李衛公問対 / 卷上
善用兵者,先為不可測,則敵乖其所之也。
書き下し
兵を善く用うる者は、先ず測る可からざるを為せば、則ち敵は其の之く所に乖く。
現代語訳
用兵に巧みな者は、まず自分の動きを敵に読ませないようにする。そうすれば敵は自分が向かうべき方向を見誤る。
解説
自分の手の内を先に隠すことが、相手の判断を狂わせるという競争の要諦を説いた一句である。何をするか読まれてしまえば、相手はそれに合わせて先回りできるが、読めなければ動きようがない。仕事の交渉でも、次の一手を早くから明かしてしまうと、相手に対応の時間を与えてしまう。すべてを隠す必要はなくとも、何を見せて何を見せないかを自分で選ぶだけで、主導権の在り処は変わってくる。
この章句が説くこと
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尉繚子・戰威善く兵を用うる者は、能く人を奪いて人に奪われず。
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李衛公問対・卷中兵は主為るを貴び、客為るを貴ばず。速やかなるを貴び、久しきを貴ばず。
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孫子・軍争篇孫子曰く、凡そ兵を用うるの法は、将、命を君より受け、軍を合し衆を聚め、和を交へて舍る。軍争より難きは莫し。
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五輪書・火の巻三ツの先、一ツは我方より敵へかかる懸(けん)の先と云ふなり。又一ツは、敵より我方へかかる時の先、是れは待(たい)の先と云ふなり。又一ツは、我もかかり敵もかかりあふ時の先、体々(たいたい)の先と云ふ。是れ三ツの先なり。何れの戦ひ始にも、此の三ツの先より外はなし。先の次第を以て勝つ事を得るものなれば、先と云ふ事、兵法の第一なり。(中略)第一、懸の先、我かからんと思ふ時、静かにして居、俄(にはか)にはやくかかる先。(中略)第二、待の先、敵我方へかかりくる時、少しもかまはず、よわき様に見せて、敵近くなつて、づんと強くはなれて、飛付く様に見せて、敵のたるみを見て、直(すぐ)に強く勝つ事、是れ一ツの先。(中略)第三、体々の先、敵はやくかかるには、我静に強くかかり、敵近くなつて、づんと思ひきる身にして、敵のゆとりの見ゆる時、直に強く勝つ。(中略)此の三ツの先、時に随ひ理に随ひ、いつにても我方よりかかる事には非るものなれども、同じくは我方よりかかりて、敵をまはしたき事なり。何れも先の事、兵法の智力を以て、必ず勝つ事を得る心、能々(よくよく)鍛錬有るべし。
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五輪書・風の巻太刀の構へを専らにする所、ひが事なり。世の中に、構のあらん事は、敵のなき時の事なるべし。其子細は、昔よりの例、今の世の法などとして、法例をたつる事は、勝負の道には有るべからず。其あいての、あしき様にたくむ事なり。物毎に構と云ふ事は、ゆるがぬ所を用(もち)ゐる心なり。或は城をかまふる、或は陣をかまふるなどは、人にしかけられても、つよくうごかぬ心、是れ常の儀なり。兵法勝負の道に於ては、何事も先手先手と心懸くる事なり。かまふると云ふ心は、先手を待つ心なり。能々(よくよく)工夫有るべし。兵法勝負の道、人の構をうごかせ、敵の心になき事をしかけ、或は敵をうろめかせ、或はむかつかせ、又はおびやかし、敵のまぎるる所の拍子の利をうけて勝つ事なれば、構と云ふ後手の心を嫌ふなり。然る故に、我道に有構無構(うこうむこう)といひて、構は有りて構は無きと云ふ所なり。大分の兵法にも、敵の人数の多少を覚え、其戦場の所を受け、我人数の位を知り、其徳を得て、人数をたて戦をはじむる事、それ合戦の専なり。人に先をしかけられたる事と、我人にしかくる時は、一倍もかはる心なり。太刀を能(よ)く構へ、敵の太刀を能く受け、能くはるとおぼゆるは、槍・長太刀を持(も)ちて、さくにふりたると同じ。敵を打つ時は、又さく木をぬきて、槍・長太刀につかふ程の心なり。能々(よくよく)吟味有るべき事なり。
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五輪書・火の巻剣(けん)をふむと云ふ心は、兵法に専ら用(もち)ゐる儀なり。先(ま)づ大きなる兵法にしては、弓・鉄砲に於ても、敵我方へ打ちかけ、何事にてもしかくる時、敵の弓・鉄砲にてもはなちかけて、其のあとにかかるによつて、又弓をつかひ、又鉄砲に薬をこみてかかりこむ時、こみ入りかたし。弓・鉄砲にても、敵のはなつ内にはやくかかる心なり。早くかかれば、矢もつがひがたし、鉄砲も打ち得ざる心なり。物毎を、敵のしかくると其の儘、其の利を受けて、敵のする事を踏み付けて勝つ心なり。又一分の兵法も、敵の打ち出す太刀のあとへ打てば、とたん・とたんとなりて、はかゆかざる所なり。敵の打ち出す太刀は、足にてふみ付くる心にして、打ち出す所をうち、二度目を敵の打ち得ざる様にすべし。踏むと云ふは、足には限るべからず。身にてもふみ、心にてもふみ、勿論太刀にてもふみ付けて、二度目を敵に能(よ)くさせざる様に心得べし。是れ則ち物毎の先(せん)の心なり。敵と一度にといひて、ゆきあたる心にてはなし。其の儘あとに付く心なり。能々(よくよく)吟味有るべし。