智囊 / 遠猶・宋太祖
初,太祖謂趙普曰:「自唐季以來數十年,帝王凡十易姓,兵革不息,其故何也?」普曰:「由節鎮太重,君弱臣強,今唯稍奪其權,制其錢穀,收其精兵,則天下自安矣。」語未畢,上曰:「卿勿言,我已諭矣。」「邊批:聰明。」頃之,上與故人石守信等飲,酒酣,屏左右,謂曰:「我非爾曹之力,不得至此,念汝之德,無有窮已,然為天子亦大艱難,殊不若為節度使之樂,吾今終夕未嘗安枕而臥也。」守信等曰:「何故?」上曰:「是不難知,居此位者,誰不欲為之?」守信等皆惶恐頓首,曰:「陛下何為出此言?」上曰:「不然,汝曹雖無心,其如麾下之人欲富貴何?
新字:初,太祖謂趙普曰:「自唐季以来数十年,帝王凡十易姓,兵革不息,其故何也?」普曰:「由節鎮太重,君弱臣強,今唯稍奪其権,制其銭穀,収其精兵,則天下自安矣。」語未畢,上曰:「卿勿言,我已諭矣。」「辺批:聰明。」頃之,上与故人石守信等飲,酒酣,屏左右,謂曰:「我非爾曹之力,不得至此,念汝之徳,無有窮已,然為天子亦大艱難,殊不若為節度使之楽,吾今終夕未嘗安枕而臥也。」守信等曰:「何故?」上曰:「是不難知,居此位者,誰不欲為之?」守信等皆惶恐頓首,曰:「陛下何為出此言?」上曰:「不然,汝曹雖無心,其如麾下之人欲富貴何?
書き下し
初め、太祖、趙普に謂いて曰く、「唐季より以来数十年、帝王は凡そ十たび姓を易え、兵革息まず。其の故は何ぞや」と。普曰く、「節鎮太だ重く、君弱く臣強きに由る。今、唯だ稍や其の権を奪い、其の銭穀を制し、其の精兵を収めば、則ち天下自ずから安らかならん」と。語未だ畢わらざるに、上曰く、「卿、言う勿かれ。我已に諭れり」と。〔辺批、聡明〕頃之くして、上は故人の石守信らと飲む。酒酣にして、左右を屏け、謂いて曰く、「我は爾曹の力に非ずんば、此に至るを得ず。汝が徳を念うこと、窮まり有る無し。然れども天子と為るも亦た大いに艱難にして、殊に節度使たるの楽しみに若かず。吾、今、終夕未だ嘗て枕を安んじて臥せず」と。守信ら曰く、「何の故ぞ」と。上曰く、「是れ知り難からず。此の位に居る者、誰か之を為さんと欲せざらん」と。守信ら皆な惶恐して頓首し、曰く、「陛下、何為れぞ此の言を出だす」と。上曰く、「然らず。汝が曹、心無しと雖も、其の麾下の人の富貴を欲するを如何せん。
現代語訳
はじめ、太祖(趙匡胤)は趙普に言いました。「唐の末期以来数十年、帝王の姓は十回も変わり、戦乱は止むことがない。そのわけは何か。」趙普は言いました。「節度使の力が大きすぎて、君主が弱く臣下が強いためです。今は、少しずつその権限を奪い、財政を制し、精鋭の兵を収めれば、天下はおのずから安定するでしょう。」言い終わらないうちに、皇帝は言いました。「卿よ、言うな。私はすでに分かった。」〔辺批、聡明である〕しばらくして、皇帝は旧友の石守信らと酒を飲みました。酒が回ったところで、左右の者を下がらせて言いました。「私はお前たちの力がなければ、ここまで来られなかった。お前たちの恩徳を思うと、限りがない。しかし天子というのも、実はたいへん難しいもので、節度使であった楽しさにはとてもおよばない。私は今、一晩中、枕を高くして眠ったことがない。」守信らは言いました。「どうしてですか。」皇帝は言いました。「それは分かりにくいことではない。この位に居る者は、誰もがなりたいと思うだろう。」守信らはみな恐れ入って頭を床につけ、言いました。「陛下、どうしてそのようなことをおっしゃるのですか。」皇帝は言いました。「そうではない。お前たち自身に野心がなくても、配下の者たちが富貴を望むのをどうするのか。
解説
この章句が説くこと
