武士訓 / 卷二・第3段
右にいふごとく。士は義理にさときを專とすべし。義理にさときものは利慾にうとく。利欲にさときものは義理にうとし。有眼の人は。利欲にさときものをみては。さてぞ義理にうとからんと思ふとなり。利をこのませず。いさぎよからしめん爲にこそ。君より俸祿をたまはりて。身をたてり。しかるを。忠孝の道をわきまえず。文武の業をならはず。剩恒産ある身ながら。恒産なき商のごとく。米銀をとりあつかひ。利倍をこのむ者あり。見る目もうたてゝ。きく耳もなをいとはし。
新字:右にいふごとく。士は義理にさときを専とすべし。義理にさときものは利慾にうとく。利欲にさときものは義理にうとし。有眼の人は。利欲にさときものをみては。さてぞ義理にうとからんと思ふとなり。利をこのませず。いさぎよからしめん為にこそ。君より俸禄をたまはりて。身をたてり。しかるを。忠孝の道をわきまえず。文武の業をならはず。剰恒産ある身ながら。恒産なき商のごとく。米銀をとりあつかひ。利倍をこのむ者あり。見る目もうたてゝ。きく耳もなをいとはし。
書き下し
右にいふごとく。士は義理にさときを專とすべし。義理にさときものは利慾にうとく。利欲にさときものは義理にうとし。有眼の人は。利欲にさときものをみては。さてぞ義理にうとからんと思ふとなり。利をこのませず。いさぎよからしめん爲にこそ。君より俸祿をたまはりて。身をたてり。しかるを。忠孝の道をわきまえず。文武の業をならはず。剩恒産ある身ながら。恒産なき商のごとく。米銀をとりあつかひ。利倍をこのむ者あり。見る目もうたてゝ。きく耳もなをいとはし。
現代語訳
前に述べたとおり、士は義理に明るいことを第一とすべきです。義理に明るい者は利欲に疎く、利欲に明るい者は義理に疎いものです。眼のある人は、利欲に明るい者を見て、さぞ義理には疎いのだろうと思うのです。利を好まず、潔くあらしめるために、主君から俸禄を賜って身を立てているのです。それなのに、忠孝の道をわきまえず、文武の業も習わず、そのうえ恒産のある身でありながら、恒産のない商人のように米や銀を扱って利殖を好む者がいます。見る目も不快で、聞く耳はなおさら厭わしいことです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『明君家訓』第20条(二)或は馬を好み、或は道具を數寄候體にもてなし、時の利を心がけ候ものは、さながらとり賣伯樂の仕かたにて、これはとかふの僉議に及ばず候、又其程にこそなく候へども、大樣をのれが勝手をもつぱらにして、人にそこなひ有事をしらず、諸事につきて身がちにふるまふものをほく候、かやうの人つねに利害をのみ簡辨いたし候ゆへ、義理の方にはかならずうときものにて候、利にても害にても、そこに心をおかずして、一筋にこゝろざすまゝにおこなひ申にてこそ義理は立申候、されば義理にさときものは利欲にうとく、利欲にさときものは義理にうとく、義理にさときを以て士とし、利欲にさときをもて町人とす、士として利欲にさときは、一向うけられぬ事にて候、さてこそ義理にうとかるべきとをしはかり候、もとより利欲の事をいろはせずして、いさぎよく振舞せんためにこそ、君よりもつねの祿を給はるにてはなく候や、さらば又名字を捨て弓箭を折て、秤錘を腰にもせず、其儘士のさまにて有ながら、町人の行は心得がたく候、むかし公儀休と申もの魯につかへしとき、其家の榮園にあるあふひをくひて、むまく覺ければ、即時にうへしあふひをぬきてすて候、又家にて織し布のよきを見て、はたをりし女を追出し、其機を燔申候、
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『武士訓』卷二・第5段士たらんものは。節義をもつぱらたしなみ。一言一行も。武士の道にをいて。不吟味なることなきやうにと心がくべし。口にいつはりをいはず。身にわたくしをかまへず。內すなほに。外かざりなく。禮義たゞしく。作法見だれず。たつときにへつらはず。いやしきをあなどらず。富るにほこらず。まづしきを見すてず。人をそしらず。我をたてず。かげ言中謀いふべからず。
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『武士訓』卷二・第1段士農工商とわかりて。それ〳〵のつかさどるところ。眼耳鼻舌のおの〳〵其用あるがごとくなれば。おのが業を專らにして。他の業をまなぶことなかれ。他の業をまなぶは。其ところをうしなふなり。たとえば。鷹に魚をとらせ。鵜に鳥をとらするにたり。我家職すら。生涯こゝろをつくしてもあたはざるに。何のいとまありて。他の業をまなぶべけんや。およそ士は奉公をつとめて。義理にさとからしめ。農は田畠をおさめて耕耨にさとからしめ。工は器物をつくりて匠術にさとからしめ。商は交易をもちひて利倍にさとからしむ。しかるに農工商。おの〳〵家業にうときものなし。たまたまうときものは。貧乏にくるしみ。飢渴に及べり。其中に士は恒産ある故に。
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『武訓』上・第2段凡、武士となる者は、忠孝義理の志なくしては、武勇おろそかに、節義闕けて、奉公の道たゝず。又、武士の家に生れ、兵術武藝をしらず、武具をそなへず、軍用乏しくしては、たとひ、心たけくとも、武勇のつとめおろそかなるべし。故に、武士の道、內には、忠孝義理を以て本として、兵法をしり、外には、武藝をならひ、武備ともしからざるを以て助とす。武士として、忠孝義理の道をしらず、兵法武藝にうとく、武備なくんば、武士の業を失へりといふべし。武藝は、匹夫の勇のはたらきなり。其の位に應じて學ぶべし。大人は、武藝に、專一に心を用ふべからず。藝になづめば道行はれず。武備は、かねて定め置くべし。平生無事の時、心を用ひ、其の分限に應じて、人馬武具、家人の兵器、馬具、金銀、米錢等まで、かねてそなへ置き、籍にしるし、不足なく用意すべし。出陣の時にのぞみては、兼て定めし制法にしたがひ、何の用意もなく、何時も、即時に打立つやうにすべし。凡、事豫則立とは是なり。何事も、かねて用意なくしては、俄の時につまづくものなり。
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