智囊 / 億中・郭嘉・虞翻
孫策既盡有江東,轉鬥千里,聞曹公與袁紹相持官渡,將議襲許。眾聞之,皆懼。郭嘉獨曰:「策新並江東,所誅皆英傑,能得人死力者也。然策輕而無備,雖有百萬眾,無異於獨行中原。若刺客伏起,一人之敵耳。以吾觀之,必死於匹夫之手。」虞翻字仲翔亦以策好馳騁遊獵,諫曰:「明府用烏集之眾,驅散附之士,皆能得其死力,此漢高之略也。至於輕出微行,吏卒嘗憂之。夫白龍魚服,困於豫且;白蛇自放,劉季害之。願少留意。」策曰:「君言是也!」然終不能悛,至是臨江未濟,果為許貢家客所殺。〔馮述評〕孫伯符不死,曹瞞不安枕矣。天意三分,何預人事?
新字:孫策既尽有江東,転鬥千里,聞曹公与袁紹相持官渡,将議襲許。衆聞之,皆懼。郭嘉独曰:「策新並江東,所誅皆英傑,能得人死力者也。然策軽而無備,雖有百万衆,無異於独行中原。若刺客伏起,一人之敵耳。以吾観之,必死於匹夫之手。」虞翻字仲翔亦以策好馳騁遊猟,諫曰:「明府用烏集之衆,駆散附之士,皆能得其死力,此漢高之略也。至於軽出微行,吏卒嘗憂之。夫白竜魚服,困於予且;白蛇自放,劉季害之。願少留意。」策曰:「君言是也!」然終不能悛,至是臨江未済,果為許貢家客所殺。〔馮述評〕孫伯符不死,曹瞞不安枕矣。天意三分,何預人事?
書き下し
孫策は既に尽く江東を有ち、転戦すること千里、曹公が袁紹と官渡に相持すと聞き、将に許を襲わんことを議す。衆は之を聞き、皆な懼る。郭嘉独り曰く、「策は新たに江東を並せ、誅する所は皆な英傑にして、能く人の死力を得る者なり。然れども策は軽にして備え無く、百万の衆有りと雖も、独り中原を行くに異ならず。若し刺客伏して起こらば、一人の敵のみ。吾が観るに、必ず匹夫の手に死せん」と。虞翻、字は仲翔、亦た策の馳騁遊猟を好むを以て、諫めて曰く、「明府は烏集の衆を用い、散附の士を駆り、皆な能く其の死力を得るは、漢高の略なり。軽々しく出でて微行するに至りては、吏卒嘗て之を憂う。夫れ白龍の魚服せば、豫且に困しめられ、白蛇の自ら放たば、劉季に害せらる。願わくは少しく意を留めよ」と。策曰く、「君の言は是なり」と。然れども終に悛むる能わず、是に至りて江に臨みて未だ済らざるに、果たして許貢の家客に殺さる。〔馮述評〕孫伯符死せずんば、曹瞞は枕を安んぜざらん。天意の三分は、何ぞ人事に預からん。
現代語訳
孫策はすでに江東をすべて領有し、千里を転戦して、曹公が袁紹と官渡で対峙していると聞き、許を襲うことを議した。人々はこれを聞いて皆恐れた。郭嘉だけが言った。「策は新たに江東を併せたばかりで、誅した者はみな英傑であり、人の死力を得られる者たちでした。しかし策は軽率で備えがなく、百万の軍勢がいても、ひとりで中原を歩くのと同じです。もし刺客が伏兵として現れれば、一人の相手にすぎません。私が見るに、必ずつまらぬ男の手にかかって死ぬでしょう」。虞翻、字は仲翔も、策が馬を駆けさせ狩りを好むのを見て、諫めて言った。「閣下は寄せ集めの軍勢を用い、散り散りに従う者を駆り立て、みな死力を尽くさせているのは、漢の高祖の手腕です。しかし軽々しく外出し身をやつして出歩くことは、役人や兵士がかねて憂えています。白龍が魚に姿を変えれば、漁師の豫且に苦しめられ、白蛇が自ら放たれれば、劉季(高祖)に斬られました。どうか少しお心にとめてください」。策は言った。「君の言うとおりだ」。しかし最後まで改められず、このときも江に臨んでまだ渡らないうちに、予想どおり許貢の食客に殺された。