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武備和訓 / 卷五・刀の拵えは堅固を第一に、柄と心木を整える

一刀劔具足するを世俗こしらゆると云、惣て武士の刀脇指の餘り光〻輝〻は、心にくらず、異なる物好致すべからず、鮫は塗べし、柄の心木は必ず柚か樫を用べし、假令白鮫を用るとも心木堅く柄卷工の巧手に命じて、最上の糸を用て能松鼠をぬり、鐵石の如く卷ときは、柄碎る事なし、韋を用る事は尤つたなし、武備にもあらず、禮にも乖べし、刀劔の仕立肝要なる物は杷なり、武人常にいふ、糸切て手の內碎ると、杷糸切解る程にては兩手の指存すべからず、松鼠をつけて至極堅く卷時は、たとへ寸寸にきるゝとも其解る事なし、心木厚朴を用るとも卷糸堅じければ輙く不碎、其くだくると云も木は柔にして緩き故也、古來の柄に厚朴を用て不碎事は、古は心木極て細き故鮫をきせて地を高くしあげ、能塗たる故手の內細からず、其木うすくして、中心にしなひつよく漆を付る故猶堅くして碎けざるもの也、當世は鮫ぬらざるを以心木大きく、しかも柄緩きを以碎る事あり、心木樫なれば唯堅さのみならず、劔のつりあひの爲に大によし、うち鮫を用るとも、心木右二木の內なれば碎る事なし、尤杷は長きに德あり、鐔は重く大なるを能とせり、(武藏流の如きは論ずるに不及者也)劔の身は專磨を吟味すべし、かくし根刄は用に不立、

新字:一刀剣具足するを世俗こしらゆると云、惣て武士の刀脇指の余り光〻輝〻は、心にくらず、異なる物好致すべからず、鮫は塗べし、柄の心木は必ず柚か樫を用べし、仮令白鮫を用るとも心木堅く柄巻工の巧手に命じて、最上の糸を用て能松鼠をぬり、鉄石の如く巻ときは、柄砕る事なし、韋を用る事は尤つたなし、武備にもあらず、礼にも乖べし、刀剣の仕立肝要なる物は杷なり、武人常にいふ、糸切て手の内砕ると、杷糸切解る程にては両手の指存すべからず、松鼠をつけて至極堅く巻時は、たとへ寸寸にきるゝとも其解る事なし、心木厚朴を用るとも巻糸堅じければ輙く不砕、其くだくると云も木は柔にして緩き故也、古来の柄に厚朴を用て不砕事は、古は心木極て細き故鮫をきせて地を高くしあげ、能塗たる故手の内細からず、其木うすくして、中心にしなひつよく漆を付る故猶堅くして砕けざるもの也、当世は鮫ぬらざるを以心木大きく、しかも柄緩きを以砕る事あり、心木樫なれば唯堅さのみならず、剣のつりあひの為に大によし、うち鮫を用るとも、心木右二木の内なれば砕る事なし、尤杷は長きに徳あり、鐔は重く大なるを能とせり、(武蔵流の如きは論ずるに不及者也)剣の身は専磨を吟味すべし、かくし根刄は用に不立、

書き下し

一刀劔具足するを世俗こしらゆると云、惣て武士の刀脇指の餘り光〻輝〻は、心にくらず、異なる物好致すべからず、鮫は塗べし、柄の心木は必ず柚か樫を用べし、假令白鮫を用るとも心木堅く柄卷工の巧手に命じて、最上の糸を用て能松鼠をぬり、鐵石の如く卷ときは、柄碎る事なし、韋を用る事は尤つたなし、武備にもあらず、禮にも乖べし、刀劔の仕立肝要なる物は杷なり、武人常にいふ、糸切て手の內碎ると、杷糸切解る程にては兩手の指存すべからず、松鼠をつけて至極堅く卷時は、たとへ寸寸にきるゝとも其解る事なし、心木厚朴を用るとも卷糸堅じければ輙く不碎、其くだくると云も木は柔にして緩き故也、古來の柄に厚朴を用て不碎事は、古は心木極て細き故鮫をきせて地を高くしあげ、能塗たる故手の內細からず、其木うすくして、中心にしなひつよく漆を付る故猶堅くして碎けざるもの也、當世は鮫ぬらざるを以心木大きく、しかも柄緩きを以碎る事あり、心木樫なれば唯堅さのみならず、劔のつりあひの爲に大によし、うち鮫を用るとも、心木右二木の內なれば碎る事なし、尤杷は長きに德あり、鐔は重く大なるを能とせり、(武藏流の如きは論ずるに不及者也)劔の身は專磨を吟味すべし、かくし根刄は用に不立、

現代語訳

一つ、刀剣を具足するのを世俗で拵えると言います。すべて武士の刀・脇指があまり光り輝くのは、心に合いません。変わった物好きをしてはいけません。鮫は塗るべきです。柄の心木は必ず柚か樫を用いるべきです。たとえ白鮫を用いても、心木が堅く、柄巻の上手に命じ、最上の糸を用いてよく松鼠を塗り、鉄石のように巻けば、柄が砕けることはありません。韋(革)を用いることは最も拙く、武備にもならず、礼にも背きます。刀剣の仕立てで肝要なものは杷(柄)です。武人はいつも、糸が切れて手の内が砕けると言います。杷糸が切れ解けるほどでは、両手の指は残らないでしょう。松鼠をつけて極めて堅く巻けば、たとえ寸々に切れても解けることはありません。心木に厚朴を用いても、巻糸が堅ければ、たやすく砕けません。砕けるというのも、木が柔らかく緩いためです。古来の柄に厚朴を用いて砕けなかったのは、古くは心木が極めて細いので、鮫を着せて地を高く仕上げ、よく塗ったので手の内が細くならなかったからです。その木が薄く、中心にしなう力が強く漆を付けるので、なお堅くて砕けないのです。当世は鮫を塗らないので心木が大きく、しかも柄が緩いため、砕けることがあります。心木が樫であれば、堅いだけでなく、剣の釣り合いのためにも大いによいのです。うち鮫を用いても、心木が右の二木のうちであれば砕けません。もっとも杷は長いほうが徳があります。鐔は重く大きいのがよいとされます(武蔵流のようなものは論じるに及びません)。剣の身は専ら磨きを吟味すべきです。隠し根刃は用に立ちません。

解説

刀の拵えについて、見かけの華やかさより堅固さを重んじる章句です。光り輝く飾りや変わった趣向を退け、柄の心木、巻き、漆を丁寧に整えることを説きます。専門的な内容ですが、使う者の手元を守る基本を最優先とする考え方が通っています。管理職の実践に置き換えると、資料や仕組みの見栄えを整える前に、土台の堅牢さと使い手の安全を確保することです。壊れて初めて困る箇所ほど、日頃から丁寧に点検しておきたいものです。
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人生を、一行の式にしてみた。

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この章句が説くこと

『武備和訓』片島武矩拵え柄心木堅固

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