武士訓 / 卷三・第14段
傍輩どもつね〱寄合ときの饗應は。有のかゝり一汁一菜たるべし。すべてさふらひの參會は。したしみをもとめ。情をのべ。異見をきゝ。かたりなぐさむばかりなるに。もてなしにこゝろをつくし。金銀をついやすは有まじき事なり。中頃北條時賴入道ある霄のまに平宣時(時康子)をよび。酒を出しけるに。かはらけに未醬の少しつきたるを。さかなとせしこと古記にのせり。又時賴入道鶴岡參詣のかへるさに。足利左馬入道(源義成)のもとへ。さきだちて使をつかはし。立いられけるに。かの入道のもてなしに。初獻にうちあはび。つぎにゑび。三にかいもちゐにてやみぬとも見へたり。中ごろまではかくこそ有しに。今は饗應にさま〱の用意して。米錢をついやすにいたれり。たま〱さなければ。そしりあへるたぐひおほし。役人たらんものは。おのれにあはんとて。來るものあらば。私用おほくとも。すて置て出あふべし。
新字:傍輩どもつね〱寄合ときの饗応は。有のかゝり一汁一菜たるべし。すべてさふらひの参会は。したしみをもとめ。情をのべ。異見をきゝ。かたりなぐさむばかりなるに。もてなしにこゝろをつくし。金銀をついやすは有まじき事なり。中頃北条時頼入道ある霄のまに平宣時(時康子)をよび。酒を出しけるに。かはらけに未醬の少しつきたるを。さかなとせしこと古記にのせり。又時頼入道鶴岡参詣のかへるさに。足利左馬入道(源義成)のもとへ。さきだちて使をつかはし。立いられけるに。かの入道のもてなしに。初献にうちあはび。つぎにゑび。三にかいもちゐにてやみぬとも見へたり。中ごろまではかくこそ有しに。今は饗応にさま〱の用意して。米銭をついやすにいたれり。たま〱さなければ。そしりあへるたぐひおほし。役人たらんものは。おのれにあはんとて。来るものあらば。私用おほくとも。すて置て出あふべし。
書き下し
傍輩どもつね〱寄合ときの饗應は。有のかゝり一汁一菜たるべし。すべてさふらひの參會は。したしみをもとめ。情をのべ。異見をきゝ。かたりなぐさむばかりなるに。もてなしにこゝろをつくし。金銀をついやすは有まじき事なり。中頃北條時賴入道ある霄のまに平宣時(時康子)をよび。酒を出しけるに。かはらけに未醬の少しつきたるを。さかなとせしこと古記にのせり。又時賴入道鶴岡參詣のかへるさに。足利左馬入道(源義成)のもとへ。さきだちて使をつかはし。立いられけるに。かの入道のもてなしに。初獻にうちあはび。つぎにゑび。三にかいもちゐにてやみぬとも見へたり。中ごろまではかくこそ有しに。今は饗應にさま〱の用意して。米錢をついやすにいたれり。たま〱さなければ。そしりあへるたぐひおほし。役人たらんものは。おのれにあはんとて。來るものあらば。私用おほくとも。すて置て出あふべし。
現代語訳
同僚たちがふだん寄り合うときのもてなしは、あるものでまかなう一汁一菜にしなさい。およそ侍の集まりは、親しみを求め、思いを述べ、意見を聞き、語らって慰め合うだけのものなのに、もてなしに心を尽くして金銀を費やすのは、あってはならないことです。中ごろ、北条時頼入道がある宵のうちに平宣時(時康の子)を呼んで酒を出したとき、かわらけに味噌が少しついたものを肴にしたことが古記に載っています。また時頼入道は、鶴岡に参詣した帰りに、足利左馬入道(源義成)のもとへ先に使いをやって立ち寄りましたが、その入道のもてなしは、初献に打ち鮑、次に海老、三つめに掻餅で終わったとも見えます。中ごろまではこうだったのに、今はもてなしにさまざまな用意をして、米や銭を費やすまでになりました。たまたましないと、そしり合う者が多いのです。役人たる者は、自分に会おうと来る者があれば、私用が多くとも打ち捨てて出会いなさい。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『明君家訓』第15条(一)家中の士つね〱寄會の料理、内々定め置候とをり、一汁一菜、それも成程麁相にこへたる儀は無之候、鹽梅とりあひのよきあしきは、さのみ挨拶にも及まじき事に候、士の寄會あそび候は、たがひにしたしみをもとめ、おもはくをのべ、異見をも聞て、かたりなぐさむ爲ばかりに候、馳走とは亭主の禮儀とゝのひ候て、ねんごろにもてなすをこそ申べく候、當代馳走とて、料理のとりあひ座上の物ずきなどに心をつくし、隙を費し候て何の爲に候や難心得候、北條時頼ある宵の間に、平宣時をよばるゝ事有しに、やがてと申ながら直垂のなくて、とかくせし程に、又使來て、もし直垂などのさふらはぬにや、夜なればことやう成共、とくとありしかば、なへたる直垂うち〱のまゝにてまかりたりしに、銚子に土器とり添てもて出で、此酒をひとり給んがさう〱しければ申つるなり、さかなこそなけれ、人はしづまりぬらん、さりぬべき物や有といづく迄も求めたまへと有しかば、しそくさしてくま〱をもとめし程に、臺所の棚に、土器に味噌の少しつきたるを見出で、これぞ求得てさふらふと申しかば、事たりなんとて、心よく數獻に及で、興に入られ侍りきと、吉田兼好がつれ〱に書のせ候、