〔馮夢龍の評〕孫伯符(策)が死ななければ、曹瞞(曹操)は枕を高くして眠れなかっただろう。天意が三国に分けたのは、人の力が関わるところではない。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『春秋左氏伝』僖公十五年 韓原の戦い壬戌、韓原に戰ふ。晉の戎馬濘に還りて止まる。公慶鄭を號ぶ。慶鄭曰く、「諫に愎り卜に違ふ、固より敗を是れ求む、又何ぞ逃れん」と。遂に之を去る。梁由靡韓簡を御し、虢射右と為り、秦伯を輅へ、將に之を止めんとす。鄭公を救ふを以て之を誤らしめ、遂に秦伯を失ふ。秦晉侯を獲て以て歸る。晉の大夫首を反し舍を拔きて、之に從ふ。秦伯使ひして辭せしめて曰く、「二三子何ぞ其れ慼へるや。寡人の君に從ひて西するや、亦た晉の妖夢を是れ踐むのみ、豈に敢へて以て至らんや」と。晉の大夫三拜稽首して曰く、「君は后土を履みて皇天を戴く。皇天后土、實に君の言を聞く、群臣敢へて下風に在らん」と。穆姬晉侯の將に至らんとするを聞き、大子罃・弘と女簡・璧とを以て、臺に登りて薪を履む。免服衰絰を以て逆へしめ、且つ告げしめて曰く、「上天災を降し、我が兩君をして玉帛を以て相見えずして、戎を興すを以てせしむ。若し晉君朝に以て入らば、則ち婢子夕べに以て死せん。夕べに以て入らば、則ち朝に以て死せん。唯だ君之を裁け」と。乃ち諸を靈臺に舍らしむ。
-
葉隠・聞書第一諫言(かんげん)の道に、我(われ)其の位(くらい)にあらずば、其の位の人に言はせて、御誤(おあやまり)直(なお)る様にするが大忠(たいちゅう)なり。此の階(かい)の為に諸人(しょにん)と懇意(こんい)する所なり。我が為にすれば追従(ついしょう)なり。一方(いっぽう)は我等(われら)荷(にな)ひ申す心入(こころいれ)からなり。成程(なるほど)なるものなり。
-
史記 楽書上は朝廷より、下は人民に至るまで、以て歓喜を接し、殷勤を合するを得、此の和説に非ずんば通ぜず、解沢流れず、亦各々一世の化、時を度るの楽なり、何ぞ必ずしも華山の騄耳にして而る後に遠きを行かんや」と。二世之を然りとす。高祖、沛を過りて三侯の章を詩し、小児をして之を歌はしむ。高祖崩じ、沛をして四時に宗廟に歌舞するを得しむ。孝恵・孝文・孝景は増更する所無く、楽府に於いて常を習ひ旧を肄ふのみ。今上即位するに至り、十九章を作り、侍中李延年をして其の声を次序せしめ、拝して協律都尉と為す。一経に通ずるの士も独り其の辞を知る能はず、皆五経の家を集会し、相与に共に講習して之を読み、乃ち能く其の意を通知す、多く爾雅の文なり。漢家常に正月上辛を以て太一を甘泉に祠り、昏時を以て夜祠り、明に到りて終はる。常に流星の祠壇の上を経る有り。僮男僮女七十人をして俱に歌はしむ。春は青陽を歌ひ、夏は朱明を歌ひ、秋は西暤を歌ひ、冬は玄冥を歌ふ。世に多く有り、故に論ぜず。又嘗て神馬を渥洼の水中に得て、復た次して以て太一の歌と為す。歌曲に曰く、「太一貢ぎて天馬下る、赤汗に霑ひて沫赭を流す。騁せて容与として万里を跇ゆ、今安んぞ匹せん、龍を友と為す」と。後に大宛を伐ちて千里の馬を得、馬の名は蒲梢、次して作りて以て歌と為す。歌詩に曰く、「天馬来たる、西極よりす。万里を経て有徳に帰す。霊威を承けて外国を降し、流沙を渉りて四夷服す」と。中尉汲黯進みて曰く、「凡そ王者の楽を作るは、上は以て祖宗を承け、下は以て兆民を化す。今陛下馬を得て、詩して以て歌と為し、宗廟に協す、先帝百姓豈に能く其の音を知らんや」と。上黙然として説ばず。丞相公孫弘曰く、「黯は聖制を誹謗す、当に族すべし」と。凡そ音の起こるは、人心より生ずるなり。人心の動くは、物之をして然らしむるなり。
