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武士訓 / 卷二・第4段

俗語に氏よりそだちといふことあり。幼少よりのをしへ尤大切なり。いとけなきときのならはせ。すぐに其性となつて。一生あらたまらざるなり。楊子見逵路而哭之。爲其可以南可以北。墨子見練絲而泣之。爲其可以黃可以黑とあるがごとし。此こゝろを。高辨上人よめる「むかしたれ人のこゝろをしらいとのそむればそまるいろになしてむ」と。

新字:俗語に氏よりそだちといふことあり。幼少よりのをしへ尤大切なり。いとけなきときのならはせ。すぐに其性となつて。一生あらたまらざるなり。楊子見逵路而哭之。為其可以南可以北。墨子見練糸而泣之。為其可以黄可以黒とあるがごとし。此こゝろを。高弁上人よめる「むかしたれ人のこゝろをしらいとのそむればそまるいろになしてむ」と。

書き下し

俗語に氏よりそだちといふことあり。幼少よりのをしへ尤大切なり。いとけなきときのならはせ。すぐに其性となつて。一生あらたまらざるなり。楊子見逵路而哭之。爲其可以南可以北。墨子見練絲而泣之。爲其可以黃可以黑とあるがごとし。此こゝろを。高辨上人よめる「むかしたれ人のこゝろをしらいとのそむればそまるいろになしてむ」と。

現代語訳

俗語に「氏より育ち」ということがあります。幼少からの教えが何より大切です。幼いころの習わしがそのまま性分となり、一生改まりません。楊子は分かれ道を見て、南にも北にも行けてしまうからと泣き、墨子は練り糸を見て、黄にも黒にも染まってしまうからと泣いた、とあるとおりです。この心を、高弁上人は「むかしたれ人のこゝろをしらいとのそむればそまるいろになしてむ」と詠まれました。

解説

ここでは、生まれよりも幼いころの教えと習わしが、その人の性分を形づくると説かれます。分かれ道で泣いた楊子と、練り糸を見て泣いた墨子の話は、人は染め方しだいでどちらにも向かうという譬えです。引かれた和歌も、白糸が染まるように、人の心が習いに染まる点を詠んだものと読めます。幼少の教えという話ですが、今の職場に引き寄せれば、新人が最初の数年で触れる上司の振る舞いや組織の空気が、その人の仕事観を決めていく、ということです。部下の育成を預かる人は、教える内容だけでなく、自分が見せている日々の姿が染料になることを意識したいところです。

この章句が説くこと

氏より育ち幼少の教え習い染まる育成武士訓

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