智囊 / 遠猶・王旦
文正公之婿韓公,例當遠任,公私以語其女曰:「此小事,勿憂。」一日,謂女曰:「韓郎知洋州矣。」女大驚。公曰:「爾歸吾家,且不失所。吾若有所求,使人指韓郎婦翁奏免遠適,累其遠大也。」韓聞之,曰:「公待我厚如此。」後韓終踐二府。古人自愛愛人,不爭目睫,類如此。
新字:文正公之婿韓公,例当遠任,公私以語其女曰:「此小事,勿憂。」一日,謂女曰:「韓郎知洋州矣。」女大驚。公曰:「爾帰吾家,且不失所。吾若有所求,使人指韓郎婦翁奏免遠適,累其遠大也。」韓聞之,曰:「公待我厚如此。」後韓終践二府。古人自愛愛人,不争目睫,類如此。
書き下し
文正公の婿韓公、例として当に遠任すべし。公、私かに以て其の女に語りて曰く、「此れ小事なり、憂うる勿かれ」と。一日、女に謂いて曰く、「韓郎は洋州に知たり」と。女大いに驚く。公曰く、「爾は吾が家に帰り、且つ所を失わず。吾若し求むる所有れば、人をして韓郎の婦翁が奏して遠く適くを免ぜしむと指さしめん、其の遠大を累わすなり」と。韓之を聞きて曰く、「公の我を待すること厚きこと此のごとし」と。後に韓は終に二府を践む。古人の自ら愛し人を愛するは、目睫を争わず、類ね此くの如し。
現代語訳
文正公(王旦)の婿である韓公は、慣例により遠方の任地に赴くべきことになった。公はひそかに娘に言った。「これは小さなことだ。心配するな」。ある日、娘に言った。「韓郎は洋州の知事に決まった」。娘は大いに驚いた。公は言った。「おまえは我が家に帰って来ても居場所を失うまい。私がもし運動すれば、人は韓郎の舅が上奏して遠方行きを免れさせたと指さすだろう。それは彼の将来を傷つけることになる」。韓はこれを聞いて言った。「公が私をこれほど厚く遇してくださるとは」。後に韓公はついに二府(宰相・枢密院)の地位に就いた。古人が自分を大切にし、人を大切にするとき、目先の損得を争わないのは、おおむねこのようであった。
解説
この章句が説くこと
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『韓非子』愛臣第四故に死を赦さず、刑を宥(ゆる)さず。死を赦し刑を宥すは、是を威淫と謂ふ。社稷將に危からんとし、國家威に偏す。是の故に大臣の禄は大なりと雖も、城市に威を藉(か)るを得ず。黨與衆しと雖も、士卒を臣とするを得ず。故に人臣の國に處るや私朝無く、軍に居るや私交無く、其の府庫は私かに家に貸すを得ず。
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『韓非子』三守第十六群臣、祿を持ち交わりを養い、私道を行いて公忠を效さず。此れ明劫と謂う。
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『韓非子』難二第三十七之をして義ならしめば、桓公義を宿めて、冠を遺るるを須ちて而る後に之を行ふ、則ち是れ桓公の義を行ふは、冠を遺るるが爲に非ざらんや。是れ遺冠の恥を小人に雪ぐと雖も、亦た遺義の恥を君子に生ずるなり。
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『韓非子』飾邪第十九故に公私に分有り。...明主上に在れば、則ち人臣私心を去り公義を行う。亂主上に在れば、則ち人臣公義を去り私心を行う。
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『春秋左氏伝』昭公元年 禹微かりせば吾魚ならん天王劉定公をして趙孟を潁に勞はしむ。雒汭に館す。劉子曰く、「美なるかな禹の功、明德遠し。禹微かりせば、吾其れ魚ならんか。吾子と弁冕端委して、以て民を治め諸侯に臨むは、禹の力なり。子盍ぞ亦た遠く禹の功を績ぎて、大いに民を庇はざる」と。對へて曰く、「老夫は罪戾を是れ懼る。焉んぞ能く遠きを恤へん。吾儕は偷食し、朝に夕を謀らず。何ぞ其れ長からん」と。劉子歸りて以て王に語りて曰く、「諺に所謂『老いて將に知らんとして耄之に及ぶ』とは、其れ趙孟の謂か。晉の正卿と為りて、以て諸侯を主り、而も隸人に儕しくし、朝に夕を謀らず。神人を棄てたり。神怒り民叛かば、何を以てか能く久しからん。趙孟は年を復せざらん。神怒れば其の祀を歆けず、民叛けば其の事に即かず。祀事從はずんば、又何を以てか年あらん」と。叔孫歸る。曾夭季孫に御して以て之を勞ふ。旦より日中に及ぶまで、出でず。曾夭曾阜に謂ひて曰く、「旦より日中に及ぶ。吾罪を知れり。魯は相忍ぶを以て國を為むるなり。其の外に忍びて、其の內に忍ばずんば、焉んぞ之を用ゐん」と。阜曰く、「數月外に於てし、一旦是に於てす。庸ぞ何ぞ傷まん。賈して贏を欲して、囂を惡まんや」と。阜叔孫に謂ひて曰く、「以て出づべし」と。叔孫楹を指して曰く、「是を惡むと雖も、其れ去るべけんや」と。乃ち出でて之に見ゆ。
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十七条憲法 第十五条私(わたくし)に背(そむ)き公(おおやけ)に向(むか)うは、是(こ)れ臣(しん)の道(みち)なり。凡(およ)そ人に私(わたくし)有れば必ず恨(うら)み有り。恨み有れば必ず同(どう)ぜず。同ぜざれば則(すなわ)ち私を以(もっ)て公(おおやけ)を妨(さまた)ぐ。情(じょう)を以て制(せい)に違(たが)い、法(ほう)を害(そこ)ない公を損(そこ)なう。故(ゆえ)に第一章(はじめのまき)に云(い)わく、上下(かみしも)和諧(わかい)せよと。それ亦(また)是(こ)の情(こころ)か。
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