめ、人事の観点から根拠がないと指摘しています。結局、堅は婦人の知る所ではないと退け、淝水で敗北を迎えました。馮夢龍がこの話に評を付けていない点も含め、確かな主張が聞き入れられなかった例といえます。経営者が、周囲の全員が反対している計画を、自分の信念だけで進めようとするとき、反対の声が多い事実自体が重い判断材料であることを教えます。身分や性別を理由に助言を退けるのは、損失の大きい習慣です。

この章句が説くこと

朝臣上下皆言不可因民欲豈婦人所知反対意見経営判断傲慢

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