智囊 / 制勝・陶魯
天順初,韓襄毅公征廣東峒賊,憂其險阻難下,方食躊躇,適新會丞陶魯直膳在側,公顧之,問曰:「丞揣我何意?」魯曰:「得非謀賊耶?」雍曰:「然,丞能為我擊賊否?」曰:「匪直能,且易耳。」公怒曰:「吾部下文武百千人,熟視無可當吾寄者,若妄言,合笞!」魯不拜,抗言曰:「夫賊難攻者,非賊難也,我難其攻賊者也。公特未悉我能耳。」公異之,改容問曰:「若所將幾何而辦?」曰:「三百人足矣。」公曰:「何少也?」曰:「兵在精不在多。」公曰:「唯汝擇。」魯乃標式曰:「孰能力舉百鈞,矢射二百步者。」軍士凡十五萬,其比於式者,才二百五十人,曰:「未也。」復下令募數日,始足,魯乃為別將,日操練陣法,勞以牛酒,甘苦共之。士樂為死,率以先登,大破賊,斬首無算,所得賊穴中金帛,悉分給三百人,己無與者。賊聞陶家軍至,不遁即降,無敢抗。語有之:「一夫決,萬夫避。」況三百人乎?
新字:天順初,韓襄毅公征広東峒賊,憂其険阻難下,方食躊躇,適新会丞陶魯直膳在側,公顧之,問曰:「丞揣我何意?」魯曰:「得非謀賊耶?」雍曰:「然,丞能為我撃賊否?」曰:「匪直能,且易耳。」公怒曰:「吾部下文武百千人,熟視無可当吾寄者,若妄言,合笞!」魯不拝,抗言曰:「夫賊難攻者,非賊難也,我難其攻賊者也。公特未悉我能耳。」公異之,改容問曰:「若所将幾何而辦?」曰:「三百人足矣。」公曰:「何少也?」曰:「兵在精不在多。」公曰:「唯汝択。」魯乃標式曰:「孰能力舉百鈞,矢射二百歩者。」軍士凡十五万,其比於式者,才二百五十人,曰:「未也。」復下令募数日,始足,魯乃為別将,日操練陣法,労以牛酒,甘苦共之。士楽為死,率以先登,大破賊,斬首無算,所得賊穴中金帛,悉分給三百人,己無与者。賊聞陶家軍至,不遁即降,無敢抗。語有之:「一夫決,万夫避。」況三百人乎?
書き下し
天順の初め、韓襄毅公、廣東の峒賊を征す。其の險阻にして下し難きを憂え、食に方りて躊躇す。適々新會の丞陶魯、膳を直して側に在り。公、之を顧みて問いて曰く、「丞、我が何の意なるかを揣るか」と。魯曰く、「賊を謀るに非ざるを得んや」と。雍曰く、「然り。丞、能く我が為に賊を撃つや否や」と。曰く、「直に能くするのみに匪ず、且つ易きのみ」と。公怒りて曰く、「吾が部下の文武は百千人、熟視するも吾が寄に當たる者無し。若し妄言せば、笞に合う」と。魯拜せず、抗言して曰く、「夫れ賊の攻め難きは、賊の難きに非ず、我が其の賊を攻むる者を難しとするなり。公は特に未だ我が能を悉さざるのみ」と。公之を異とし、容を改めて問う、「若、將いる所は幾何にして辦ぜんや」と。曰く、「三百人にて足れり」と。公曰く、「何ぞ少なきや」と。曰く、「兵は精に在りて多きに在らず」と。公曰く、「唯だ汝の擇ぶままにせよ」と。魯乃ち標式して曰く、「孰か能く力もて百鈞を舉げ、矢もて二百步を射る者ぞ」と。軍士は凡そ十五萬、其の式に比する者は才かに二百五十人。曰く、「未だし」と。復た令を下して募ること數日、始めて足る。魯乃ち別將と為り、日々陣法を操練し、勞うに牛酒を以てし、甘苦を共にす。士、死を樂しみ、率ね以て先登し、大いに賊を破り、斬首すること無算。得る所の賊穴中の金帛は、悉く三百人に分給し、己は與ること無し。賊、陶家軍の至るを聞けば、遁げずんば則ち降り、敢えて抗する無し。語に之れ有り、「一夫決すれば、萬夫避く」と。況んや三百人をや。
現代語訳
