武士訓 / 卷一・第11段
すべて世の中は。富るにつき。まづしきをすつるならひなれば。不遇の身は。人も問來で。夏のすびつのこゝちするとも。あるひは。むかしの人の不幸にあへるを思出。又は我より下つかたの憂患にくるしむに見くらべて。そのこゝろをなぐさむべし。かりにも幸にあへる人。われより上の人をうらやむことなかれ。命を知て。足ことをさとさば。淡味も命をつなぐにたり。茅屋も身を屋にたれり。かゝれば。身まづしくとも。足るをしる故に心富るなり。命をしらで。足ことを思はねば。膏粱に飽。大厦に住するとも。もとむるこゝろ生涯つくべからず。かゝれば。家富りとも。足るを知ざる故に心まづしきなり。
新字:すべて世の中は。富るにつき。まづしきをすつるならひなれば。不遇の身は。人も問来で。夏のすびつのこゝちするとも。あるひは。むかしの人の不幸にあへるを思出。又は我より下つかたの憂患にくるしむに見くらべて。そのこゝろをなぐさむべし。かりにも幸にあへる人。われより上の人をうらやむことなかれ。命を知て。足ことをさとさば。淡味も命をつなぐにたり。茅屋も身を屋にたれり。かゝれば。身まづしくとも。足るをしる故に心富るなり。命をしらで。足ことを思はねば。膏粱に飽。大厦に住するとも。もとむるこゝろ生涯つくべからず。かゝれば。家富りとも。足るを知ざる故に心まづしきなり。
書き下し
すべて世の中は。富るにつき。まづしきをすつるならひなれば。不遇の身は。人も問來で。夏のすびつのこゝちするとも。あるひは。むかしの人の不幸にあへるを思出。又は我より下つかたの憂患にくるしむに見くらべて。そのこゝろをなぐさむべし。かりにも幸にあへる人。われより上の人をうらやむことなかれ。命を知て。足ことをさとさば。淡味も命をつなぐにたり。茅屋も身を屋にたれり。かゝれば。身まづしくとも。足るをしる故に心富るなり。命をしらで。足ことを思はねば。膏粱に飽。大厦に住するとも。もとむるこゝろ生涯つくべからず。かゝれば。家富りとも。足るを知ざる故に心まづしきなり。
現代語訳
すべて世の中は、富める者につき、貧しい者を捨てるのが常ですから、不遇の身は人も訪ねて来ず、夏の炉のように顧みられない心地がしようとも、あるいは昔の人が不幸にあったことを思い出し、あるいは自分より下の者が憂いや患いに苦しんでいることと見比べて、その心を慰めなさい。かりにも幸いにあった人は、自分より上の人をうらやんではなりません。自分の分を知って足ることをさとれば、淡い味でも命をつなぐに足り、茅葺きの家でも身を寄せる屋根として足ります。そうであれば、身は貧しくても、足ることを知るがゆえに心は富みます。自分の分を知らず、足ることを思わなければ、美食に飽き、大きな屋敷に住んでも、求める心は生涯尽きることがありません。そうであれば、家は富んでいても、足るを知らないがゆえに心は貧しいのです。
解説
この章句が説くこと
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