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智囊 / 威克・侯嬴

夷門監者侯嬴,年七十餘,好奇計。秦伐趙急,魏王使晉鄙救趙,畏秦,戒勿戰。平原君以書責信陵君,信陵君欲約客赴秦軍,與趙俱死,謀之侯生,生乃屏人語曰:「嬴聞晉鄙兵符在王臥內,而如姬最幸,力能竊之。昔如姬父為人所殺,公子使客斬其仇頭進如姬,如姬欲為公子死無所辭,顧未有路耳。公子誠一開口,如姬必許諾,則得虎符。奪晉鄙軍,北救趙而西卻秦,此五霸之功也。」公子從其計,請如姬。如姬果盜符與公子。公子行,侯生曰:「將在外,主令有所不受。公子即合符,而晉鄙不授公子兵而復請之,事必危矣。臣客屠者朱亥可與俱,此人力士。晉鄙聽,大善;不聽,可使擊之。」於是公子請朱亥,朱亥笑曰:「臣乃市井鼓刀屠者,而公子親數存之。所以不報謝者,以為小禮無所用;今公子有急,此乃臣效命之秋也。」遂與公子俱。公子至鄴,矯魏王令代晉鄙兵,晉鄙合符,果疑之,欲無聽。朱亥袖四十斤鐵椎椎殺晉鄙,公子遂將晉鄙兵進,大破秦軍。

新字:夷門監者侯嬴,年七十余,好奇計。秦伐趙急,魏王使晋鄙救趙,畏秦,戒勿戦。平原君以書責信陵君,信陵君欲約客赴秦軍,与趙倶死,謀之侯生,生乃屏人語曰:「嬴聞晋鄙兵符在王臥内,而如姫最幸,力能窃之。昔如姫父為人所殺,公子使客斬其仇頭進如姫,如姫欲為公子死無所辞,顧未有路耳。公子誠一開口,如姫必許諾,則得虎符。奪晋鄙軍,北救趙而西却秦,此五覇之功也。」公子従其計,請如姫。如姫果盗符与公子。公子行,侯生曰:「将在外,主令有所不受。公子即合符,而晋鄙不授公子兵而復請之,事必危矣。臣客屠者朱亥可与倶,此人力士。晋鄙聴,大善;不聴,可使撃之。」於是公子請朱亥,朱亥笑曰:「臣乃市井鼓刀屠者,而公子親数存之。所以不報謝者,以為小礼無所用;今公子有急,此乃臣効命之秋也。」遂与公子倶。公子至鄴,矯魏王令代晋鄙兵,晋鄙合符,果疑之,欲無聴。朱亥袖四十斤鉄椎椎殺晋鄙,公子遂将晋鄙兵進,大破秦軍。

書き下し

夷門の監者侯嬴は、年七十余、奇計を好む。秦の趙を伐つこと急なり。魏王は晋鄙をして趙を救わしむるも、秦を畏れて戦う勿かれと戒む。平原君は書を以て信陵君を責む。信陵君は客を約して秦軍に赴き、趙と俱に死せんと欲し、之を侯生に謀る。生は乃ち人を屏けて語りて曰く、「嬴聞く、晋鄙の兵符は王の臥内に在り、而して如姫は最も幸せられ、力は能く之を竊むに足ると。昔、如姫の父は人に殺さる。公子は客をして其の仇の頭を斬りて如姫に進めしむ。如姫は公子の為に死せんと欲して辞する所無し。顧うに未だ路有らざるのみ。公子誠に一たび口を開かば、如姫は必ず許諾せん。則ち虎符を得ん。晋鄙の軍を奪い、北のかた趙を救いて西のかた秦を却けば、此れ五覇の功なり」と。公子は其の計に従い、如姫に請う。如姫は果たして符を盗みて公子に与う。公子行かんとするに、侯生曰く、「将の外に在るや、主の令に受けざる所有り。公子即ち符を合わすも、晋鄙の公子に兵を授けずして復た請わば、事は必ず危うからん。臣の客に屠者の朱亥有り、与に俱にす可し。此の人は力士なり。晋鄙聴かば、大いに善し。聴かずんば、之を撃たしむ可し」と。是に於て公子は朱亥に請う。朱亥は笑いて曰く、「臣は乃ち市井の鼓刀の屠者なるに、公子は親しく数しば之を存う。報謝せざる所以は、小礼は用うる所無しと以えばなり。今、公子に急有り。此れ乃ち臣の命を効すの秋なり」と。遂に公子と俱にす。公子は鄴に至り、魏王の令と矯りて晋鄙の兵に代わる。晋鄙は符を合わせ、果たして之を疑い、聴く無からんと欲す。朱亥は四十斤の鉄椎を袖にして晋鄙を椎殺す。公子は遂に晋鄙の兵を将いて進み、大いに秦軍を破る。

現代語訳

夷門の門番の侯嬴は七十歳あまりで、奇抜な計略を好みました。秦が趙を攻撃すること急でした。魏王は晋鄙に趙を救わせましたが、秦を恐れて戦うなと戒めました。平原君は書簡で信陵君を責めました。信陵君は客人たちを誘って秦軍に突入し、趙とともに死のうとして、侯生に相談しました。侯生は人払いして語りました。「わたしは、晋鄙の兵符が王の寝室にあり、如姫が最も寵愛され、盗み出す力があると聞いています。昔、如姫の父が人に殺されたとき、公子は客に命じて仇の首を斬らせ、如姫に差し出しました。如姫は公子のために死ぬことも辞さないでしょう。ただその機会がなかっただけです。公子がひとたび口を開けば、如姫は必ず承知するでしょう。そうすれば虎符を手に入れ、晋鄙の軍を奪い、北は趙を救い、西は秦を退けられます。これは五覇に並ぶ功績です」。公子はその計に従い、如姫に頼みました。如姫は果たして符を盗んで公子に与えました。公子が出発しようとするとき、侯生は言いました。「将軍が外にいるときは、君主の命令でも受けないことがあります。公子が符を合わせても、晋鄙が兵を渡さずにまた確認を求めたら、事は必ず危うくなります。わたしの客に屠殺人の朱亥がいます。この人は力持ちです。晋鄙が聞き入れれば、それでよい。聞き入れなければ、撃たせるとよいでしょう」。そこで公子は朱亥に頼みました。朱亥は笑って言いました。「わたしは市場で刀を鳴らす屠殺人にすぎないのに、公子は何度もわたしを見舞ってくださいました。お礼をしなかったのは、小さな礼は役に立たないと思ったからです。今、公子に急ぎの事があります。これこそわたしが命をささげるときです」。そして公子とともに出発しました。公子は鄴に着き、魏王の命令と偽って晋鄙の軍の指揮権に代わろうとしました。晋鄙は符を合わせて、やはり疑い、従うまいとしました。朱亥は四十斤の鉄の槌を袖に隠していて、晋鄙を打ち殺しました。公子はそのまま晋鄙の兵を率いて進み、秦軍を大破しました。

解説

侯嬴の計は、虎符の盗み出し、力士による暗殺と、法を破る大胆な策です。しかし要点は、感情的に死にに行こうとする信陵君を、成算のある行動に導いた点にあります。如姫の恩義を使う、朱亥という力士を連れて行く、それぞれが相手の事情を読んだうえでの人選です。決断の場で必要なのは、勇気だけでなく、実際に動ける人と手段を揃える計画力です。一方で、君命に背くという重大な違法行為でもあるため、現代の組織では、目的の正しさがあっても手続きを踏むべきだという反面教師の面もあります。

この章句が説くこと

窃符救趙不入虎穴如姫朱亥成算ある計画人選

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