智囊 / 詰奸・總轄
臨安有人家土庫中被盜者,蹤跡不類人出入,總轄謂其徒曰:「恐是市上弄猢猻者,試往脅之;不伏,則執之;又不伏,則令唾掌中。」如其言,其人良久覺無唾可吐,色變俱伏。乃令猢猻從天窗中入內取物。或謂總轄何以知之,曰:「吾亦不敢取必,但人之驚懼者,必無唾可吐,姑以卜之,幸而中耳。」又一總轄坐在壩頭茶坊內,有賣熟水人,持兩銀杯,一客衣服濟然若巨商者,行過就飲,總轄遙見,呼謂曰:「吾在此,不得弄手段。將執汝。」客慚悚謝罪而去。人問其故,曰:「此盜魁也,適飲湯,以兩手捧盂,蓋陰度其廣狹,將作偽者以易之耳。」比韓王府中忽失銀器數件,掌器婢叫呼,為賊傷手,趙從善尹京,命總轄往府中,測試良久,執一親僕訊之,立服。歸白趙云:「適視婢瘡口在左手,蓋與僕有私,竊器與之,以刃自傷,謬稱有賊;而此僕意思有異於眾,是以得之。」
新字:臨安有人家土庫中被盗者,蹤跡不類人出入,総轄謂其徒曰:「恐是市上弄猢猻者,試往脅之;不伏,則執之;又不伏,則令唾掌中。」如其言,其人良久覚無唾可吐,色変倶伏。乃令猢猻従天窗中入内取物。或謂総轄何以知之,曰:「吾亦不敢取必,但人之驚懼者,必無唾可吐,姑以卜之,幸而中耳。」又一総轄坐在壩頭茶坊内,有売熟水人,持両銀杯,一客衣服済然若巨商者,行過就飲,総轄遥見,呼謂曰:「吾在此,不得弄手段。将執汝。」客慚悚謝罪而去。人問其故,曰:「此盗魁也,適飲湯,以両手捧盂,蓋陰度其広狭,将作偽者以易之耳。」比韓王府中忽失銀器数件,掌器婢叫呼,為賊傷手,趙従善尹京,命総轄往府中,測試良久,執一親僕訊之,立服。帰白趙云:「適視婢瘡口在左手,蓋与僕有私,窃器与之,以刃自傷,謬称有賊;而此僕意思有異於衆,是以得之。」
書き下し
臨安に人家の土庫の中に盗まるる者有り。蹤跡は人の出入りに類せず。総轄、其の徒に謂いて曰く、「恐らくは是れ市上の猢猻を弄する者ならん。試みに往きて之を脅せ。伏せざれば則ち之を執え、又伏せざれば則ち掌中に唾せしめよ」と。其の言の如くにするに、其の人、良や久しくして唾の吐くべきなきを覚え、色変じて倶に伏す。乃ち猢猻をして天窓より内に入り物を取らしめしなり。或ひと総轄に謂う、「何を以て之を知るや」と。曰く、「吾も亦た敢えて必を取らず。但だ人の驚懼する者は、必ず唾の吐くべき無し。姑く以て之を卜せしに、幸いにして中れるのみ」と。又一総轄、壩頭の茶坊内に坐す。熟水を売る人、両つの銀杯を持つ有り。一客、衣服は済然として巨商の若き者、行きて過ぎ、就きて飲む。総轄遙かに見て、呼びて謂いて曰く、「吾此に在り。手段を弄するを得ず。将に汝を執えんとす」と。客慚悚して罪を謝して去る。人其の故を問う。曰く、「此れ盗魁なり。適たま湯を飲むとき、両手を以て盂を捧げ、蓋し陰かに其の広狭を度り、将に偽りを作して以て之を易えんとするのみ」と。比に韓王府中に忽ち銀器数件を失い、掌器の婢は叫呼して賊の傷つくる所と為る。趙従善、京を尹む。総轄に命じて府中に往かしめ、測り試すこと良や久しくして、一親僕を執えて訊すに、立ちどころに服す。帰りて趙に白して云う、「適に婢の瘡口を視るに左手に在り。蓋し僕と私有り、器を竊みて之に与え、刃を以て自ら傷つけ、謬りて賊有りと称す。而して此の僕の意思は衆と異なる有り、是を以て之を得たり」と。
現代語訳
臨安のある家の土蔵で盗難があった。足跡は人が出入りしたものとは思えなかった。総轄はその部下に言った。「おそらく市場で猿回しをする者だろう。試しに行って脅してみよ。屈しなければ捕らえ、それでも屈しなければ手のひらに唾を吐かせよ」。その言うとおりにすると、その人は、しばらくして吐く唾が出ないことに気づき、顔色が変わって屈した。猿を天窓から中に入れて物を取らせたのであった。ある人が総轄にたずねた。「どうしてそれがわかったのですか」。答えた。「私も確かだと言い切ったわけではない。ただ人が驚き恐れたとき、必ず吐く唾がなくなる。ひとまずそれで占ってみたら、幸いにも当たっただけだ」。また別の総轄が堤防の上の茶屋に座っていた。湯を売る人が二つの銀の杯を持っていて、一人の客が、衣服が整って大商人のような様子で、通りがかりに立ち寄って飲んだ。総轄は遠くからそれを見て、呼びかけて言った。「私はここにいる。手品を使うことはできない。おまえを捕らえるぞ」。客は恥じ入り恐れ、謝って去った。人がその理由をたずねると、言った。「これは盗賊の頭領だ。さきほど湯を飲むとき、両手で器を捧げ持ち、ひそかにその大きさを測っていた。偽物を作ってすり替えようとしていたのだ」。ところで、韓王府の中で突然、銀器数点がなくなり、器の係の侍女は叫び声をあげて賊に傷つけられたと言った。趙従善が京の長官であった。総轄に命じて府の中に行かせ、しばらく調べてから、一人の親しい下僕を捕らえて問うと、すぐに白状した。帰って趙に申し上げた。「さきほど侍女の傷口を見ると左手にありました。思うに下僕と私的な関係があり、器を盗んで与え、刃で自ら傷つけ、賊がいたと偽ったのです。そしてこの下僕の様子は他の者と異なっていたので、見つけ出したのです」。
解説
この章句が説くこと
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