武士訓 / 卷一・第12段
古語に臣之事君。如婦之從夫也といへり。婦は一夫のみを守りて一生を過し。臣は一君のみを賴みて一生を終るなり。しかるを此處にては志を遂がたし。他家にゆきて見るべしなど思ふは。婦の他夫に通ずるにひとし。たとひ他所に行て幸を得べくとも。人臣たるもの。二君につかふるをはぢざらんや。太田持資の歌に「ふたつなきことはりしらばものゝふのつかふる道はうらみなからん」ともよめり。
新字:古語に臣之事君。如婦之従夫也といへり。婦は一夫のみを守りて一生を過し。臣は一君のみを頼みて一生を終るなり。しかるを此処にては志を遂がたし。他家にゆきて見るべしなど思ふは。婦の他夫に通ずるにひとし。たとひ他所に行て幸を得べくとも。人臣たるもの。二君につかふるをはぢざらんや。太田持資の歌に「ふたつなきことはりしらばものゝふのつかふる道はうらみなからん」ともよめり。
書き下し
古語に臣之事君。如婦之從夫也といへり。婦は一夫のみを守りて一生を過し。臣は一君のみを賴みて一生を終るなり。しかるを此處にては志を遂がたし。他家にゆきて見るべしなど思ふは。婦の他夫に通ずるにひとし。たとひ他所に行て幸を得べくとも。人臣たるもの。二君につかふるをはぢざらんや。太田持資の歌に「ふたつなきことはりしらばものゝふのつかふる道はうらみなからん」ともよめり。
現代語訳
古語に「臣が君に仕えるのは、妻が夫に従うようなものだ」といいます。妻はただ一人の夫を守って一生を過ごし、臣はただ一人の君を頼って一生を終えます。それなのに「ここでは志を遂げにくい。他家へ行ってみよう」などと思うのは、妻が他の夫に通じるのに等しいことです。たとえ他所へ行って幸いを得られるとしても、人臣たる者が二君に仕えることを恥じないでしょうか。太田持資の歌に「ふたつなき理を知るならば、武士の仕える道に恨みはないだろう」とも詠まれています。
解説
この章句が説くこと
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