武士訓 / 卷三・第4段
世俗武藝少しおぼえぬれば。つねに目かどをたて。假初の出あひにも。他のことばをとがむるは。血氣のためにおかされて。忠孝の理をわすれたるなり。ねがはくは。裏に勇猛を含みて。表に和愛を顯すべし。死すべきところにのぞみては。人にさきだちて一足も退ざるべし。但し死すべき塲と。死すまじき塲あり。死すべき塲に死るを義死と稱し。死すまじき塲に死るを狗死と譏れり。
新字:世俗武芸少しおぼえぬれば。つねに目かどをたて。仮初の出あひにも。他のことばをとがむるは。血気のためにおかされて。忠孝の理をわすれたるなり。ねがはくは。裏に勇猛を含みて。表に和愛を顕すべし。死すべきところにのぞみては。人にさきだちて一足も退ざるべし。但し死すべき塲と。死すまじき塲あり。死すべき塲に死るを義死と称し。死すまじき塲に死るを狗死と譏れり。
書き下し
世俗武藝少しおぼえぬれば。つねに目かどをたて。假初の出あひにも。他のことばをとがむるは。血氣のためにおかされて。忠孝の理をわすれたるなり。ねがはくは。裏に勇猛を含みて。表に和愛を顯すべし。死すべきところにのぞみては。人にさきだちて一足も退ざるべし。但し死すべき塲と。死すまじき塲あり。死すべき塲に死るを義死と稱し。死すまじき塲に死るを狗死と譏れり。
現代語訳
世間では、武芸を少し覚えると、常に目角を立て、かりそめの出会いでも、他人の言葉をとがめます。これは血気に侵されて、忠孝の理を忘れたものです。願わくは、内に勇猛を含んで、外に和やかさと愛想を表すべきです。死ぬべきところに臨んでは、人に先立って一足も退いてはなりません。ただし、死ぬべき場と死ぬべきでない場があります。死ぬべき場で死ぬのを義死と称し、死ぬべきでない場で死ぬのを狗死と譏ります。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『文武訓』武訓上一勇士は命を捨つることかたからず。捨てて道にあたることかたし。道にかなはずして死するは犬死なり。たとへば狂愚なる者の、われに無礼なるをとがめて口論して、一朝の怒によりて、人と闘ひて身を捨つ、是其身をかろんず。是不孝なり、武にあらず。死ぬべくして死なざる、是命ををしむ、勇なきなり、義にあらず。戦にのぞみ、君のために節に死なず、是不忠なり。君父のために忠孝を行ひて、一かどの用に立つべきあたら身を、よしなき少しのことをいかりて、狂人愚人のために命を捨つること、おろかなり。をしむべし。
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『武訓』上・第25段勇士は、命をすつることかたからず。すてゝ、道にあたることかたし。道にかなはずして死するは、犬死なり。たとへば、狂愚なる者の、われに無禮なるをとがめて口論して、一朝の怒によりて、人と鬪ひて身をすつ、是、其の身をかろんず。是、不孝なり。武にあらず。死ぬべくして死なざる、是、命をしむ、勇なきなり。義にあらず。戰にのぞみ、君のために、節に死なず。是、不忠なり。君父のために、忠孝を行ひて、一かどの用に立つべきあたら身を、よしなき少しのことをいかりて、狂人愚人のために命を捨つること、おろかなり。をしむべし。
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『文武訓』武訓上一士たる者、戦にのぞんで身を捨つることはかたからず。血気の勇は盗賊もよくするものなり。只身を捨てて義にかなふことかたし。故に、死ぬべからずして死ぬるは、是其身をかろんず。父母よりうけし身をいたづらにするは不孝なり。死ぬべくして死なざるは、是其死をおそれ、命ををしみて君の為にせず、不忠なり。是李太白が言なり。年わかく血気さかんなる人、勇をこのまば、忠孝の道を知りて、生死只義にかなふべし。学問なければ忠孝の道を知らず、死ぬべくして死なず。いやしむべし。死ぬべからずして死ぬ、かなしむべし。勇怯ことなれども、義理にそむけることは一なり。武士は、学問して義理を知れば、死生する理にかなふ。
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『武訓』上・第13段士たる者、戰にのぞんで、身をすつることはかたからず。血氣の勇は、盜賊もよくするものなり。只、身をすてゝ、義にかなふことかたし。故に、死ぬべからずして死ぬるは、是、其の身をかろんず。父母よりうけし身をいたづらにするは、不孝なり。死ぬべくして死なざるは、是、其の死をおそれ、命をしみて君の爲にせず、不忠なり。是、李太白が言なり。年わかく血氣さかんなる人、勇をたのまば、忠孝の道をしりて、生死、只、義にかなふべし。學問なければ、忠孝の道をしらず。死ぬべくして死なず。いやしむべし。死ぬべからずして死ぬ。かなしむべし。勇怯ことなれども、義理にそむけることは一なり。武士は、學問して義理をしれば、死生する理にかなふ。
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『武士訓』卷一・第17段士は節に臨み。義によりて。身を塵芥になぞらへ。命を鴻毛よりかろんずべし。是父母の遺體をはづかしめざるなり。しかれどもたけくいさめる人の道しらぬは。一朝のいかりに無益の死をとぐる多し。命をすつるのみを勇武とおぼえたるは。古人も盲虎にひとしとそしれり。
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『武訓』上・第24段少壯の時、人の一言をとがめて、口論し、小なる義をはげみ、勇みだてをして、道理なきことに身をわすれ、父母をすてゝ、鬪ひ死す、不仁不孝のいたりなり。是、學問せずして、仁義忠孝の道をしらず、あたら命をすてゝ、道理にそむくこと、愚なるかな。孟子曰、以て死すべし、以て死することなかるべし、死すれば勇をやぶるといへり。死ぬまじきことに死ぬるは、勇を失ふ。古人の曰、生を捨つると、豈やすからざらんや、死に處すること、誠にひとりかたしとは、これをいふなり。いふ意は、死ぬることはやすし、死して道理にかなふことかたしとなり。死ぬべき道理に當りて死ぬるは、死に處する道を得たるなり。もし、死ぬべからずして死ぬるは、愚なる故なり。是、犬死なり。
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