武士道 / 第十五章 武士道の感化・少数者間の競争より生ず
武家の階級は賈販の業を禁遏せられたるよりして、商業の進步に資する所無かりしと雖、凡そ人生活動の流域、思想の徑路は一として多少武士道の刺戟を蒙らざるは無く、知識上、道德上の日本は、直接又た間接に武士の建設したるものなり。マロツク氏の指〓富瞻なる良書『貴族主義と進化』は、快達の筆を以て、『社會進化は、其の生物的なるに非らざる限り、是れ偉大なる人物の意志より生ぜる無意識の結果なりとの定義を下すを得べし』レと日ひ、更に、歷史的發達は、『要するに社會の生存競爭に由つて生ずるものに非らずして、却て大多數者を最良の方針に指導し、教誨し、使役するに於て、小數者間の競爭より生ずるものなり』と說けり。
新字:武家の階級は賈販の業を禁遏せられたるよりして、商業の進歩に資する所無かりしと雖、凡そ人生活動の流域、思想の径路は一として多少武士道の刺戟を蒙らざるは無く、知識上、道徳上の日本は、直接又た間接に武士の建設したるものなり。マロツク氏の指〓富瞻なる良書『貴族主義と進化』は、快達の筆を以て、『社会進化は、其の生物的なるに非らざる限り、是れ偉大なる人物の意志より生ぜる無意識の結果なりとの定義を下すを得べし』レと日ひ、更に、歴史的発達は、『要するに社会の生存競争に由つて生ずるものに非らずして、却て大多数者を最良の方針に指導し、教誨し、使役するに於て、小数者間の競争より生ずるものなり』と説けり。
書き下し
武家の階級は賈販の業を禁遏せられたるよりして、商業の進歩に資する所無かりしと雖、凡そ人生活動の流域、思想の径路は、一として多少武士道の刺戟を蒙らざるは無く、知識上、道徳上の日本は、直接又た間接に武士の建設したるものなり。マロック氏の指(示)富贍なる良書『貴族主義と進化』は、快達の筆を以て、『社会進化は、其の生物的なるに非らざる限り、是れ偉大なる人物の意志より生ぜる無意識の結果なりとの定義を下すを得べし』と曰ひ、更に、歴史的発達は、『要するに社会の生存競争に由つて生ずるものに非らずして、却て大多数者を最良の方針に指導し、教誨し、使役するに於て、少数者間の競争より生ずるものなり』と説けり。
現代語訳
武家の階級は商売の仕事を禁じられていたので、商業の進歩に役立つことはなかったけれども、およそ人の生活と活動の領域、思想の道筋で、多かれ少なかれ武士道の刺激を受けなかったものは一つもなく、知識の上、道徳の上での日本は、直接あるいは間接に武士が築いたものである。マロック(ウィリアム・マロック)氏の、示唆に富むすぐれた書『貴族主義と進化』は、明快な筆で「社会の進化は、それが生物学的なものでないかぎり、偉大な人物の意志から生じた無意識の結果であると定義することができる」と言い、さらに歴史的な発展は「要するに社会の生存競争によって生じるものではなく、かえって大多数の人々を最良の方針に向けて導き、教え、働かせることをめぐる、少数者の間の競争から生じるものである」と説いた。
解説
この章句が説くこと
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