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智囊 / 知微・卓敬

建文初,燕王來朝,戶部侍郎卓敬密奏曰:「燕王智慮絕人,酷類先帝;夫北平者,強幹之地,金、元所由興也。宜徙燕南昌,以絕禍本。夫萌而未動者,幾也;量時而為者,勢也。勢非至勁莫能斷,幾非至明莫能察。」建文見奏大驚。翌日,語敬曰:「燕邸骨肉至親,卿何得及此?」對曰:「楊廣、隋文非父子耶?」〔馮述評〕齊、黃諸公無此高議。使此議果行,靖難之師亦何名而起?

新字:建文初,燕王来朝,戸部侍郎卓敬密奏曰:「燕王智慮絶人,酷類先帝;夫北平者,強幹之地,金、元所由興也。宜徙燕南昌,以絶禍本。夫萌而未動者,幾也;量時而為者,勢也。勢非至勁莫能断,幾非至明莫能察。」建文見奏大驚。翌日,語敬曰:「燕邸骨肉至親,卿何得及此?」対曰:「楊広、隋文非父子耶?」〔馮述評〕斉、黄諸公無此高議。使此議果行,靖難之師亦何名而起?

書き下し

建文の初め、燕王来朝す。戸部侍郎卓敬、密かに奏して曰く、「燕王は智慮人に絶し、酷だ先帝に類す。夫れ北平は強幹の地にして、金・元の由りて興る所なり。宜しく燕を南昌に徙して、以て禍本を絶つべし。夫れ萌して未だ動かざるは幾なり。時を量りて為すは勢なり。勢は至勁に非ざれば断ずる能わず。幾は至明に非ざれば察する能わず。」建文、奏を見て大いに驚く。翌日、敬に語りて曰く、「燕邸は骨肉至親なり。卿何ぞ此に及ぶを得んや。」対えて曰く、「楊広と隋文は父子に非ずや。」〔馮述評〕斉・黄の諸公に此の高議無し。此の議をして果たして行わしめば、靖難の師も亦た何の名にて起こらん。

現代語訳

建文帝が即位して間もないころ、燕王(朱棣)が入朝した。戸部侍郎の卓敬がひそかに上奏して言った。「燕王は知恵と思慮が人並み外れており、先帝(太祖)に実によく似ております。そもそも北平は強く堅固な土地で、金や元が興った拠点です。燕王を南昌に移して、禍の根を断つべきです。まだ芽生えただけで動き出していないのが『幾』(兆し)であり、時を見はからって行うのが『勢』です。勢は、ずば抜けた力がなければ断ち切れず、幾は、ずば抜けた明察がなければ見て取れません。」建文帝は上奏を見て大いに驚いた。翌日、卓敬に言った。「燕王は血を分けた最も近い親族である。あなたはどうしてそんなことにまで考えが及ぶのか。」卓敬は答えた。「隋の煬帝(楊広)と文帝は、父子ではありませんでしたか。」〔馮夢龍の評〕斉泰・黄子澄ら諸公には、この高い見識がなかった。この提案が実行されていたら、靖難の師も何を名目に起こせただろうか。

解説

身内への疑いは言い出しにくく、聞く側も感情で退けがちです。卓敬は、才略があり強い地盤を持つ王は、将来の脅威になりうると冷静に説きました。しかも兆しと勢いという二つの概念で、見抜く難しさと、動かす難しさを整理しています。建文帝は親族の情を理由に退け、後に靖難の変で帝位を奪われました。馮夢龍は、この案が行われていれば戦の名分すら立たなかったと評します。組織でも、親しい人物や功労者に権限が集中している状況は、感情が先に立つと見直せません。危うさを指摘する部下の声を、人間関係の遠慮で潰さない仕組みが要るでしょう。

この章句が説くこと

萌而未動者幾也量時而為者勢也徙燕南昌先見危機管理諫言

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