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『明君家訓』第15条(二)時頼は其頃天下の執權職にて、かやうに無造作にして、身榮輝なきふるまひ、是に過たる事や候べき、無比類殊勝の儀に候、時頼程の人にかやうのためし、異國にも不承及事に候、土器につきたる味噌をなめて酒をのむやうのことは、今の世には下蔭さへ不仕事にて候へば、まして少しの所帶をも持候もの、おもひもよらず候、少し有酒をともにのまんとて、はやくも思ひつけてよばれしをば、宣時もさぞうれしく思ふべく候、惣じて人に物を贈り候にも、ふるまひ候にも、不圖おもひ付候て、手がるくいたし候こそ、誠の志はあらはれ候、こと〱しくとりつくろひたるは輕薄に見へて面白からず候、友だちのまじはりは、たゞ禮法正しくして、しかもをのづからしたしみあるこそ、いくたびもあかぬものにて候、宣時が夜ともいはず、直垂とり求めしを、時頼もおそきにてはや推はかりて、其儘まかられよといひをこせられしにて、其比の風俗かりそめにも作法の正しき事をしりぬ、又時頼のてうしに、土器自身もて出られしこそ、これに過たる馳走や有べき、扱、なへてこそあれ急度直垂着て、土器の味噌をなめし宣時が有樣、たぐひなくやさしく覺へ候、人のしづまりぬる、おこさどりしも下をいたはりし有樣に候、士のまじはりは、今とてもかやうに有たきものにて候、
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『武士訓』卷三・第12段家はもらざればよし。壘はやぶれざればたれり。其餘の器物高直なるをもとめず。ありのかゝりにすべし。平生無用の事に米錢をついやさずして。不慮のときに及ても。ゆきあたりて難儀せざるやうに心得べし。むかし北條時賴母松下禪尼の。手づからさうじのやぶれをつくろひし。いと殊勝なり。儉約を用ることかくのごとくなるべし(俗間障子を反古にてはるものあり。これ不嗜なり。かならず反古をもちゆべからず。)
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『家道訓』巻之二・総論中一親戚をば、時々まねきて饗応すべし。しからざれば情意うとくなる。食品はうすくし、情意は厚かるべし。一家ををさむるに、法なくいるかせにして、家道みだりなれば、其の家の奴婢もおこたり、無礼にしてわがままになるゆゑに、身のならはし、悪しくなる事をば知らで、其の家風のいるかせなるをよろこぶ。又主人倹約ならざれば、奴婢のためゆたかなるやうに思ひてよろこぶ。此の二は、無道にして却ていやしき愚なる者の、ほまれを得るものなり。故に奴婢のほまれを得る人は、却て其家法みだりなる事多し。しかれば、いやしき者と愚人とのほまれをよろこぶべからず。そしりをくるしむべからず。又、いやしきものと愚なる者のほめそしりを聞かば、信ずべからず。是を信ずれば、あやまりてひが事あり。
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『武士訓』卷四・第1段さふらひの出あひには。禮法たゞしくすべし。數年したしくまじはるとも。ことばをいやしくすべからず。ことばをいやしくすれば。奴僕の參會のごとし。かりそめのはなしにも。前後を勘辨し忠孝の沙汰。文武の吟味。あるひは古書に所載歴代の治亂興亡。かゝることは義にあたるか。あたらざるかなどゝ談ずべし。武士は。文武のほかの藝は。つたなくてもくるしからず。萬事をさし置て。まづ文武を講ずべし。
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『養生訓』巻第四・飲食下一朝夕一飣を用ふべし。其上に、醬か肉醢か、或は菹か、一品を加ふるもよし。あつものは、富める人も常に只一なるべし。客に饗するに、二用ふるは、本汁もし心に叶はずば、二の汁を用ひさせん為なり。常には無用の物なり。唐の高侍郎と云ひし人、兄弟あつものと肉を二にせず、朝夕一品のみ用ふ。晩食には、只蔔匏をくらふ。大根と夕がほとを云ふ。范忠宣と云ひし富貴の人、平生肉をかさねず。其倹約養生、二ながら則とすべし。
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