天順の初め、韓襄毅公雍は、広東の山地の賊を討伐しようとしていました。その険しさに攻め落とすのは難しいと憂え、食事の最中にもためらっていました。そのとき、たまたま新会の県丞の陶魯が配膳の係としてそばにいました。韓雍は陶魯を見て尋ねました。「県丞、私が何を考えているか察せるか」。陶魯は「賊を討つ計画ではありませんか」と答えました。韓雍は「そのとおりだ。県丞、私のために賊を撃てるか」と言いました。陶魯は「できるだけでなく、たやすいことです」と答えました。韓雍は怒って言いました。「私の部下の文官武官は何百何千といるが、じっと見渡しても任せられる者がいない。もしでたらめを言うなら、笞打ちにするぞ」。陶魯は拝礼せず、堂々と言いました。「賊が攻めにくいのは、賊が手強いからではなく、賊を攻める人材が得難いからです。閣下はまだ私の力をご存じないだけです」。韓雍はこれを不思議に思い、態度を改めて尋ねました。「そなたはどれだけの兵を率いれば成し遂げられるのか」。「三百人で足ります」。「なぜそんなに少ないのか」。「兵は精鋭であることが大切で、多いことが大切ではありません」。韓雍は言いました。「そなたの選ぶままにせよ」。陶魯はそこで基準を示して言いました。「力で百鈞を持ち上げ、矢を二百歩射られる者はいるか」。軍士は全部で十五万人いましたが、基準に合ったのはわずか二百五十人でした。陶魯は「まだ足りない」と言い、さらに命令を出して数日募集して、やっと足りました。陶魯は別将となり、毎日陣法を訓練し、牛肉と酒でねぎらい、苦楽を共にしました。兵たちは死を厭わず、ほとんどが先頭に立って進み、賊を大いに破り、斬った首は数え切れないほどでした。賊の巣穴で得た金や絹は全部三百人に分け与え、自分は一切受け取りませんでした。賊は陶家軍が来ると聞くと、逃げなければ降伏し、あえて抵抗する者はいませんでした。ことわざに「一人が決死の覚悟を決めれば、万人が避ける」とあります。まして三百人ならなおさらです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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呉子・図国篇武侯問いて曰く、「願わくは兵を治め、人を料り、国を固むるの道を聞かん」と。起対えて曰く、「古の明王は、必ず君臣の礼を謹み、上下の儀を飾り、吏民を安集し、俗に順いて教え、良材を簡び募りて、以て不虞に備う。昔、斉の桓公は士五万を募りて、以て諸侯に霸たり。晋の文公は召して前行と為すこと四万、以て其の志を獲たり。秦の繆公は陥陳三万を置きて、以て鄰敵を服せしむ。故に強国の君は、必ず其の民を料る。民に胆勇気力有る者は、聚めて一卒と為す。進みて戦い力を効し、以て其の忠勇を顕すを楽しむ者は、聚めて一卒と為す。能く高きを踰え遠きを超え、足軽くして善く走る者は、聚めて一卒と為す。王臣にして位を失い、功を上に見さんと欲する者は、聚めて一卒と為す。城を棄て守りを去り、其の醜を除かんと欲する者は、聚めて一卒と為す。此の五者は、軍の練鋭なり。此の三千人有らば、内より出でては以て囲みを決すべく、外より入りては以て城を屠るべし」と。
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『韓非子』飾邪第十九治の数に明らかならば、則ち國は小なりと雖も富み、賞罰、敬信ならば、民寡しと雖も強し。
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葉隠・聞書第十一前にて兵の多少に依らず、究竟の士五六人を合はせ槍を入るれば、一方突崩すものなりと、沙汰(さた)これあり候由。
