竹馬抄 / 心は使い方で利にも鈍にも
此比は或はめたれをみ、或はわゝく心のみ侍ほどに、一すぢにやはらかにうるはしき人をば、人のいやしむる也、無心の道人などゝて、佛法者などの、目も心もなき樣にみえて、三歳の孫のごとくなどいふは別のヿなり、又愚痴の人は、もの〱惡もわきまへず、只默々としたるは、よき人といふべきにあらず、是程のヿはよく〱思ひわくべき也、坐禪する僧達などは、生つきより利根なる事はなきも、心をしづかにするゆへに、諸事に明かなり、學問などする人も、その事を一大事に心をしづめて覺え侍るほどに他事にもをのづから利根に侍なり、たゞ人の心は、つかひやうによりてよくもなり、あしくもなり、利根にも鈍にもなるべきなり、人のさかりは、十年には過侍らず、そのうちになににどもたしなむべし、十ばかり十四五までは、眞實物の興もなく侍也、四十五十になりぬれば、又心鈍になりて、よろづ物ぐさきほどに、はか〱しきけいこもかなはず、十八九より三十ばかりまでの事なれば、物をしるとゝのへておもしろき根源に至事は、たゞ十二三年に過べからず、不定の世界には、とくけいこすべきなり、
新字:此比は或はめたれをみ、或はわゝく心のみ侍ほどに、一すぢにやはらかにうるはしき人をば、人のいやしむる也、無心の道人などゝて、仏法者などの、目も心もなき様にみえて、三歳の孫のごとくなどいふは別のヿなり、又愚痴の人は、もの〱悪もわきまへず、只黙々としたるは、よき人といふべきにあらず、是程のヿはよく〱思ひわくべき也、坐禅する僧達などは、生つきより利根なる事はなきも、心をしづかにするゆへに、諸事に明かなり、学問などする人も、その事を一大事に心をしづめて覚え侍るほどに他事にもをのづから利根に侍なり、たゞ人の心は、つかひやうによりてよくもなり、あしくもなり、利根にも鈍にもなるべきなり、人のさかりは、十年には過侍らず、そのうちになににどもたしなむべし、十ばかり十四五までは、真実物の興もなく侍也、四十五十になりぬれば、又心鈍になりて、よろづ物ぐさきほどに、はか〱しきけいこもかなはず、十八九より三十ばかりまでの事なれば、物をしるとゝのへておもしろき根源に至事は、たゞ十二三年に過べからず、不定の世界には、とくけいこすべきなり、
書き下し
此比は或はめたれをみ、或はわゝく心のみ侍ほどに、一すぢにやはらかにうるはしき人をば、人のいやしむる也、無心の道人などゝて、佛法者などの、目も心もなき樣にみえて、三歳の孫のごとくなどいふは別のヿなり、又愚痴の人は、もの〱惡もわきまへず、只默々としたるは、よき人といふべきにあらず、是程のヿはよく〱思ひわくべき也、坐禪する僧達などは、生つきより利根なる事はなきも、心をしづかにするゆへに、諸事に明かなり、學問などする人も、その事を一大事に心をしづめて覺え侍るほどに他事にもをのづから利根に侍なり、たゞ人の心は、つかひやうによりてよくもなり、あしくもなり、利根にも鈍にもなるべきなり、人のさかりは、十年には過侍らず、そのうちになににどもたしなむべし、十ばかり十四五までは、眞實物の興もなく侍也、四十五十になりぬれば、又心鈍になりて、よろづ物ぐさきほどに、はか〱しきけいこもかなはず、十八九より三十ばかりまでの事なれば、物をしるとゝのへておもしろき根源に至事は、たゞ十二三年に過べからず、不定の世界には、とくけいこすべきなり、
現代語訳
近ごろは、人を見下したり、あるいはうろたえたりする心ばかりなので、ひたすら柔和で端正な人を、人は軽んじます。「無心の道人」などといって、仏法者などが目も心もないように見え、三歳の孫のようだというのは別の話です。また、愚かな人が物事の善悪も分別せず、ただ黙っているのは、よい人というべきではありません。この程度のことはよくよく思い分けるべきです。坐禅する僧たちは、生まれつき利発というわけではなくても、心を静かにするので諸事に明るいのです。学問する人も、そのことを一大事として心を静めて覚えるので、他のことにもおのずから利発になります。人の心は使い方次第で、良くも悪くも、利発にも鈍くもなります。人の盛りは十年を越えません。その間に何事も嗜むべきです。十歳ばかりから十四、五歳までは、まことにものの興味もなく、四十、五十になれば、また心が鈍って万事面倒になり、てきぱきした稽古もかないません。十八、九から三十ばかりまでのことですから、物事を知り整えて、面白い根源に至ることは、わずか十二、三年を越えてはなりません。無常の世界では、早く稽古すべきです。
