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武士訓 / 卷三・第2段

賴信このことをきゝて。賴義にはしらさず。胡籙かきおひ馬にのつて。必條此盗賊は。東よりつけ來りたるものよと思はれければ。關山をさして追てゆく。賴義は裝束もとかで丸寢して居ければ。これも籙おひ馬に騎て。父にもつげず關山へむかつて追ゆきたり。件の盗賊は。ぬすみ得たる馬にのつて。關山邊の川をさつと渡してあゆませゆく。賴信このをとをきゝて。賴義はさだめてわれよりさきだちぬらんと思れければ。はやかれを射よとよばゝれるに。とばのうちに。弓のをとからく〳〵としければ。射おとしたりと心え。いそぎ馬をとり來れと。いひすてゝ。家に歸られければ。賴義もほどなく馬をひきてぞ來られけりとあり。武道に心がくる者は。かくこそありたけれ(寢ときも帶をとくべからず。鎧は勿論小帶をなすべからず。前帶をなすことなかれ。)

新字:頼信このことをきゝて。頼義にはしらさず。胡籙かきおひ馬にのつて。必条此盗賊は。東よりつけ来りたるものよと思はれければ。関山をさして追てゆく。頼義は装束もとかで丸寝して居ければ。これも籙おひ馬に騎て。父にもつげず関山へむかつて追ゆきたり。件の盗賊は。ぬすみ得たる馬にのつて。関山辺の川をさつと渡してあゆませゆく。頼信このをとをきゝて。頼義はさだめてわれよりさきだちぬらんと思れければ。はやかれを射よとよばゝれるに。とばのうちに。弓のをとからく〳〵としければ。射おとしたりと心え。いそぎ馬をとり来れと。いひすてゝ。家に帰られければ。頼義もほどなく馬をひきてぞ来られけりとあり。武道に心がくる者は。かくこそありたけれ(寝ときも帯をとくべからず。鎧は勿論小帯をなすべからず。前帯をなすことなかれ。)

書き下し

賴信このことをきゝて。賴義にはしらさず。胡籙かきおひ馬にのつて。必條此盗賊は。東よりつけ來りたるものよと思はれければ。關山をさして追てゆく。賴義は裝束もとかで丸寢して居ければ。これも籙おひ馬に騎て。父にもつげず關山へむかつて追ゆきたり。件の盗賊は。ぬすみ得たる馬にのつて。關山邊の川をさつと渡してあゆませゆく。賴信このをとをきゝて。賴義はさだめてわれよりさきだちぬらんと思れければ。はやかれを射よとよばゝれるに。とばのうちに。弓のをとからく〳〵としければ。射おとしたりと心え。いそぎ馬をとり來れと。いひすてゝ。家に歸られければ。賴義もほどなく馬をひきてぞ來られけりとあり。武道に心がくる者は。かくこそありたけれ(寢ときも帶をとくべからず。鎧は勿論小帶をなすべからず。前帶をなすことなかれ。)

現代語訳

頼信はこのことを聞き、頼義には知らせず、胡籙を背負い、馬に乗って、必ずこの盗賊は東からつけてきた者だと思われたので、関山をさして追って行きました。頼義は装束も解かず丸寝していたので、これも胡籙を負い馬に乗って、父にも告げず関山へ向かって追って行きました。例の盗賊は、盗み取った馬に乗って、関山あたりの川をさっと渡して歩ませて行きます。頼信はこの音を聞いて、頼義はきっと自分より先に着いただろうと思われたので、早く射よと呼ばれたところ、鳥羽のうちに弓の音がからからとしたので、射落としたと心得、急いで馬を取って来いと言い捨てて、家に帰られました。頼義もほどなく馬を引いて来られたと書かれています。武道に心がける者は、こうありたいものです(寝るときも帯を解いてはなりません。鎧はもちろん、小帯をしないでもいけません。前帯をしないこともいけません)。

解説

頼信は頼義に知らせず盗賊を追い、頼義もまた装束を解かずに寝ていたので、父に告げずに追い、先に着いたと思って呼びかけた頼信の声に弓の音で応えます。互いに告げ合わなくても、同じ備えで動いたことが、この逸話の要点です。割注は、寝るときも帯を解かず、鎧の小帯や前帯も欠かさないようにと、具体的な備えを書き添えています。いまの仕事に置き換えれば、細かい指示がなくても、状況を見て同じ方向に動けるチームは、日頃から基準と準備を共有しています。部下を育てる側にとって、何を備えとして共有するかを考える材料になります。

この章句が説くこと

備え阿吽先んじる頼義日頃の準備武士訓

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