智囊 / 謬數・洪武中老胥
洪武中,駙馬都尉歐陽某偶挾四妓飲酒。事發,官逮妓急。妓分必死,欲毀其貌以覬萬一之免。一老胥聞之,往謂之曰:「若予我千金,吾能免爾死矣。」妓立予五百金。胥曰:「上位神聖,豈不知若輩平日之侈,慎不可欺,當如常貌哀鳴,或蒙天宥耳。」妓曰:「何如?」胥曰:「若須沐浴極潔,仍以脂粉香澤治面與身,令香遠徹,而肌理妍豔之極。首飾衣服,須以金寶錦鏽,雖私服衣裙,不可以寸素間之。務盡天下之麗,能奪目蕩志則可。」問其詞,曰:「一味哀呼而已。」妓從之。比見上,叱令自陳,妓無一言。上顧左右曰:「榜起殺了。」群妓解衣就縛,自外及內,備極華爛,繒彩珍具,堆積滿地,照耀左右,至裸體,裝束不減,而膚肉如玉,香聞遠近,上曰:「這小妮子,使我見也當惑了,那廝可知。」遂叱放之。
新字:洪武中,駙馬都尉欧陽某偶挟四妓飲酒。事発,官逮妓急。妓分必死,欲毀其貌以覬万一之免。一老胥聞之,往謂之曰:「若予我千金,吾能免爾死矣。」妓立予五百金。胥曰:「上位神聖,豈不知若輩平日之侈,慎不可欺,当如常貌哀鳴,或蒙天宥耳。」妓曰:「何如?」胥曰:「若須沐浴極潔,仍以脂粉香沢治面与身,令香遠徹,而肌理妍艶之極。首飾衣服,須以金宝錦鏽,雖私服衣裙,不可以寸素間之。務尽天下之麗,能奪目蕩志則可。」問其詞,曰:「一味哀呼而已。」妓従之。比見上,叱令自陳,妓無一言。上顧左右曰:「榜起殺了。」群妓解衣就縛,自外及内,備極華爛,繒彩珍具,堆積満地,照耀左右,至裸体,装束不減,而膚肉如玉,香聞遠近,上曰:「這小妮子,使我見也当惑了,那廝可知。」遂叱放之。
書き下し
洪武中、駙馬都尉欧陽某、偶たま四妓を挟んで酒を飲む。事発し、官は妓を逮うこと急なり。妓は必ず死すと分かち、其の貌を毀ちて万一の免を覬わんと欲す。一老胥これを聞き、往きて之に謂いて曰く、「若し我に千金を予えば、吾能く爾の死を免れしめん」と。妓は立ちどころに五百金を予う。胥曰く、「上位は神聖なり。豈に若輩の平日の侈を知らざらんや。慎みて欺く可からず。当に常の貌の如く哀鳴すれば、或いは天宥を蒙らんのみ」と。妓曰く、「何如」と。胥曰く、「若、須らく沐浴して極めて潔くし、仍お脂粉香沢を以て面と身を治め、香をして遠く徹らしめ、而して肌理妍艶の極みなるべし。首飾・衣服は、須らく金宝錦繍を以てし、私服の衣裙と雖も、寸素を以て間うべからず。務めて天下の麗を尽くし、能く目を奪い志を蕩かさば則ち可なり」と。其の詞を問えば、曰く、「一味に哀呼するのみ」と。妓これに従う。上に見ゆるに比び、叱して自ら陳べしむるに、妓は一言も無し。上、左右を顧みて曰く、「榜起して殺せ」と。群妓、衣を解き縛に就く。外自り内に及ぶまで、備に華爛を極め、繒彩珍具は堆積して地に満ち、左右を照耀す。裸体に至るも装束減ぜず、而して膚肉は玉の如く、香は遠近に聞こゆ。上曰く、「這の小妮子、我をして見しめば当に惑うべし。那廝知るべし」と。遂に叱して之を放つ。
現代語訳
洪武年間、駙馬都尉の欧陽某が、たまたま四人の妓女を連れて酒を飲んだ。事が露見し、役所は妓女の逮捕を急いだ。妓女たちは必ず死ぬと覚悟し、顔を傷つけて万が一の赦しを願おうとした。一人の老いた下役がこれを聞き、行って言った。「もし私に千金をくれれば、あなた方が死を免れるようにしてあげよう」。妓女たちはすぐに五百金を渡した。老胥は言った。「皇帝は神聖な方で、あなた方の日頃の贅沢を知らないはずがありません。決して欺いてはなりません。普段どおりの姿で哀れに泣けば、あるいは天の許しを受けられるでしょう」。妓女が「どうすればよいのか」と尋ねると、老胥は言った。「必ず沐浴して清潔にし、さらに白粉や香油で顔と体を整え、香りが遠くまで届き、肌理が美しさの極みに至るようにしなさい。髪飾りや衣服は金や宝石、錦や刺繍にし、私服の衣裳であっても、一寸の地味な布も混ぜてはならない。つとめて天下の美を尽くし、目を奪い心をとろけさせる程度になれば良い」。言うべき言葉を尋ねると、「ひたすら哀れに叫ぶだけでよい」と答えた。妓女たちはこれに従った。皇帝に会うと、自ら申し述べるよう叱られたが、妓女たちは一言も発しなかった。皇帝は左右を見て言った。「引き出して殺せ」。妓女たちは衣を脱いで縛られた。外側から内側まで華やかさを極め、色絹や珍しい装身具は地に積もって左右を照らした。裸になっても装いの美しさは減らず、肌は玉のようで、香りは遠近に漂った。皇帝は言った。「この娘たちは、私が見ても惑うであろう。あの男が惑うのも無理はない」。そう叱って彼女たちを釈放した。
