武士訓 / 卷四・第14段
人をあなどるべからず。さふらひたらんものは。別して禮讓謙退すべし。殊に時の幸不幸にて。さかゆるもあり。おとろふるもあり。大身もあり。小身もあり。しかるを。いさほひありとて。人をさみし見くだすべからず。參會の折ふしも。人を上座にすゝめ。わが身は下座につくべし。たとえ奉公のそなえちがひたりとも。一往の式臺なく。上座せしむるは無禮なり。一往辭退の上にては。その人の心にまかする程あるべし。是非それともにとへりくだりて。われよりはるかに下なる人に下座するは。俗にいふ尾籠慇懃にて。かへつて無禮なるべし。路次をとをるときは。人をよぎて。人によぎさせず。大身なるもの。供おほくつれたりとても。小身なる傍輩にも道にてあはば。下馬して。禮をあつくすべし。のりうちするは。人倫にあらず。もしのりうちするものありとも。いかりをふづくむべからず。無禮のつみかれにあり。われなんぞあづからんや。
新字:人をあなどるべからず。さふらひたらんものは。別して礼譲謙退すべし。殊に時の幸不幸にて。さかゆるもあり。おとろふるもあり。大身もあり。小身もあり。しかるを。いさほひありとて。人をさみし見くだすべからず。参会の折ふしも。人を上座にすゝめ。わが身は下座につくべし。たとえ奉公のそなえちがひたりとも。一往の式台なく。上座せしむるは無礼なり。一往辞退の上にては。その人の心にまかする程あるべし。是非それともにとへりくだりて。われよりはるかに下なる人に下座するは。俗にいふ尾籠慇懃にて。かへつて無礼なるべし。路次をとをるときは。人をよぎて。人によぎさせず。大身なるもの。供おほくつれたりとても。小身なる傍輩にも道にてあはば。下馬して。礼をあつくすべし。のりうちするは。人倫にあらず。もしのりうちするものありとも。いかりをふづくむべからず。無礼のつみかれにあり。われなんぞあづからんや。
書き下し
人をあなどるべからず。さふらひたらんものは。別して禮讓謙退すべし。殊に時の幸不幸にて。さかゆるもあり。おとろふるもあり。大身もあり。小身もあり。しかるを。いさほひありとて。人をさみし見くだすべからず。參會の折ふしも。人を上座にすゝめ。わが身は下座につくべし。たとえ奉公のそなえちがひたりとも。一往の式臺なく。上座せしむるは無禮なり。一往辭退の上にては。その人の心にまかする程あるべし。是非それともにとへりくだりて。われよりはるかに下なる人に下座するは。俗にいふ尾籠慇懃にて。かへつて無禮なるべし。路次をとをるときは。人をよぎて。人によぎさせず。大身なるもの。供おほくつれたりとても。小身なる傍輩にも道にてあはば。下馬して。禮をあつくすべし。のりうちするは。人倫にあらず。もしのりうちするものありとも。いかりをふづくむべからず。無禮のつみかれにあり。われなんぞあづからんや。
現代語訳
人を侮ってはならない。侍たる者は、とりわけ礼譲・謙退すべきである。ことに時の幸不幸によって、栄える者も衰える者もあり、大身(禄の高い者)も小身もいる。それなのに、勢いがあるからといって、人を蔑み見下してはならない。会合の折にも、人を上座に勧め、わが身は下座に着くべきである。たとえ奉公の備えが違っていても、一通りの礼(式台)もなく人を上座に着かせるのは無礼である。一応辞退したうえは、その人の心に任せるのがよい。是非にとへりくだって、自分よりはるかに下の人に下座を譲るのは、俗にいう尾籠慇懃で、かえって無礼である。道を通るときは、人を避けて、人に避けさせない。大身の者が供を多く連れていても、小身の同僚に道で会ったら、馬を下りて礼を厚くすべきである。馬に乗ったまま通るのは、人の道ではない。もし乗ったまま通る者がいても、怒りを含んではならない。無礼の罪は彼にある。自分が関わることではない。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『明君家訓』第6条家中の士別て禮讓謙退を本とすべく候、むかし文王は鰥寡をもあなどらずとて、いやしき賤の男賤の女をも侮り給はず候、其頃天下を三分が二有ち給ひて、聖人にておはしませども如斯に候、まして夫より以下のもの、いかやうのいやしき者をもあなどる心有べく候、殊に士はいづれもかはることは無之候、時の仕合にて貴賤のわかちあれば、其差別もとより有べき事に候へども、しかればとてをのれが貴に奢候て、ことをかるしめ人を侮申躰は、あさはかに見ぐるしき儀に候、たとへば、參會の節人を上座へすゝめ、をのれは下座へこゞりくだり可申候、何程位剋ちがひ候共、式代もなく上座へあがり申事可有用捨候、一往も二往も辭退に及び候て、其迄は兎も角もに候、路次を通り候節も、此方は人をよけ、人は此方をよけ候てこそ、本意にて候、おのれが供まはり多きにまかせ、勢さかんにふるまひ候て、小身なるものに無禮仕事有べからず候、さやうの節は大身成ものより諸事引さげ候てこそ、おとなしくも見へ尤とも聞え候、此段は別而家老頭分のもの、其外家中の歷々心得有べき儀に候、
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『大和俗訓』巻之八・応接一我が身を卑下して、人にたかぶらざるは、誠によし。されどあまり卑屈にして、へりくだり過し、つくべき座敷などにも、たやすくつかず、道行くにも、我が先へ行くべき位なれど、辞して行かず、我が前にめぐり来れる盃をも飲まずして、人の言を多くつひやさしむるも、かへりて無礼なり。ただわが当然なるべき程をほ、あながちに強く辞退すべからず。位ある人、老いたる人、下座にありては、賤しく若き人の居るべき座なくして、各其処を得ざることあり。しかれば卑下するにも、過不及なかるべし。
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『大和俗訓』巻之八・応接一人に対して物いふに、我が位と年との程をかへりみ、又対する人の位と年との品を知りて、其宜にかなふは礼也。若いまだ物なれざる人は、すこしは人をうやまひ過すは、節にあたらざれども、大なるあやまりにあらず。わが位よりおごれるは、無礼にして大なる過なり。見にくし。座につくにも、我が身に宜しきよき程の所につくべきを、ゐなか人か、又礼知らぬ人は、人の請ぜざるに、高座に上りすぎて、見苦しく笑ふべし。我が位より下座につくは、礼にあたらざれども、大なる誤にあらず。
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『武士訓』卷二・第5段士たらんものは。節義をもつぱらたしなみ。一言一行も。武士の道にをいて。不吟味なることなきやうにと心がくべし。口にいつはりをいはず。身にわたくしをかまへず。內すなほに。外かざりなく。禮義たゞしく。作法見だれず。たつときにへつらはず。いやしきをあなどらず。富るにほこらず。まづしきを見すてず。人をそしらず。我をたてず。かげ言中謀いふべからず。
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