智囊 / 靈變・某教諭
有御史罪其縣令。縣令密使嬖兒侍御史,御史昵之,遂乘機竊其篋中篆去。御史顧篆篋空,心疑縣令所為而不敢發,因稱疾不視事。嘗聞某教諭有奇才,因其問疾,召至牀頭訴之。教諭教御史夜半於廚中發火,火光燭天,郡縣俱赴救。御史持篆篋授縣令,他官各有所護。及火滅,縣令上篆篋,則篆在矣。或云此教諭乃海瑞也,未詳。〔評〕山盡水窮處,忽睹天台、雁蕩、洞庭、彭蠡,想胸中有走盤珠萬斛在。
新字:有御史罪其県令。県令密使嬖児侍御史,御史昵之,遂乗機窃其篋中篆去。御史顧篆篋空,心疑県令所為而不敢発,因称疾不視事。嘗聞某教諭有奇才,因其問疾,召至牀頭訴之。教諭教御史夜半於廚中発火,火光燭天,郡県倶赴救。御史持篆篋授県令,他官各有所護。及火滅,県令上篆篋,則篆在矣。或云此教諭乃海瑞也,未詳。〔評〕山尽水窮処,忽睹天台、雁蕩、洞庭、彭蠡,想胸中有走盤珠万斛在。
書き下し
御史の其の県令に罪を得たる有り。県令は密かに嬖児をして御史に侍せしむ。御史は之を昵み、遂に機に乗じて其の篋中の篆を竊み去る。御史は篆篋の空しきを顧み、心に県令の所為かと疑うも敢えて発せず、因りて疾と称して事を視ず。嘗て某教諭に奇才あるを聞き、其の疾を問うに因りて、召して牀頭に至らしめ、之を訴う。教諭は御史に教えて夜半に廚中にて火を発せしむ。火光は天を燭し、郡県は倶に赴きて救う。御史は篆篋を持して県令に授け、他官は各々護る所有り。火滅するに及び、県令は篆篋を上るに、則ち篆は在り。或いは云う、此の教諭は乃ち海瑞なりと、未だ詳らかならず。〔評〕山尽き水窮まる処に、忽ち天台、雁蕩、洞庭、彭蠡を睹る。想うに胸中に走盤の珠万斛有るならん。
現代語訳
ある御史が、県令に対して罪を責めようとした。県令はこっそり寵童に御史のそばに仕えさせた。御史はその者を可愛がり、その機に乗じて寵童は御史の箱から官印を盗んで去った。御史は印の箱が空なのを見て、県令のしわざではないかと疑ったが、あえて発表せず、病気と称して政務を取らなかった。以前から某教諭に奇抜な才があると聞いていたので、見舞いに来たのをきっかけに、枕元に呼び寄せて訴えた。教諭は御史に、夜中に台所で火を出させるよう教えた。火の光は空を照らし、郡県の役人たちはみな駆けつけて消火に当たった。御史は印の箱を持って県令に預け、他の官もそれぞれ守るものを持っていた。火が消えると、県令が印の箱を返したが、中には印が戻っていた。ある人は、この教諭は海瑞だったと言うが、詳しくは分からない。〔評〕行き詰まった山の果てと水の尽きたところで、突如として天台山、雁蕩山、洞庭湖、彭蠡湖のような広大な景色に出会ったようなものだ。胸の中に、盤の上を走る珠が万斛もあるのだろう。
解説
この章句が説くこと
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『智囊』詰奸・某京師指揮京師に盗有り、一家を劫かし、一冊を遺す。旦に之を視れば、尽く富室の子弟の名なり。書に曰く、「某日、某甲、某地に会飲して事を議す」と。或いは「聚博して娼を挟む」云云と、凡そ二十条。以て官に白す。冊に按じて捕え至るに、皆な桚弛の少年なり。良に以て是なりと為す。各おの父母は諸児の素より不逞なるを謂い、亦た頗る自ら疑う。群少の飲博する諸事の悉く実なるに及び、蓋し盗は毎に偵して之を籍せしなり。少年は榜毒に勝えず、誣いて服す。賄の所在を訊すに、浪りに言う、「郊外の某処に埋む」と。之を発けば悉く獲たり。諸少相顧みて駭愕して云う、「天、我を亡ぼす」と。遂に案を結び決を伺う。一指揮、之を疑いて其の故を得ず。沈思すること良や久しくして曰く、「我が左右の中に一髯有り、職は馬を豢うのみ。何ぞ斯の獄を訊するたびに輒ち侍側するを得んや」と。