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智囊 / 謬數・范仲淹

皇祐二年,吳中大飢,時范仲淹領浙西,發粟及募民存餉,為術甚備。吳人喜競渡,好為佛事。仲淹乃縱民競渡,太守日出宴於湖上。自春至夏,居民空巷出遊。又召諸佛寺主守,諭之曰:「今歲工價至賤,可以大興土木。」於是諸寺工作並興,又新倉廒吏舍,日役千夫。監司劾奏杭州不恤荒政,遊宴興作,傷財勞民。公乃條奏:「所以如此,正欲發有餘之財,以惠貧者,使工技傭力之人,皆得仰食於公私,不致轉徙溝壑耳。」是歲唯杭飢而不害。〔述評〕《周禮.荒政十二》,或興工作,以聚失業之人。但他人不能舉行,而文正行之耳。凡出遊者,必其力足以游者也。游者一人,而賴游以活者不知幾十人矣。萬曆時吾蘇大荒,當事者以歲儉禁游舡。富家兒率治饌僧舍為樂,而游船數百人皆失業流徙,不通時務者類如此。

新字:皇祐二年,呉中大飢,時范仲淹領浙西,発粟及募民存餉,為術甚備。呉人喜競渡,好為仏事。仲淹乃縦民競渡,太守日出宴於湖上。自春至夏,居民空巷出遊。又召諸仏寺主守,諭之曰:「今歳工価至賤,可以大興土木。」於是諸寺工作並興,又新倉廒吏舎,日役千夫。監司劾奏杭州不恤荒政,遊宴興作,傷財労民。公乃条奏:「所以如此,正欲発有余之財,以恵貧者,使工技傭力之人,皆得仰食於公私,不致転徙溝壑耳。」是歳唯杭飢而不害。〔述評〕《周礼.荒政十二》,或興工作,以聚失業之人。但他人不能舉行,而文正行之耳。凡出遊者,必其力足以游者也。游者一人,而頼游以活者不知幾十人矣。万暦時吾蘇大荒,当事者以歳倹禁游舡。富家児率治饌僧舎為楽,而游船数百人皆失業流徙,不通時務者類如此。

書き下し

皇祐二年、呉中大いに飢う。時に范仲淹、浙西を領し、粟を発し及び民を募りて餉を存すること、術為るに甚だ備わる。呉人は競渡を喜び、仏事を為すを好む。仲淹乃ち民の競渡を縦にし、太守は日に出でて湖上に宴す。春自り夏に至るまで、居民は巷を空しくして出遊す。又諸仏寺の主守を召し、之に諭して曰く、「今歳は工価至って賤し。以て大いに土木を興すべし」と。是に於いて諸寺の工作並び興り、又倉廒・吏舎を新たにし、日に千夫を役す。監司、杭州は荒政を恤えず、遊宴興作して財を傷い民を労すと劾奏す。公乃ち条奏す、「此の如き所以は、正に有余の財を発して以て貧者に恵み、工技傭力の人をして、皆公私に仰食することを得しめ、転じて溝壑に徙らざらしめんと欲するのみ」と。是の歳、唯だ杭のみ飢えて害せず。〔述評〕《周礼》荒政十二に、或いは工作を興して以て失業の人を聚むとあり。但だ他人は挙行する能わず、文正のみ之を行う。凡そ出遊する者は、必ず其の力の以て遊ぶに足る者なり。遊ぶ者一人にして、遊に頼りて以て活くる者は、幾十人なるかを知らず。万暦の時、吾が蘇大いに荒れ、当事者は歳の倹なるを以て遊舡を禁ず。富家の児は率ね饌を僧舎に治めて楽しみと為し、而して遊船の数百人は皆業を失い流徙す。時務に通ぜざる者、類ね此の如し。

現代語訳

皇祐二年、呉の地方が大飢饉となった。このとき范仲淹は浙西を治めており、穀物を放出し、民を募って食糧を保つ方法を実に周到に整えた。呉の人は舟の競漕を喜び、仏事を行うのを好んだ。そこで仲淹は民の競漕を自由にさせ、太守も毎日湖の上で宴を開いた。春から夏まで、住民は通りを空にして遊びに出た。また諸寺の住職を呼び、「今年は職人の賃金がとても安い。大いに土木工事を起こすとよい」と諭した。そこで諸寺の工事が一斉に起こり、さらに穀倉や役所の建物も新築し、日々千人の人夫を使った。監察官は、杭州は飢饉への対策をせず、遊宴や工事で財を損ない民を疲れさせていると弾劾した。公は箇条書きで上奏した。「こうしたのは、まさに余裕ある財を放出して貧しい者に恵み、職人や日雇いの人々がみな公私の仕事で食べていけるようにし、野垂れ死にして流浪することのないようにしたいからにほかなりません」。この年、杭州だけが飢えても被害が出なかった。〔述評〕『周礼』の荒政十二策には、工事を興して失業した人を集めるとある。ただ他の人は実行できず、范文正公だけが実行したのである。遊びに出る者は必ず遊ぶだけの財力がある人であり、遊ぶ者一人によって生計を立てる者は十人以上にのぼる。万暦年間、わが蘇州が大凶作になったとき、担当者は凶作を理由に遊覧船を禁じた。裕福な家の子弟は僧坊で酒宴を開いて楽しんだが、遊覧船に関わる数百人はみな職を失い流浪した。時勢に通じない者は、おおよそこのようなものである。

解説

飢饉のときにあえて遊興や土木工事を奨励し、豊かな者の支出を貧しい者の収入に回した、范仲淹の経済感覚が際立つ話です。節約や自粛が善とは限らず、不況時には消費が止まることで仕事を失う人が増えるという点を見抜いていました。監察官から批判されても、理由を整理して上奏する姿勢も立派です。現代でも、経費削減や投資の凍結が、取引先や下請けの収入を断つことがあります。管理職は、目に見える支出の裏にある、誰かの生計という連鎖を考えて判断したいものです。

この章句が説くこと

競渡土木を興す荒政貧者に恵む雇用経済判断

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