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『韓非子』六反第四十六夫れ痤を弾く者は痛み、薬を飲む者は苦し、苦憊の故の為に痤を弾き薬を飲まざれば、則ち身活きず、病已まず。
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『韓非子』和氏第十三主、術を用うれば則ち大臣、斷を擅にするを得ず、近習、敢て重を賣らざらん。…則ち法術なる者は乃ち群臣士民の禍とする所なり。
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孟子・盡心章句上公孫丑曰く、「伊尹曰く、『予、不順に狎れしめず。』太甲を桐に放ち、民大いに悅ぶ。太甲賢となる。又之を反し、民大いに悅ぶ。賢者の人臣為るや、其の君、賢ならざれば、則ち固より放つ可きか。」孟子曰く、「伊尹の志有れば、則ち可なり。伊尹の志無ければ、則ち篡うなり。」
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『韓非子』安危第二十五病みて痛みを忍ばざれば、則ち扁鵲の巧を失い、危うくして耳に拂らざれば、則ち聖人の意を失う。
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論語・里仁篇子曰く、「人の過ちや、各々其の党に於てす。過ちを観て、斯(ここ)に仁を知る。」
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『宋名臣言行録』前集巻一・趙普語未だ畢らざるに、上曰く、卿復た言う勿かれ、吾れ已に諭れりと。頃くして上、晚朝に因りて故人の石守信・王審琦等と飲む。酒酣にして、上左右を屏けて謂いて曰く、我れ爾曹の力に非ずんば、此に至るを得ず。汝の徳を念うこと窮まり已む無し。然れども天子為るも亦た大いに艱難にして、殊に節度使為るの樂しみに若かず。吾れ今、終夕未だ嘗て敢えて安んじて枕して卧せざるなり。守信等皆な曰く、何の故ぞ。上曰く、是れ知り難からず。此の位に居る者、誰か之を為さんと欲せざらん。守信等皆な惶恐頓首して曰く、陛下何為れぞ此の言を出だす。今、天命已に定まる。誰か敢えて異心有らん。上曰く、然らず。汝曹心無しと雖も、其れ汝が麾下の人、富貴を欲する者を如何せん。一旦、黄袍を以て汝が身に加えば、汝為さざらんと欲すと雖も、得可からざるなり。皆な頓首涕泣して曰く、臣等愚かにして此に及ばず。惟だ陛下哀憐して、生く可きの塗を指示せよ。上曰く、人生は白駒の隙を過ぐるが如し。好んで富貴を為す所以の者は、多く金錢を積み、厚く自ら娱樂し、子孫をして貧乏無からしめんと欲するに過ぎざるのみ。汝曹何ぞ兵權を釋き去り、便好の田宅を擇びて之を市い、子孫の為に永久の業を立て、多く歌兒舞女を置き、日々に酒を飲みて相い歡び、以て其の天年を終えざる。君臣の間、兩つながら猜嫌無く、上下相い安んずるは、亦た善からずや。皆な再拜謝して曰く、陛下臣を念うこと此に及ぶは、所謂る死を生かして骨を肉づくるなり。明日皆な疾と稱して軍權を解かんことを請う。上之を許す。皆な散官を以て第に就く。慰撫賜賚する所以の者甚だ厚く、與に婚姻を結び、更めて制し易き者を置きて親軍を主らしむ。其の後又た轉運使・通判を置きて諸道の錢榖を主らしめ、天下の精兵を收選して以て宿衛に備う。而して諸功臣も亦た善終を以てし、子孫富貴にして、今に迄るまで絶えず。
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