武士道 / 第十七章 武士道の將來・霊鳥は自己の灰燼より生ず
我が武勇なる祖先の英魂雄姿は永へに死せずして、目ありで見ゆる者に顯現す。思想の最も發達せる日本人を抓羅〓し視よ、彼は忽ち一介のさむらひたるを露はさん。名譽、勇氣其他凡百の武人道德の大遺產こそ、洵に彼のクラム教授の知言に曰へる、『唯だ吾人に委任せられたるに過ぎずして死者と我子孫とより奪ふべからざる俸祿』なれ。而して現在は命じて、此嗣業を護り、且つ古代精神の一點一畫をも賊ふ勿れと云ひ、又た未來は命じて、此れが範圍を擴大して、人生凡百の狀態境遇に施すべしと云はん。爰に豫言あり、過去半世紀間の事蹟の確證する豫言あり。日く封建日本の道德系統は、城廓、武器と共に破碎して塵土に委し、而して、新道德は、新日本の進路を照らさんが爲めに、此豫言は吾人の望む所に靈鳥の如くに生れ出づべしと。して、又た其の全うせらるゝ日あらん。されど記すべし、靈鳥は唯だ自己の灰燼より生じて、候鳥にも非らず又た他鳥の羽翼を借りて飛翔するものにも非ざることを。『神國は爾曹の中に在り』と。
新字:我が武勇なる祖先の英魂雄姿は永へに死せずして、目ありで見ゆる者に顕現す。思想の最も発達せる日本人を抓羅〓し視よ、彼は忽ち一介のさむらひたるを露はさん。名誉、勇気其他凡百の武人道徳の大遺産こそ、洵に彼のクラム教授の知言に曰へる、『唯だ吾人に委任せられたるに過ぎずして死者と我子孫とより奪ふべからざる俸禄』なれ。而して現在は命じて、此嗣業を護り、且つ古代精神の一点一画をも賊ふ勿れと云ひ、又た未来は命じて、此れが範囲を擴大して、人生凡百の状態境遇に施すべしと云はん。爰に予言あり、過去半世紀間の事跡の確証する予言あり。日く封建日本の道徳系統は、城廓、武器と共に破砕して塵土に委し、而して、新道徳は、新日本の進路を照らさんが為めに、此予言は吾人の望む所に霊鳥の如くに生れ出づべしと。して、又た其の全うせらるゝ日あらん。されど記すべし、霊鳥は唯だ自己の灰燼より生じて、候鳥にも非らず又た他鳥の羽翼を借りて飛翔するものにも非ざることを。『神国は爾曹の中に在り』と。
書き下し
我が武勇なる祖先の英魂雄姿は永へに死せずして、目ありて見ゆる者に顕現す。思想の最も発達せる日本人を抓(一字不明)し視よ、彼は忽ち一介のさむらひたるを露はさん。名誉、勇気、其他凡百の武人道徳の大遺産こそ、洵に彼のクラム教授の知言に曰へる、『唯だ吾人に委任せられたるに過ぎずして、死者と我子孫とより奪ふべからざる俸禄』なれ。而して現在は命じて、此嗣業を護り、且つ古代精神の一点一画をも賊ふ勿れと云ひ、又た未来は命じて、此れが範囲を拡大して、人生凡百の状態境遇に施すべしと云はん。爰に予言あり、過去半世紀間の事蹟の確証する予言あり。曰く、封建日本の道徳系統は、城廓、武器と共に破砕して塵土に委し、而して新道徳は、新日本の進路を照らさんが為めに、霊鳥の如くに生れ出づべしと。此予言は吾人の望む所にして、又た其の全うせらるる日あらん。されど記すべし、霊鳥は唯だ自己の灰燼より生じて、候鳥にも非らず、又た他鳥の羽翼を借りて飛翔するものにも非ざることを。『神国は爾曹の中に在り』と。
現代語訳
わが勇ましい祖先の英霊とその雄々しい姿は、永遠に死ぬことなく、見る目を持つ者の前に現れる。最も進んだ考えを持つ日本人の表面を引っかいてみよ、彼はたちまち一人の侍であることを現すだろう。名誉、勇気、そのほかあらゆる武人の道徳の大いなる遺産こそ、まことにあのクラム(ジョン・クラム)教授の見識ある言葉にいう「私たちにただ預けられているにすぎず、死者からも子孫からも奪うことのできない知行」である。そして現在は、この受け継いだ財産を守り、古い精神の一点一画も損なうなと命じ、また未来は、これの範囲を広げて、人生のあらゆる状態や境遇に当てはめよと命じるだろう。ここに一つの予言がある。過去半世紀の出来事が確かに証している予言である。すなわち、封建日本の道徳体系は、城や武器とともに砕けて塵となり、そして新しい道徳が、新日本の進む道を照らすために、霊鳥(不死鳥)のように生まれ出るであろう、と。この予言は私たちの望むところであり、またそれが成し遂げられる日も来るだろう。しかし心に記しておくべきである。霊鳥はただ自分自身の灰の中から生まれるのであって、渡り鳥でもなく、また他の鳥の翼を借りて飛ぶものでもないことを。「神の国はあなたがたのうちにある」とあるように。
解説
この章句が説くこと
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『茶の本』第六章 花・変化こそは唯一の永遠であるしかし、あまりに感傷的になることはやめよう。奢る事をいっそういましめて、もっと壮大な気持ちになろうではないか。老子いわく「天地不仁」。弘法大師いわく「生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに冥し」。われわれはいずれに向かっても「破壊」に面するのである。上に向かうも破壊、下に向かうも破壊、前にも破壊、後ろにも破壊。変化こそは唯一の永遠である。何ゆえに死を生のごとく喜び迎えないのであるか。この二者はただ互いに相対しているものであって、梵の昼と夜である。古きものの崩解によって改造が可能となる。われわれは、無情な慈悲の神「死」をば種々の名前であがめて来た。
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