武士訓 / 卷三・第13段
鎧は札よきを用ひて。威毛をゑらぶべからず。劍はきれを專として。作こしらへを好むべからず。(刀はかされ厚きを用べし。かされ薄きは。うちあはせたるとき。折ることまゝあり。そりたるを用べし。すぐなるはよろしからず。鋒かろくつりあひよきやうにすべし。鋒おもきはよろしからず。皮づかを用べからず。皮柄は血かゝればすべりてにぎりがたきものなり。柄に打鮫をもちゆべからず。打鮫は切あふとき。柄くだくるものなり。鍔はすかしなきを用べし。すかしあるは切わることまゝあり。無地のあつきをよしとす。さめざやをさすべからず。さめざやは雨中にはゑめりてぬけかぬるものなり。ましてや水かゝりぬれば猶さらなり。わきざしにはかへり角をもちゆるども。刀にはもちゆることなかれ。刀にかへり角を用るは劍法をゑらざる人なり。)
新字:鎧は札よきを用ひて。威毛をゑらぶべからず。剣はきれを専として。作こしらへを好むべからず。(刀はかされ厚きを用べし。かされ薄きは。うちあはせたるとき。折ることまゝあり。そりたるを用べし。すぐなるはよろしからず。鋒かろくつりあひよきやうにすべし。鋒おもきはよろしからず。皮づかを用べからず。皮柄は血かゝればすべりてにぎりがたきものなり。柄に打鮫をもちゆべからず。打鮫は切あふとき。柄くだくるものなり。鍔はすかしなきを用べし。すかしあるは切わることまゝあり。無地のあつきをよしとす。さめざやをさすべからず。さめざやは雨中にはゑめりてぬけかぬるものなり。ましてや水かゝりぬれば猶さらなり。わきざしにはかへり角をもちゆるども。刀にはもちゆることなかれ。刀にかへり角を用るは剣法をゑらざる人なり。)
書き下し
鎧は札よきを用ひて。威毛をゑらぶべからず。劍はきれを專として。作こしらへを好むべからず。(刀はかされ厚きを用べし。かされ薄きは。うちあはせたるとき。折ることまゝあり。そりたるを用べし。すぐなるはよろしからず。鋒かろくつりあひよきやうにすべし。鋒おもきはよろしからず。皮づかを用べからず。皮柄は血かゝればすべりてにぎりがたきものなり。柄に打鮫をもちゆべからず。打鮫は切あふとき。柄くだくるものなり。鍔はすかしなきを用べし。すかしあるは切わることまゝあり。無地のあつきをよしとす。さめざやをさすべからず。さめざやは雨中にはゑめりてぬけかぬるものなり。ましてや水かゝりぬれば猶さらなり。わきざしにはかへり角をもちゆるども。刀にはもちゆることなかれ。刀にかへり角を用るは劍法をゑらざる人なり。)
現代語訳
鎧は札のよいものを用い、威毛を選んではなりません。剣は切れ味を第一にし、作りやこしらえを好んではなりません。(刀は、かされ(刀身の厚み)の厚いものを用いなさい。かされが薄いと、打ち合わせたとき折れることがしばしばあります。反りのあるものを用い、まっすぐなものはよくありません。鋒は軽く、つり合いのよいものにしなさい。鋒が重いものはよくありません。皮柄を用いてはなりません。皮柄は血がかかると滑って握りにくいものです。柄に打鮫を用いてはなりません。打鮫は切り合うとき、柄が砕けるものです。鍔は透かしのないものを用いなさい。透かしがあると切り割ることがしばしばあります。無地の厚いものがよいとします。鮫鞘を差してはなりません。鮫鞘は雨の中では湿って抜きにくいもので、まして水がかかればなおさらです。脇差には返り角を用いるけれども、刀には用いてはなりません。刀に返り角を用いるのは、剣法を選ばない人です。)
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『武士道』第十三章 刀・武士の魂・刀匠の工場は至聖処なりき刀を賤むるは即ち其主を侮辱する所以にして、床上の刀を越ゆるの軽忽をなすものあらば、禍直ちに其身に及ぶ。刀は尊貴なるが故に、おのづから美術家の伎倆、主人の虚栄の之に伴ふあり。世泰平にして、佩刀の、僧正の錫杖、帝王の玉笏と択ぶ所無きの日に在りては、殊に其の然るものありき。柄には鮫皮絹糸を巻き、鍔には金銀を鏤め、鞘には五彩を抹漆し、燦煥の美は、反つて刀刃の威を奪ふものがごとし。されど其外飾はただに翫具たるに過ぎざるのみ、刀身の真価はかつて増減あること無し。刀匠はただに工人たる者に非らずして、かへつて天意感通の美術家なり、其工場は至聖処なりき。晨朝斎戒沐浴して其業に従ひ、心魂気魄を打つて錬鉄を鍛冶し、揮槌、入湯、砥礪の如き、皆厳粛なる祭式なり。
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五輪書・地の巻武道具の利をわきまふるに、何れの道具にても、おりにふれ、時にしたがひ、出合ふものなり。脇差は座のせまき所、敵の身ぎはへよりて、其の利多し。太刀は何れの所にても、大形(おほかた)出合ふ利有り。長刀は戦場にては槍におとる心有り。槍は先手なり、長刀は後手なり。同じ位のまなびにしては、槍は少し強し。槍・長刀も、事によりつまりたる所にては、其の利少し。取籠り者などにも然るべからず。只戦場の道具なるべし。弓は合戦の場にて、かけひきにも出合ひ、槍わき其の外、物きは物きはにて、はやく取り合ひするものなれば、野相(のあひ)の合戦などにとりわきよき物なり。城攻めなど、又敵相二十間をこえては、不足なるものなり。当世に於ては、弓は申すに及ばず、諸芸花多くして実少なし。左様の芸能は、肝要の時役に立ちがたし。鉄砲、其の利多し。城廓の内にしては、鉄砲にしく事なし。野相などにても、合戦のはじまらぬうちは、其の利多し。戦はじまりては不足なるべし。弓の一の徳は、放つ矢、人の目に見えてよし。鉄砲の玉は、目に見えざる所、不足なり。此の儀、能々(よくよく)吟味有るべきなり。馬の事、つよくこたへて、くせなき事肝要なり。総て武道具につけ、馬も大形にありき、刀・脇差も大形にきれ、槍・長刀も大形にとほり、弓・鉄砲もつよくそこねざる様に有るべし。道具以下にも、かたわけてすく事有るべからず。あまりたる事は、たらぬと同じ事なり。人まねをせずとも、我身に随ひ、武道具は手にあふ様に有るべし。将卒共に、物にすき物を嫌ふ事悪し。工夫肝要なり。
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