-
史記 季布欒布列伝中郎将と為る。単于嘗て書を為りて呂后を嫚り、不遜なり、呂后大いに怒り、諸将を召して之を議す。上将軍樊噲曰く「臣願はくは十万の衆を得て、匈奴の中に横行せん」と。諸将皆呂后の意に阿り、「然り」と曰ふ。季布曰く「樊噲斬るべきなり。夫れ高帝兵四十余万の衆を将ゐて、平城に困しむ、今噲柰何ぞ十万の衆を以て匈奴の中に横行せんとするは、面欺なり。且つ秦胡に事とするを以て、陳勝等起こる。今に于て創痍未だ瘳えず、噲又面諛し、天下を揺動せんと欲す」と。是の時殿上皆恐れ、太后朝を罷め、遂に復た匈奴を撃つ事を議せず。
-
史記 宋微子世家微子開は、殷の帝乙の首子にして帝紂の庶兄なり。紂既に立ち、明らかならず、政に淫乱す。微子数々諫むるも、紂聴かず。祖伊周の西伯昌の徳を修め、黎国を滅ぼすを以て、禍の至らんことを懼れ、以て紂に告ぐるに及ぶ。紂曰く、「我が生は命天に在る有らずや。是れ何をか能く為さん」と。是に於て微子、紂の終に諫むべからざるを度り、之に死せんと欲し、及び去らんとするも、未だ自ら決すること能はず。乃ち太師・少師に問ひて曰く、「殷は治政有らず、四方を治めず。我が祖遂に上に陳ぶ。紂酒に沈湎し、婦人是れ用ひ、湯の徳を下に乱敗す。殷既に小大好んで草窃姦宄し、卿士師師度に非ず、皆罪辜有り、乃ち維れ獲ること无し。小民乃ち并び興り、相敵讎と為る。今殷其れ典喪へり。水を渉るに津涯无きが若し。殷遂に喪ひ、越に今に至る」と。曰く、「太師、少師、我其れ発して出で往かんか。吾が家喪に保たんか。今女故无くして予に告ぐ。顛躋(てんせい)せば、之を如何せん」と。太師若(かく)のごとく曰く、「王子、天篤く菑(わざはひ)を下して殷国を亡ぼす。乃ち畏るべきを畏れず、老長を用ひず。今殷の民乃ち神祇の祀を陋淫す。今誠に国を治むるを得ば、国治まりて身死すとも恨みず。死を為して、終に治むるを得ずんば、去るに如かず」と。遂に亡ぐ。箕子は、紂の親戚なり。紂始めて象箸を為る。箕子嘆じて曰く、「彼象箸を為らば、必ず玉桮を為らん。桮を為らば、則ち必ず遠方の珍怪の物を思ひて之を御せん。輿馬宮室の漸、此より始まり、振ふべからず」と。紂淫泆を為す。箕子諫むるも、聴かず。人或いは曰く、「以て去るべし」と。箕子曰く、「人臣為りて諫めて聴かれずして去るは、是れ君の悪を彰らかにして自ら民に説(よろこ)ばるるなり。吾為すに忍びざるなり」と。乃ち髪を被り詳狂して奴と為る。遂に隠れて琴を鼓きて以て自ら悲しむ。故に之を伝へて箕子操と曰ふ。王子比干は、亦た紂の親戚なり。
-
『十善法語』巻第十・不邪見戒之上又喩ヘテ云ハ。賢君明主ハ忠臣ヲ信任シ。諫言ヲ用ル如クシヤ。漢ノ高祖カ諫ニ従フコト流ノ如ク。唐ノ太宗ノ魏徴カ苦諫ノ言ヲ用ヒアリシ類。ソノ如ク。正法ノ因縁アル者ハ必ス不邪見戒ニ随順スルシヤ。此ニ反シテ宿福ナキ者ハ。智者モ愚者モ。学者モ不学者モ仏アルコトヲ信セヌ。法アルコトヲ信セヌ。聖賢アルコトヲ信セヌ。神祇有コトヲ信セヌ。善悪報応有コトヲ信セヌシヤ。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る