武士道 / 第十七章 武士道の將來・人を鼓舞するは精神なり
日本の支那に勝ちたるは、村田銃、クルツプ砲の力に賴ると云ひ、又た近世教育組織の功業なりと誇る。されど此言たる、眞理の半相をも窺ひたるものにあらず。名工エルバア若しくはスタインウエーの精巧を極めたるビアノと雖、樂匠の指頭に觸るゝことなくして、自から、或はリツトの』ラプソテイー』を奏し、或はベトーフエンの『ソナタ』を彈ずるを得べき乎。銃砲若し能く戰に勝つとせば、何すれぞ、ルイ、ナポレオンは其ミトライリ〓ズ式機關砲を以て普魯西軍を擊破する能はざりしか。西班牙人は、其モーゼル銃を以て、辛うじて舊式のレミントン銃を帶びたる比列賓土人を勤絕するを得ざりし乎。人を鼓舞するものは精神なり、氣魄なり。此れ微りせば、最銳最强の武器も、何等利する所無しといへる陳套の言は、今又た之を復誦するを須ひず。最新式の銃砲も、自から發射せず、最近の教育組織も、儒夫を化して勇士たらしむる能はず。然り、鴨綠江、韓山、滿洲の戰勝は、吾人の手を導き、吾人の心に躍れる祖宗の威靈に賴れり。
新字:日本の支那に勝ちたるは、村田銃、クルツプ砲の力に頼ると云ひ、又た近世教育組織の功業なりと誇る。されど此言たる、真理の半相をも窺ひたるものにあらず。名工エルバア若しくはスタインウエーの精巧を極めたるビアノと雖、楽匠の指頭に触るゝことなくして、自から、或はリツトの』ラプソテイー』を奏し、或はベトーフエンの『ソナタ』を弾ずるを得べき乎。銃砲若し能く戦に勝つとせば、何すれぞ、ルイ、ナポレオンは其ミトライリ〓ズ式機関砲を以て普魯西軍を撃破する能はざりしか。西班牙人は、其モーゼル銃を以て、辛うじて旧式のレミントン銃を帯びたる比列賓土人を勤絶するを得ざりし乎。人を鼓舞するものは精神なり、気魄なり。此れ微りせば、最鋭最強の武器も、何等利する所無しといへる陳套の言は、今又た之を復誦するを須ひず。最新式の銃砲も、自から発射せず、最近の教育組織も、儒夫を化して勇士たらしむる能はず。然り、鴨緑江、韓山、満洲の戦勝は、吾人の手を導き、吾人の心に躍れる祖宗の威霊に頼れり。
書き下し
日本の支那に勝ちたるは、村田銃、クルップ砲の力に頼ると云ひ、又た近世教育組織の功業なりと誇る。されど此言たる、真理の半相をも窺ひたるものにあらず。名工エラール若しくはスタインウェーの精巧を極めたるピアノと雖、楽匠の指頭に触るることなくして、自から、或はリストの『ラプソディー』を奏し、或はベートーフェンの『ソナタ』を弾ずるを得べき乎。銃砲若し能く戦に勝つとせば、何すれぞ、ルイ・ナポレオンは其ミトライリ(ユ)ーズ式機関砲を以て普魯西軍を撃破する能はざりしか。西班牙人は、其モーゼル銃を以て、辛うじて旧式のレミントン銃を帯びたる比律賓土人を剿絶するを得ざりし乎。人を鼓舞するものは精神なり、気魄なり。此れ微りせば、最鋭最強の武器も何等利する所無しといへる陳套の言は、今又た之を復誦するを須ひず。最新式の銃砲も自から発射せず、最近の教育組織も懦夫を化して勇士たらしむる能はず。然り、鴨緑江、韓山、満洲の戦勝は、吾人の手を導き、吾人の心に躍れる祖宗の威霊に頼れり。
現代語訳
日本が中国(清)に勝ったのは、村田銃やクルップ砲の力によると言い、また近代の教育制度の功績だと誇る者がいる。しかしこの言葉は、真理の半分さえもとらえたものではない。名工エラールやスタインウェイの精巧をきわめたピアノであっても、音楽家の指先が触れることなしに、ひとりでにリストの『ラプソディー』を奏でたり、ベートーヴェンの『ソナタ』を弾いたりすることができるだろうか。もし銃砲が戦争に勝てるものなら、どうしてルイ・ナポレオン(ナポレオン三世)はミトライユーズ式の機関砲でプロイセン軍を打ち破ることができなかったのか。スペイン人は、モーゼル銃を持ちながら、旧式のレミントン銃を持ったフィリピンの人々をかろうじても滅ぼすことができなかったではないか。人を奮い立たせるのは精神であり、気迫である。それがなければ、最も鋭く最も強い武器も何の役にも立たないという言い古された言葉を、今さら繰り返す必要はない。最新式の銃砲もひとりでに発射されることはなく、最新の教育制度も臆病者を勇士に変えることはできない。そうである、鴨緑江、韓山、満洲での戦勝は、私たちの手を導き、私たちの心の中で躍動していた祖先の威霊によるものであった。
解説
この章句が説くこと
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