解説
この章句が説くこと
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『智囊』雄略・邑宰妾万暦中、政務寛緩にして、刑部の囚人の老いて死する者多し。某は郷科にして、北人なり、邑宰と為り、事に坐して詔獄に入る。久しくして雪ぐを得ず、且つ老いたり。己は必ず死せんと分し、而して子無きを自ら傷み、乃ち尽く其の産を鬻ぎ、一室を近き処に営み、愛する所の妾を置き、典獄者に厚く賂して、陰かに出入す。姪有り、頗る不肖にして、稍や其の資を窃み、博場の中に入り、邏者の疑う所と為り、之を窮詰するに、因りて尽く吐く。且つ云う、「家に一青騾子有り、叔の行くには必ず之に乗る。事無ければ則ち出でて賃す。請う騾を以て験と為せ」と。邏者は数日伺うに、果たして其の言の如し。宰は方に妾と中堂に対食するに、群邏至り、驚きて箸を失う。妾は遽かに起ちて迎えて曰く、「翁は胆薄し、相迫る毋かれ。爾が曹、翁と隙有るか」と。曰く、「之無し」と。曰く、「若し然らば、金を多く得んと欲するに過ぎざるのみ。金は我が掌に属す。第だ我に随いて行け。当に以て汝を飽かしむべし」と。邏者は婦人の貌美にして言の甘きを顧み、乃ち一人を留めて宰を守視せしめ、而して群れて妾に尾いて房に入る。妾は臥す所の牀を指して曰く、「金は其の顛に在り」と。小梯を携えて登れば、衆は下より之を謔る。殊に怒らず、笑声外に達す。須臾にして、一匣を捧げて下れば、之を発くに金多し。妾曰く、「未だなり」と。再び一巨箱を捧げて下れば、大鏹実てり。衆は金を攫み、声愈いよ哄し。
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『智囊』委蛇・郭德成洪武中、郭徳成、驍騎指揮たり。嘗て禁内に入るに、上、黄金二錠を以て其の袖に置き、曰く、「第だ帰りて宣ぶる勿れ」と。徳成敬んで諾す。官門を出づるに比び、靴に納れ、佯り酔いて、靴を脱ぎ金を露わす。閽人以て聞す。上曰く、「吾が賜う所なり」と。或ひとこれを尤むるに、徳成曰く、「九閽の厳密なること此の如し。金を蔵して出づるは、窃に非ずや。且つ吾が妹は宮闈に侍し、吾の出入に間無し。安んぞ上の以て相い試みるに非ざるを知らんや」と。衆乃ち服す。
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『智囊』見大・楚莊王・袁盎胡酋の蘇慕恩は部落最も強し。種世衡は嘗て夜に与に飲み、侍姫を出して酒を佐けしむ。既にして世衡は起ちて内に入り、慕恩は竊かに姫と戯る。世衡は遽に出でて之を掩い、慕恩は慚愧して罪を請う。世衡は笑いて曰く、君は之を欲するか、と。即ち以て之に遺る。是に由りて諸部に二心有る者あれば、慕恩をして之を討たしむるに、克たざる無し。張説に門下生の其の寵婢を盗む者有り、之を法に置かんと欲す。此の生は呼びて曰く、相公は豈に緩急に人を用うる時無からんや。何ぞ一婢を惜しまん、と。説は其の言を奇とし、遂に以て賜いて遣る。後、杳として聞こえず。姚崇の構うるに遭い、禍は且に測られざらんとするに及び、此の生は夜に至り、夜明簾を以て九公主に献ぜんことを請い、為に玄宗に言いて、解くを得たり。金兀術は一小卒の妻を愛し、卒を殺して之を奪い、寵して専房せしむ。一日、昼寝より覚め、忽ち此の婦の利刃を持ちて向かわんとするを見る。驚き起ちて之を問う。曰く、夫の為に仇を報いんと欲するのみ、と。術は黙然として、麾きて去らしむ。即日、大いに将士に享し、此の婦を召し出して謂いて曰く、汝を殺さば則ち罪無し。汝を留めば則ち不可なり。汝に諸将の中より自ら従う所を択ぶに任ず、と。婦は一人を指し、術は即ち之を賜う。
