大和俗訓 / 巻之八・応接
一人に對して物いふに、我が位と年との程をかへりみ、又對する人の位と年との品を知りて、其宜にかなふは禮也。若いまだ物なれざる人は、すこしは人をうやまひ過すは、節にあたらざれども、大なるあやまりにあらず。わが位よりおごれるは、無禮にして大なる過なり。見にくし。座につくにも、我が身に宜しきよき程の所につくべきを、ゐなか人か、又禮知らぬ人は、人の請ぜざるに、高座に上りすぎて、見苦しく笑ふべし。我が位より下座につくは、禮にあたらざれども、大なる誤にあらず。
新字:一人に対して物いふに、我が位と年との程をかへりみ、又対する人の位と年との品を知りて、其宜にかなふは礼也。若いまだ物なれざる人は、すこしは人をうやまひ過すは、節にあたらざれども、大なるあやまりにあらず。わが位よりおごれるは、無礼にして大なる過なり。見にくし。座につくにも、我が身に宜しきよき程の所につくべきを、ゐなか人か、又礼知らぬ人は、人の請ぜざるに、高座に上りすぎて、見苦しく笑ふべし。我が位より下座につくは、礼にあたらざれども、大なる誤にあらず。
書き下し
一人に対して物いふに、我が位と年との程をかへりみ、又対する人の位と年との品を知りて、其宜にかなふは礼也。若いまだ物なれざる人は、すこしは人をうやまひ過すは、節にあたらざれども、大なるあやまりにあらず。わが位よりおごれるは、無礼にして大なる過なり。見にくし。座につくにも、我が身に宜しきよき程の所につくべきを、ゐなか人か、又礼知らぬ人は、人の請ぜざるに、高座に上りすぎて、見苦しく笑ふべし。我が位より下座につくは、礼にあたらざれども、大なる誤にあらず。
現代語訳
人に対して物を言うのに、自分の位と年齢のほどをかえりみ、また向き合う人の位と年齢の程度を知って、そのよろしきにかなうのが礼です。もしまだ物慣れない人が、少し人を敬い過ぎるのは、節度に当たらないけれども、大きな誤りではありません。自分の位よりおごるのは、無礼で大きな過ちです。見苦しい。座に着くにも、自分の身にふさわしいほどよい所に着くべきなのに、田舎者か、また礼を知らない人は、人に請われないのに上座に上りすぎて、見苦しく笑うべきことです。自分の位より下座に着くのは、礼に当たらないけれども、大きな誤りではありません。
解説
この章句が説くこと
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『慎思録』巻之五卑幼の輩、居れば則ち長者の位を避け、行けば則ち随ひ行き、言語応対は、則ち恂恂として謙遜す。是れ礼の当に然るべき所なり。後世の卑幼は此の礼に循はず。往往長者の位に居り、先生と並び行き、言語応対は、則ち尊長と抗敵す。唯速やかに成人の列に進まんことを欲し、等を躐え節を凌ぐ。分に安んぜざるの甚だしきなり。是を以て驕惰の心を養成して、教ふべからざるに至る。歎ずべきかな。
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史記 魏公子列伝魏に隠士有り、侯嬴と曰ふ、年七十、家貧しく、大梁の夷門の監者為り。公子これを聞き、往きて請ひ、厚くこれに遺らんと欲す。受くるを肯んぜずして曰く、「臣、身を脩め行ひを絜くすること数十年、終に監門の困しみの故を以て公子の財を受けず」と。公子是に於いて乃ち酒を置きて大いに賓客を会す。坐定まり、公子車騎を従へ、左を虚しくして、自ら夷門の侯生を迎ふ。侯生、敝れたる衣冠を摂め、直ちに上りて公子の上坐に載り、譲らず、以て公子を観んと欲す。公子轡を執ること愈々恭し。侯生また公子に謂ひて曰く、「臣に客の市の屠中に在る有り、願はくは車騎を枉げてこれに過れ」と。公子車を引きて市に入る。侯生下りてその客朱亥に見え、俾倪して故らに久しく立ち、その客と語り、微かに公子を察す。公子の顔色愈々和らぐ。是の時に当たり、魏の将相・宗室・賓客堂に満ち、公子の酒を挙ぐるを待つ。市人皆公子の轡を執るを観る。従騎皆竊かに侯生を罵る。侯生、公子の色の終に変ぜざるを視て、乃ち客に謝して車に就く。家に至り、公子、侯生を引きて上坐に坐せしめ、遍く賓客に賛す、賓客皆驚く。酒酣にして、公子起ち、寿を侯生の前に為す。侯生因りて公子に謂ひて曰く、「今日、嬴の公子の為にするもまた足れり。嬴は乃ち夷門の抱関者なり、而るに公子親ら車騎を枉げ、自ら嬴を衆人広坐の中に迎ふ、宜しく過る所有るべからざるに、今公子故らにこれに過る。然れども嬴は公子の名を就さんと欲す、故に久しく公子の車騎を市中に立たしめ、客に過りて以て公子を観る、公子愈々恭し。市人皆嬴を以て小人と為し、而して公子を以て長者にして能く士に下ると為すなり」と。是に於いて酒を罷め、侯生遂に上客と為る。
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論語・郷党篇孔子、郷党に於いて、恂恂如たり、言うこと能わざる者に似たり。其の宗廟朝廷に在るや、便便として言い、唯だ謹めるのみ。
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『大和俗訓』巻之八・応接一凡人に交るには、言も形も、礼をあつくすべし。人の言を咎むべからず。もし止む事を得ずして、人の過を正さば、礼義を以て、其道理を真実にのぶべし。怒りて言を過し、無礼をなすべからず。一古人の言に、天下皆非なるの理なしといへり。此言よく体認すべし。世の中の人のしわざ、わが心に叶はずとも、皆ひが事にてはあらじ、何事ぞ故ありて斯あるべしと思ひ、みだりに人を咎むべからず。我が心にあししと思へど、又さなき事あり。故ありてなせる事には、過ならざる事あり。又かへつて道理にかなへる事あり。わが心必道理の寸尺のかねになるべからず。我が心にあしきと思ふとも、みだりに人を責めそしるべからず。愚なる人は、人情事変を知らず、人のなすわざ心に叶はざれば、故ありと、故なきとをかへりみず、妄に人をそしり怨むる故に、うらむるも誹る義理にかなはざること多し。
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