解説
この章句が説くこと
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言志四録・言志晩録 第二十五条 学の次第と本体学に次第有るは、猶ほ弓を執り箭を挟み、引満して発するがごとし。直ちに本体を指すは、猶ほ懸くるに正鵠を以てし、必中を期するがごとし。
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『講孟余話』附尾 讀保建大記一條跋。講孟劄記成る。因りて復た瀏覧すること一周、遂に名を講孟余話と改む。蓋し劄は鍼刺なり。凡そ其の記す所、精義を発し、文藻を摛ぶること、鍼の膚を刺して鮮血迸り出づるが如く、鍼の衣を刺して彩線絺繍するが如くにして、而る後以て称名と為すに足るのみ。而して余の此の著、豈に其れ然らんや。余の獄に在るや、囚徒胥ひ居り、其の已に家に帰るや、親戚盍簪す。時に乃ち孟子を把りて之れを講ず。其の訓詁を精しくするに非ず、其の文字を喜ぶに非ず、唯だ其の一憂一楽、一喜一怒、尽く諸を孟子に寓するのみ。故に其の喜楽に当りてや、孟子を講じて、復た益々喜楽し、其の憂怒に当りてや、孟子を講じて、復た益々憂怒す。憂怒の抑ふべからず、喜楽の歇むべからず、話に随ひ話に随ひ、稍積みて巻を成す者、即ち此の著なり。然らば則ち是れ特に講孟の余話のみ、何ぞ劄記と為すことを得んや。余已に囚徒親戚と、其の憂楽を同じくし、其の喜怒を共にす、亦已に足れり。而るに又之れを録して巻を成し以て世に問ふ、太だ贅ならずや。且つ此れを持して経学先生に問はんか、経学先生将に其の雑駁麁豪を罵らんとす。此れを持して文章博士に問はんか、文章博士将に其の鄙俚蕪陋を笑はんとす。然らば則ち当今の世、孰れか問ひ孰れか答へんや。噫、是れ吾が余話の録に已む能はざる所以なり。夫れ天下経学文章を以て教へと為す、蓋し亦久しいかな。経学益々明らかに、文章益々美にして、国威日に細く、外夷日に熾んなり。斯の道の道たる所以の者は、果して何くにか在る。則ち天下吾と憂楽を同じくし喜怒を共にする者、亦何ぞ独り一二の囚徒親戚のみならんや。而るに余屏居して世を謝す、世其の人有りと雖も、相従ひて晤言するに由なし。則ち余話の録、吾益々已む能はざるなり。噫、天下の士、其れ何を以て之れを教へん。安政三年、歳丙辰に次る、季夏の日、二十一回猛士藤寅、諸を松陰の囚室に書す。此の編、業を去年六月十三日に起し、今年六月十三日に卒る。中間或は作り或は輟め、居処已に変じ、会する者又異なり、而して正に期月に当りて、方に乃ち編を成す、亦奇ならずや。寅重ねて書す。
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うひ山ぶみ・本文上ノ件ところどころ、圏の内に、かたかなをもてしるししたるは、いはゆる相じるしにて、その件リ々にいへることの、然る子細を、又奥に別にくはしく論ひさとしたるを、そこはこゝと、たづねとめて、しらしめん料のしるし也、世に物まなびのすぢしなじな有て云々、物学とは、皇朝の学問をいふ、そもそもむかしより、たゞ学問とのみいへば、漢学のことなる故に、その学と分むために、皇国の事の学をば、和学或は国学などいふならひなれども、そはいたくわろきいひざま也、みづからの国のことなれば、皇国の学をこそ、たゞ学問とはいひて、漢学をこそ、分て漢学といふべきことなれ、それももし漢学のこととまじへいひて、まぎるゝところにては、皇朝学などはいひもすべきを、うちまかせてつねに、和学国学などいふは、皇国を外にしたるいひやう也、もろこし朝鮮於蘭陀などの異国よりこそ、さやうにもいふべきことなれ、みづから吾国のことを、然いふべきよしなし、すべてもろこしは、外の国にて、かの国の事は、何事もみな外の国の事なれば、
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