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『智囊』見大・楚莊王・袁盎楚の荘王、群臣に宴し、美人に命じて酒を行らしむ。日暮れ酒酣にして燭滅ゆ。美人の衣を引く者有り。美人は援きて其の冠纓を絶ち、趣に火もて之を視んことを請う。王曰く、奈何ぞ婦人の節を顕わして、士を辱めんや、と。命じて曰く、今日、寡人と飲みて纓を絶たざる者は歓せず、と。群臣は尽く纓を絶ちて火し、歓を極めて罷む。鄭を囲むの役に及び、一臣有りて常に前に在り、五合にして五たび首を獲、敵を却け、卒に勝つを得たり。之を詢うに、則ち夜に纓を絶ちし者なり。盎は先に嘗て呉の相たりし時、盎の従史に私かに盎の侍児に通ずる者有り。盎は之を知るも泄らさず。人の言を以て従史を恐かす有り、従史は亡ぐ。盎は親ら追いて之を反し、竟に侍児を以て賜い、之を遇すること故の如し。景帝の時、盎は既に入りて太常と為り、復た呉に使いす。呉王は時に反を謀り、盎を殺さんと欲し、五百人を以て之を囲むも、盎は未だ覚らざるなり。会たま従史は適たま盎を守る校尉司馬と為り、乃ち醇醪二百石を置き、五百人を尽く飲ましめて醉臥せしむ。輒ち夜に盎を引き起こして曰く、君は去るべし。旦日、王は且に君を斬らんとす、と。盎曰く、公は何為る者ぞ、と。司馬曰く、故の従史の君の侍児を盗みし者なり、と。是に於いて盎は驚きて脱し去る。〔馮述評〕梁の葛周、宋の種世衡は、皆な此の術を用いて敵を克ち叛を討つ。張説の禍を免れしが若きは、転円の福と謂うべし。兀術の小卒の妻を殺さざるは、亦た胡虜の中の杰然たる者なり。葛周は嘗て寵する所の美姫と同飲す。侍卒の姫を目視して輟まず、周の問いに答えを失う者有り。既に自ら覚り、罪を懼る。周は並びに言わず。後に唐の師と戦い、利を失う。周は此の卒を呼びて奮勇して敵を破らしめ、竟に美姫を以て之に妻わす。
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『智囊』權奇・明太祖滁陽王の二子、太祖の威名の日に著るるを忌み、陰かに毒を酒中に置き、之を害せんと欲す。其の謀、預め洩る。二子の来たりて邀うるに及び、上、即ち与に偕に往き、了に難色無し。二子、其の計に堕つるを喜ぶ。半途に至り、上、遽に馬上に躍起し、天を仰ぎて見る所有るが若し。少頃、馬を勒して即ち転じ、因りて二子を罵りて曰く、「かくの如き歹人め」と。二人、故を問う。上曰く、「適に上天、相い告ぐ、爾、毒を設けて我に毒す。我は往かず」と。二子大いに駭き、馬を下りて拱立し、連りに「豈に敢えてせんや」と称す。是より害を謀るの意を息む。
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『智囊』雄略・邑宰妾守る者は金を分かつを貪り、忍ぶ能わず、足は覚えず前む。宰は間を以て潜かに逸す。衆は金を懐にして既に饜き、出でて宰を失うを視、懼れて走らんと欲す。妾は弱き者一人を択びて力めて之を持し、大いに呼ぶ、「攫金の賊在り」と。衆は奮拳して斉しく毆り、歯甲俱に集う。妾は且に死せんとするも、終に釈かず、声愈いよ厲し。外の人を動かし、外の人入り、衆は竄り、其の一を獲たり。並びに妾の持する所の者と両人を、巡城の潘御史の中に送る。妾は群凶の淫貪の状を訴え、兼ねて失う所の鬻産の銀数を具す。此の両人は諱む能わず、尽く其の党の姓名を供す。頃之くして、悉く擒えて至り、銀は猶お懐に在り。而して犯官の逸出するを以て解と為す。御史は詔獄を視しむるに、則ち宰焉に在り、衆は語塞がり、乃ち罪を不肖の姪に委ぬ。御史は姪を収め、尽く箠の下に斃す。妾は故の金を取りて帰り、数を籍して宰に報じ、病むこと数日にして、乃ち死す。〔評〕獄中の囚の私に出入するは、法に非ざるなり。詔獄甚だし。方に群邏の押し至るや、宰を以て奇貨と為さざらんや。膽薄と言いて其の志を堅くし、金多しと言いて其の欲に中て、謔を忍びて以て之を堅くし、空橐を以て之を餌す。守者を怠らせて宰を逸すは、固より已に吾が算の中に在り。其の不意に出で、一弱を持して以て衆強を羈す。仮令い身は老拳の下に斃るるとも、罪人其れ免れんや。群凶先に我が死するに至りても、目は瞑すべきなり。婦の智は言うを必とせず。独り其の猝にして乱れず、死して怵れず、従容として功に就くは、丈夫の智の逮ばざる所有り。惜しむらくは伝うる者其の名を逸す。然りと雖も、千秋の下、一邑宰の妾有りて浣紗女、鋭司徒の妻、車中の女子の儔に在るを知らば、斯れ友無しと為さざるなり。
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