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呉子・応変篇武侯問いて曰く、左右に高山あり、地甚だ狭迫にして、卒かに敵人に遇い、之を撃たんとするも敢えてせず、之を去らんとするも得ず、之を奈何せん、と。起対えて曰く、此を谷戦と謂う。衆しと雖も用いられず。吾が材士を募りて敵と相当たらしめ、輕足利兵を以て前行と為す。車を分ち騎を列ねて四旁に隠し、相去ること数里、其の兵を見わすこと無くば、敵必ず陳を堅くし、進退敢えてせず。是に於て旌を出し旆を列ね、行きて山外に出でて之に営せば、敵人必ず懼れん。車騎もて之に挑み、休むを得しむること勿かれ。此れ谷戦の法なり、と。
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易経・損卦事を已めて遄やかに往くとは、上(かみ)と志を合するなり。九二の貞に利ありとは、中以て志と為すなり。一人行くとは、三なれば則ち疑はるるなり。其の疾を損すとは、亦喜ぶべきなり。六五の元吉は、上より佑(たす)くればなり。損せずして之を益すとは、大いに志を得るなり。
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戦国策・趙惠文王三十年趙の惠文王三十年、相の都平君田單、趙奢に問いて曰く、「吾は将軍の兵法を説(よろこ)ばざるに非ざるなり。服せざる所以の者は、独り将軍の衆を用うるのみ。衆を用うる者は、民をして耕作するを得ざらしめ、糧食輓賃給すべからず。此れ坐して自ら破るの道なり、単の為す所に非ざるなり。単之を聞く、帝王の兵は、用うる所の者三万に過ぎずして、天下服す、と。今将軍は必ず十万、二十万の衆を負いて乃ち之を用う、此れ単の服せざる所なり」と。馬服曰く、「君は徒だに兵に達せざるのみに非ず、又た其の時勢に明らかならず。夫れ呉干の剣は、肉に試みれば則ち牛馬を断ち、金に試みれば則ち盤匜を截る。之を柱上に薄りて撃てば、則ち折れて三と為り、之を石上に質てて撃てば、則ち砕けて百と為る。今三万の衆を以て強国の兵に応ずるは、是れ柱に薄り石を撃つの類なり。且つ夫れ呉干の剣材、脊の厚き無きに難みて、鋒入らず、脾の薄き無きに、刃断たず。是の両者を兼ね有するも、釣・鐔・蒙須の便無くんば、其の刃を操りて刺せば、則ち未だ入らずして手断たれん。君に十余、二十万の衆無くして、此の釣・鐔・蒙須の便を為さんとし、徒だに三万を以て天下に行かんとす、君焉んぞ能くせんや。且つ古は、四海の内、分かちて万国と為る。城大なりと雖も、三百丈に過ぐる者無く、人衆しと雖も、三千家に過ぐる者無し。而して兵三万を集むるを以て、此を距ぐこと奚ぞ難からんや。今古の万国たる者を取りて、分かちて戦国七と為し、能く数十万の兵を具え、日を曠しくし久しきを持し、数歳にして、即ち君の斉のごとし。斉は二十万の衆を以て荊を攻め、五年にして乃ち罷む。趙は二十万の衆を以て中山を攻め、五年にして乃ち帰る。今は、斉・韓相方しく、而して国之を囲み攻む、豈に敢えて曰わんや、我其れ三万を以て是れを救わんと。今千丈の城、万家の邑相望むなり。而して三万の衆を以て索め、千丈の城を囲めば、其の一角をも存せず、而して野戦は用うるに足らず。君将に此を以て何くにか之かんとするか」と。都平君喟然として太息して曰く、「単至らざるなり」と。
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