因りて復た囚を引きて鞫すること数四、察するに髯は必ず至り、他は則ち否なり。猝かに呼びて問えば、髯は他無しと辞す。即ち炮烙の具を取らしむれば、髯は叩頭して左右を屏けんことを請い、乃ち曰く、「初め事の本末を知らず。唯だ盗、奴に賂し、斯の獄を治むる毎に、必ず公と囚との言を記して馳せ報ぜしめ、我に百金を酬ゆるを許せり」と。乃ち知る、発く所の贓は、皆な報を得て宵に瘞めしことを。髯、賊を擒えて自ら贖わんことを請う。指揮、数兵をして雑衣して与に往かしむ。僻境に至り、悉く之を擒え、諸少乃ち釈かるるを得たり。
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『智囊』雄略・邑宰妾万暦中、政務寛緩にして、刑部の囚人の老いて死する者多し。某は郷科にして、北人なり、邑宰と為り、事に坐して詔獄に入る。久しくして雪ぐを得ず、且つ老いたり。己は必ず死せんと分し、而して子無きを自ら傷み、乃ち尽く其の産を鬻ぎ、一室を近き処に営み、愛する所の妾を置き、典獄者に厚く賂して、陰かに出入す。姪有り、頗る不肖にして、稍や其の資を窃み、博場の中に入り、邏者の疑う所と為り、之を窮詰するに、因りて尽く吐く。且つ云う、「家に一青騾子有り、叔の行くには必ず之に乗る。事無ければ則ち出でて賃す。請う騾を以て験と為せ」と。邏者は数日伺うに、果たして其の言の如し。宰は方に妾と中堂に対食するに、群邏至り、驚きて箸を失う。妾は遽かに起ちて迎えて曰く、「翁は胆薄し、相迫る毋かれ。爾が曹、翁と隙有るか」と。曰く、「之無し」と。曰く、「若し然らば、金を多く得んと欲するに過ぎざるのみ。金は我が掌に属す。第だ我に随いて行け。当に以て汝を飽かしむべし」と。邏者は婦人の貌美にして言の甘きを顧み、乃ち一人を留めて宰を守視せしめ、而して群れて妾に尾いて房に入る。妾は臥す所の牀を指して曰く、「金は其の顛に在り」と。小梯を携えて登れば、衆は下より之を謔る。殊に怒らず、笑声外に達す。須臾にして、一匣を捧げて下れば、之を発くに金多し。妾曰く、「未だなり」と。再び一巨箱を捧げて下れば、大鏹実てり。衆は金を攫み、声愈いよ哄し。
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『智囊』見大・楊寓広東布政の徐奇、入覲するに、嶺南の藤簟を載せ、将に以て廷臣に餽らんとす。邏者その単目を獲て以て進む。上これを視るに、楊士奇の名無し。乃ち独りこれを召し、故を問う。士奇曰く、「奇、都給事中より命を受けて広に赴きし時、衆みな詩文を作りて贈行す。故にこの餽有り。臣は時に病有り、作る所無し。然らずんば亦た免れざらん。今、衆の名具わると雖も、受くるや否やは未だ知るべからず。且つ物は甚だ微なり。当に他無きを以てすべし」と。上の意解け、即ち単目を以て中官に付し、これを毀たしめ、一も問う所無し。〔馮述評〕此の単の一たび焚かれて邏者は気を喪い、縉紳の中の許多の禍を省き、且つ人主をして大臣を疑うの心無からしむ。全うする所甚だ大なり。智名無きも、実に大智なり。豈に唯に厚道のみならんや。宋の真宗の時、宮禁の事を言う者を上書する有り。上怒りて、その家を籍し、朝士の与に往還して吉凶を占問するの説を得て、御史に付して状を問わしめんと欲す。王旦、自ら嘗て占問せし所の書を取りて進め、並びに獄に付せんことを請う。上の意浸く解け、公は遂に中書に至り、得たる所の書を悉く焚く。已にして上悔い、復た馳せてこれを取らしむ。公対えて、「已に焚き訖わんぬ」と。乃ち止む。此の事は文貞と相い類し、都て是れ身を捨てて物を救うなり。
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