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武士訓 / 卷五・第12段

俗間の沙汰に。はやわざをなして。鳥のごとくに。飛たりなどいふは。勝負の理をわきまへざる者。敵にまはされてかくのごとし。ねがはくはやすらかに實地をふみてすゝみ。敵をおびやかして。飛はねさすべし。是人をいたして。人にいたされざるなり。鳥をまなむで飛はねんより。人のわざをたがえぬぞよろしかるべき。むかしある僧のうたに「おどりはね庭に穗ひろふ小すゞめは鷲のこゝろをいかでしるべき」。此うたのこゝろよくかなへり。たゞし塲取を專らにすべし。敵をたかきところにあげず。せばきところに追こむやうにまはすべし。

新字:俗間の沙汰に。はやわざをなして。鳥のごとくに。飛たりなどいふは。勝負の理をわきまへざる者。敵にまはされてかくのごとし。ねがはくはやすらかに実地をふみてすゝみ。敵をおびやかして。飛はねさすべし。是人をいたして。人にいたされざるなり。鳥をまなむで飛はねんより。人のわざをたがえぬぞよろしかるべき。むかしある僧のうたに「おどりはね庭に穂ひろふ小すゞめは鷲のこゝろをいかでしるべき」。此うたのこゝろよくかなへり。たゞし塲取を専らにすべし。敵をたかきところにあげず。せばきところに追こむやうにまはすべし。

書き下し

俗間の沙汰に。はやわざをなして。鳥のごとくに。飛たりなどいふは。勝負の理をわきまへざる者。敵にまはされてかくのごとし。ねがはくはやすらかに實地をふみてすゝみ。敵をおびやかして。飛はねさすべし。是人をいたして。人にいたされざるなり。鳥をまなむで飛はねんより。人のわざをたがえぬぞよろしかるべき。むかしある僧のうたに「おどりはね庭に穗ひろふ小すゞめは鷲のこゝろをいかでしるべき」。此うたのこゝろよくかなへり。たゞし塲取を專らにすべし。敵をたかきところにあげず。せばきところに追こむやうにまはすべし。

現代語訳

世間の評判に、早業をして鳥のように飛んだなどというのは、勝負の理をわきまえない者が、敵に回されてこのようになるのである。願わくは安らかに実地を踏んで進み、敵を脅かして、飛び跳ねさせるべきである。これは人を意のままにして、人に意のままにされないことである。鳥をまねて飛び跳ねるよりは、相手の技を外さないのがよいだろう。昔ある僧の歌に「踊りはね庭に穂拾う小雀は鷲の心をいかで知るべき」とある。この歌の心はよくかなっている。ただし、場取りを専らにすべきである。敵を高い所に上げず、狭い所に追い込むように回るべきである。

解説

派手な早業を戒め、場取りを重んじる段です。鳥のように飛び跳ねる者は勝負の理を知らず、敵に回されているだけで、むしろ着実に実地を踏んで進み、敵を脅かして飛び跳ねさせよと言います。小雀は鷲の心を知らないという僧の歌を添え、敵を高い所に上げず、狭い所に追い込む場取りを説きます。見せ場をつくる動きより、相手が動かざるを得ない状況をつくる基本が大切だという筋です。仕事でも、目立つ施策や速さの誇示より、地道に足場を固めて主導権を握るほうが成果につながります。成果を急ぐ新人に、基本を外さない価値を伝えるのによい題材です。

この章句が説くこと

場取り早業実地主導権基本武士訓

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