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智囊 / 經務・張居正

然老酋舐犢之情似亦近真,其不以諸逆易其孫,蓋恥以輕博重,非不忍於諸逆也。乳犬駑駒,蓄之何用?但欲挾之為重,以規利於虜耳。今宜遣宣佈朝廷厚待其孫之意,以安老酋心,卻令那吉衣其賜服緋袍金帶,以誇示虜使。彼見吾之寵異之也,則欲得之心愈急,而左券在我,然後重與為市,而求吾所欲,必可得也!俺酋言雖哀懇,身猶擁兵駐邊,事同強挾,未見誠款。必責令將有名逆犯,盡數先送入境,掣回游騎,然後我差官以禮送歸其孫。若擁兵要質,兩相交易,則夷狄無親,事或中變,即不然,而聊以脅從數人塞責,於國家威重豈不大損?至於封爵、貢市二事,皆在可否之間。若鄙意,則以為邊防利害不在那吉之與不與,而在彼求和之誠與不誠。若彼果出於至誠,假以封爵,許其貢市,我得以間,修其戰守之具,興屯田利,邊鄙不聳,穡人成功。

新字:然老酋舐犢之情似亦近真,其不以諸逆易其孫,蓋恥以軽博重,非不忍於諸逆也。乳犬駑駒,蓄之何用?但欲挟之為重,以規利於虜耳。今宜遣宣佈朝廷厚待其孫之意,以安老酋心,却令那吉衣其賜服緋袍金帯,以誇示虜使。彼見吾之寵異之也,則欲得之心愈急,而左券在我,然後重与為市,而求吾所欲,必可得也!俺酋言雖哀懇,身猶擁兵駐辺,事同強挟,未見誠款。必責令将有名逆犯,尽数先送入境,掣回游騎,然後我差官以礼送帰其孫。若擁兵要質,両相交易,則夷狄無親,事或中変,即不然,而聊以脅従数人塞責,於国家威重豈不大損?至於封爵、貢市二事,皆在可否之間。若鄙意,則以為辺防利害不在那吉之与不与,而在彼求和之誠与不誠。若彼果出於至誠,仮以封爵,許其貢市,我得以間,修其戦守之具,興屯田利,辺鄙不聳,穡人成功。

書き下し

然れども老酋の犢を舐むるの情は、亦た真に近きに似たり。其の諸逆を以て其の孫に易えざるは、蓋し軽きを以て重きに博するを恥ずるにして、諸逆に忍びざるに非ざるなり。乳犬駑駒は、之を蓄えて何をか用いん。但だ之を挟みて重と為し、以て利を虜に規らんと欲するのみ。今、宜しく遣わして朝廷の其の孫を厚く待つの意を宣布し、以て老酋の心を安んじ、那吉をして其の賜服の緋袍金帯を衣て、以て虜使に誇示せしむべし。彼は吾の之を寵異するを見れば、則ち得んと欲するの心は愈いよ急にして、左券は我に在り。然る後に重ねて与に市いし、吾が欲する所を求めば、必ず得可きなり。俺酋の言は哀懇なりと雖も、身は猶お兵を擁して辺に駐り、事は強挟に同じく、未だ誠款を見ず。必ず令して有名の逆犯を将て、尽数先ず境に送入せしめ、游騎を掣回して、然る後に我れ官を差わし礼を以て其の孫を送り帰さん。若し兵を擁して質を要し、両つながら交易せば、則ち夷狄に親無く、事は或いは中ごろに変ず。即ち然らずして、聊か数人に脅従して責めを塞がば、国家の威重に於いて豈に大いに損なわざらんや。封爵、貢市の二事に至りては、皆な可否の間に在り。若し鄙意ならば、則ち以為えらく、辺防の利害は那吉の与うると与えざるとに在らずして、彼の和を求むるの誠と不誠とに在り。若し彼果たして至誠に出でば、仮すに封爵を以てし、其の貢市を許し、我は間を得て、其の戦守の具を修め、屯田の利を興し、辺鄙聳えず、穡人功を成さん。

現代語訳

しかし老酋が子をいつくしむ情は、真実に近いように見える。彼が反逆者たちと孫を交換しないのは、軽い者を差し出して重い者を取り戻すのを恥じているからで、反逆者たちを見捨てるに忍びないからではない。乳飲み子の犬や劣った子馬を、飼っておいて何の役に立つか。ただそれを盾にして重みを増し、敵から利益をむさぼろうとしているだけだ。今は使者を遣わして、朝廷が彼の孫を厚く待遇している意向を伝え、老酋の心を安心させ、那吉に賜った緋の袍と金の帯を着せて、敵の使者に見せびらかすのがよい。彼はわが方が孫を特別扱いしているのを見れば、取り戻したい気持ちがいよいよ急になり、証文はこちらの手にある。そのうえで改めて取引し、こちらの望むものを求めれば、必ず得られるだろう。アルタンの言葉は哀願のようだが、本人はなお兵を率いて国境に駐屯しており、実質は脅迫と同じで、まだ誠意は見えない。必ず名の通った逆犯をすべて先に国内へ送り込み、遊撃の騎兵を引き上げさせたのちに、こちらが官を派遣して礼をもって孫を送り返すべきである。もし兵を率いて人質を求め、双方が交換するというのなら、夷狄には親愛の情がないから、事は途中で変わるかもしれない。そうでなく、ただ数人を脅し従わせて責任を果たしたふりをすれば、国家の威信を大いに損ねるであろう。封爵と貢市の二つの事は、どちらも可否の間にある。私見では、辺境防衛の利害は那吉を返すか否かにあるのではなく、彼が和を求める誠意の有無にある。もし彼が本当に誠意から出ているなら、爵位を与え、貢納と交易を許し、こちらはその間に戦守の備えを整え、屯田の利を興し、辺境が動揺せず、農民が成果を上げるようにするのだ。

解説

張居正の交渉術がここで詳しく出てきます。相手が孫を返せと言わないのは、軽いものを渡して重いものを取り戻す取引を恥じているからだと見抜き、逆に孫を厚遇してみせて、相手の欲しい気持ちを高めてから条件を出す。条件は、反逆者の引き渡しが先で、兵の撤収も先、返還はそのあとという順序です。国家の威信を損なう形の交換は避ける、という原則も明確です。そして封爵や貢市は、孫の扱いではなく相手の誠意で決めると、判断の軸を示しています。現代の交渉でも、目先の取引よりも順序と判断軸を決めておくことが、主導権を握る要です。

この章句が説くこと

舐犢の情左券は我に在り逆犯誠款封爵貢市交渉の順序

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