武士道 / 第十四章 婦人の教育と地位・己を空しうするの徳
自から己れを空しうするの德たる、盖し此德を缺かば、人生の謎語は打解すべからず、即ち女子に在つては奉家、男子に在りては忠義の主律なりき。婦女の良人に於けるは、良人の君主に於けると等しく、奴隷たる者に非妻は己を空らず、婦人の任務は內助の功を成すに在りき。しうして夫に事へ、夫は己れを空しうして君に仕へ、君は更に之を以て天に服し、奉仕各〓其序階あり。予は此教訓の缺陷を認め、而して基督教は特に此點に秀でゝ、人皆直ちに造物主に對して責任あるものなりとするを知る。然りと雖、己れを犠牲として優者長者に服從する奉仕の教たる、此の教は即ち基督の教戒の最も偉なるものにして、又た神聖なる基督の使命の本義なり。是れに由つて觀れば、武士道も亦た永遠不壞の眞理を基礎とすと謂ひつべし。
新字:自から己れを空しうするの徳たる、盖し此徳を欠かば、人生の謎語は打解すべからず、即ち女子に在つては奉家、男子に在りては忠義の主律なりき。婦女の良人に於けるは、良人の君主に於けると等しく、奴隷たる者に非妻は己を空らず、婦人の任務は内助の功を成すに在りき。しうして夫に事へ、夫は己れを空しうして君に仕へ、君は更に之を以て天に服し、奉仕各〓其序階あり。予は此教訓の欠陥を認め、而して基督教は特に此点に秀でゝ、人皆直ちに造物主に対して責任あるものなりとするを知る。然りと雖、己れを犠牲として優者長者に服従する奉仕の教たる、此の教は即ち基督の教戒の最も偉なるものにして、又た神聖なる基督の使命の本義なり。是れに由つて観れば、武士道も亦た永遠不壊の真理を基礎とすと謂ひつべし。
書き下し
自から己れを空しうするの徳たる、蓋し此徳を欠かば、人生の謎語は打解すべからず。即ち女子に在つては奉家、男子に在りては忠義の主律なりき。婦女の良人に於けるは、良人の君主に於けると等しく、奴隷たる者に非らず、婦人の任務は内助の功を成すに在りき。妻は己を空しうして夫に事へ、夫は己れを空しうして君に仕へ、君は更に之を以て天に服し、奉仕各(々)其序階あり。予は此教訓の欠陥を認め、而して基督教は特に此点に秀でて、人皆直ちに造物主に対して責任あるものなりとするを知る。然りと雖、己れを犠牲として優者長者に服従する奉仕の教たる、此の教は即ち基督の教戒の最も偉なるものにして、又た神聖なる基督の使命の本義なり。是れに由つて観れば、武士道も亦た永遠不壊の真理を基礎とすと謂ひつべし。
現代語訳
自分から自分を空しくするという徳は、思うに、この徳を欠けば人生の謎は解くことができない。すなわちそれは、女性にあっては家に尽くすこと、男性にあっては忠義の根本の掟であった。妻の夫に対する関係は、夫の主君に対する関係と同じく、奴隷としてのものではなかった。女性の務めは内助の功をあげることにあった。妻は自分を空しくして夫に仕え、夫は自分を空しくして主君に仕え、主君はさらにそれをもって天に従い、奉仕にはそれぞれ段階があった。私はこの教えに欠陥があることを認める。そしてキリスト教がとくにこの点ですぐれていて、人はみな直接に造物主に対して責任を負うものとしていることを知っている。そうではあっても、自分を犠牲にして、より優れた者、より上の者に従うという奉仕の教えは、キリストの教えの中でも最も偉大なものであり、また神聖なキリストの使命の本義である。この点から見れば、武士道もまた永遠に滅びない真理を土台にしていると言うことができる。
解説
この章句が説くこと
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