智囊 / 詰奸・董行成
唐懷州河內縣董行成能策賊。有一人從河陽長店盜行人驢一頭並皮袋,天欲曉至懷州。行成至街中一見,呵之曰:「個賊在!」即下驢承伏。人問何以知之,行成曰:「此驢行急而汗,非長行也;見人則引驢遠過,怯也。以此知之。」捉送縣,有頃,驢主已蹤至矣。
新字:唐懐州河内県董行成能策賊。有一人従河陽長店盗行人驢一頭並皮袋,天欲暁至懐州。行成至街中一見,呵之曰:「個賊在!」即下驢承伏。人問何以知之,行成曰:「此驢行急而汗,非長行也;見人則引驢遠過,怯也。以此知之。」捉送県,有頃,驢主已蹤至矣。
書き下し
唐の懐州河内県の董行成、能く賊を策る。一人有り、河陽の長店より行人の驢一頭並びに皮袋を盗み、天の曉けんとするとき懐州に至る。行成、街中に至りて一たび見るや、之を呵して曰く、「個は賊在り」と。即ち驢より下りて承伏す。人、何を以て之を知るやと問う。行成曰く、「此の驢の行くこと急にして汗す。長行に非ざるなり。人を見れば則ち驢を引きて遠く過ぐるは、怯なればなり。此を以て之を知る」と。捉えて県に送る。頃く有りて、驢主已に蹤して至れり。
現代語訳
唐の懐州河内県の董行成は、よく賊を見抜いた。ある人が、河陽の長店で旅人のロバ一頭と革袋を盗み、夜明けごろに懐州に着いた。董行成は街中でひと目見て、叱って言った。「こいつは盗人だ」。その人はすぐロバから降りて罪を認めた。人々が、どうしてわかったのかとたずねた。董行成は言った。「このロバは歩みが速く汗をかいていた。長旅の歩き方ではない。人を見るとロバを引いて遠く避けて行ったのは、臆病だからだ。これでわかった」。捕らえて県に送った。まもなく、ロバの持ち主が後を追って到着した。
解説
董行成が見たのは、ロバの汗と、人を避ける男の挙動という二つの小さな手がかりでした。長く旅しているなら落ち着いているはずなのに、急いで来た跡があり、しかも人目を避ける。その不一致が盗みを示しました。日常のなかで、状況と行動の食い違いに気づく目は、管理職にとって大切です。たとえば業績報告の数字と現場の様子が合わないとき、その違和感を見逃さず、静かに確かめる姿勢が、問題を早期に発見する助けになります。
この章句が説くこと
驢汗怯董行成状況と行動の食い違い観察
関連する章句
-
易経・觀卦周易 第二十卦。坤下巽上。易経。観は、盥いて荐めず、孚有りて顒若たり。初六、童観す、小人は咎无し、君子は吝。六二、窺い観る、女の貞に利ろし。六三、我が生を観て、進退す。六四、国の光を観る、用て王に賓たるに利ろし。九五、我が生を観る、君子なれば咎无し。上九、其の生を観る、君子なれば咎无し。彖に曰く、
-
言志四録・言志録 第九十一条 月を看て宇宙を想ふ人の月を看るは、皆徒らに看るなり。須らく此に於て宇宙無窮の概を想ふべし。(乙亥中秋、月下に録す)
-
『幽夢影』巻下・禽は則ち雄の雌より華やかなり人は女の男より美なりと謂ふ、禽は則ち雄の雌より華やかなり、獸は則ち牝牡分無き者なり。
-
『呻吟語』内篇・問學・怠惰の時に工夫を看る怠惰の時に工夫を看、脫略の時に點檢を看、喜怒の時に涵養を看、患難の時に力量を看る。
-
『学問のすゝめ』十二編・演説の法を勧むるの説・視察、推究、読書、談話、著書、演説ゆえに学問の本趣意は読書のみにあらずして、精神の働きにあり。この働きを活用して実地に施すにはさまざまの工夫なかるべからず。オブセルウェーションとは事物を視察することなり。リーゾニングとは事物の道理を推究して自分の説を付くることなり。この二ヵ条にてはもとよりいまだ学問の方便を尽くしたりと言うべからず。なおこのほかに書を読まざるべからず、書を著わさざるべからず、人と談話せざるべからず、人に向かいて言を述べざるべからず、この諸件の術を用い尽くしてはじめて学問を勉強する人と言うべし。すなわち視察、推究、読書はもって智見を集め、談話はもって智見を交易し、著書、演説はもって智見を散ずるの術なり。然りしこうしてこの諸術のうちに、あるいは一人の私をもって能くすべきものありといえども、談話と演説とに至りては必ずしも人とともにせざるを得ず。演説会の要用なることもって知るべきなり。
-
『驢鞍橋』卷下夜話に曰く、何某あまり坐禅の機をえ受けぬに仍て、機を移さん為め、両の手頸をむずと握り、膝元に引寄せ、きつと坐禅しければ、張合なくするすると引入るやうに体もなく覚えたり。扨ても見懸に違て機のへりたる者哉。中々心は打腐りたるやうに思はれたり。あれては頓て病んずよ、不便のこと也。因に曰く、始てこの位を知る也、今迄終に鍛錬せず、是は能きことを知る也。此の後は如是して、人の機の位を知るべし。又坐禅の機を如是してなりとも授けて見んずと也。彼者頓て大に病ひけり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る