武士訓 / 卷二・第16段
俗間の諺に。唐士の虎は毛をおしみ。和朝の武士は名を惜むといへり。名をおしむといへるも。利をこのむといふよりはよろしけれども。おなじくは義を守るといひたし。武夫たらんものは。一言もつてつゝしまずんば有べからず。
書き下し
俗間の諺に。唐士の虎は毛をおしみ。和朝の武士は名を惜むといへり。名をおしむといへるも。利をこのむといふよりはよろしけれども。おなじくは義を守るといひたし。武夫たらんものは。一言もつてつゝしまずんば有べからず。
現代語訳
世間の諺に、唐土の虎は毛を惜しみ、和朝の武士は名を惜しむ、と言います。名を惜しむというのも、利を好むというよりはよいのですが、同じことなら義を守ると言いたいものです。武夫たる者は、一言であっても慎まずにはいられません。
解説
この短い段は、名を惜しむことを、利を好むことより上に置きつつ、さらに義を守るほうへ引き上げています。虎は毛皮を惜しみ、武士は名を惜しむという諺は、世間体を保とうとする心を言い当てています。蟠龍は、名を惜しむ心を否定はしませんが、世間の評判を気にする動機は不安定なので、義という基準に置き換えたいと述べます。一言も慎むべしという結びは、前段までの言行への戒めに通じます。評判を守るための行動と、筋を守るための行動を分けて考えるのは、今の組織の意思決定でも役立つ見方です。
この章句が説くこと
名を惜しむ義を守る評判慎み一言武士訓
関連する章句
-
『武士訓』卷一・第17段士は節に臨み。義によりて。身を塵芥になぞらへ。命を鴻毛よりかろんずべし。是父母の遺體をはづかしめざるなり。しかれどもたけくいさめる人の道しらぬは。一朝のいかりに無益の死をとぐる多し。命をすつるのみを勇武とおぼえたるは。古人も盲虎にひとしとそしれり。
-
『武士訓』卷二・第5段士たらんものは。節義をもつぱらたしなみ。一言一行も。武士の道にをいて。不吟味なることなきやうにと心がくべし。口にいつはりをいはず。身にわたくしをかまへず。內すなほに。外かざりなく。禮義たゞしく。作法見だれず。たつときにへつらはず。いやしきをあなどらず。富るにほこらず。まづしきを見すてず。人をそしらず。我をたてず。かげ言中謀いふべからず。
-
『武士訓』卷三・第4段世俗武藝少しおぼえぬれば。つねに目かどをたて。假初の出あひにも。他のことばをとがむるは。血氣のためにおかされて。忠孝の理をわすれたるなり。ねがはくは。裏に勇猛を含みて。表に和愛を顯すべし。死すべきところにのぞみては。人にさきだちて一足も退ざるべし。但し死すべき塲と。死すまじき塲あり。死すべき塲に死るを義死と稱し。死すまじき塲に死るを狗死と譏れり。
-
『武士訓』卷二・第3段右にいふごとく。士は義理にさときを專とすべし。義理にさときものは利慾にうとく。利欲にさときものは義理にうとし。有眼の人は。利欲にさときものをみては。さてぞ義理にうとからんと思ふとなり。利をこのませず。いさぎよからしめん爲にこそ。君より俸祿をたまはりて。身をたてり。しかるを。忠孝の道をわきまえず。文武の業をならはず。剩恒産ある身ながら。恒産なき商のごとく。米銀をとりあつかひ。利倍をこのむ者あり。見る目もうたてゝ。きく耳もなをいとはし。
-
『大和俗訓』巻之四・心術下一わが身を修むるには、誉られんとすべからず。ただ過なからん事を思ふべし。我が身だに道理にかなはば、人の毀誉は、さもあらばあれ、喜憂とするにたらず。但士の節義武勇の道と、又利欲のけがれなく、廉潔にしてむさぼらざる、此二は、なべて人の毀らざるやうに心がけつとむべし。名ををしむも、義において害なし。此二のこと欠けなば、其余は見るに足らず。
-
『武士訓』卷二・第6段古語に。衣垢つきたるをあらはず。器かけたるを補ざるをば。人に見することをはづれども。行あかつきたるをあらはず。德かけたるを補ずして。天に對しても。恥ることなきはなんぞやといへり。おもふに世に刀をためし。甲をためすものありといへども。いまだ心をためし。身をためすものをきかず。外をしつて內をわきまへず。本をすてゝ末をとる。まどえるにふらずや。
人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見る