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武士道 / 第十四章 婦人の教育と地位・犠牲の精神は男女を問わず

讀者、請ふ予を難ずるに、僻見以て意志の屈從を是認するものなりとする勿らんことを。予も亦た大いに識見該博、思想深遠なるへーゲルが、歷史とは自由の發展なり、實現なりと」論斷せるに推服す。然るに予の爰に闡明せざるべからざるは、犧牲の精神の普く武士道の教訓に浸潤して、啻に女子のみならず、男子も亦た之を缺くべからざるものなり「しこと是れなり。故に武士道の感化の全く其跡を絕つの日に至らずんば、我社會は、彼の米國女權の代表者の猛然として、『日本の女よ、起てよ、舊慣に反抗せよ』と叫破せるの言に雷同すること能はざるべし。其反抗は果して奏効すべき乎。婦人の地位は此れによつて進善すべき乎。この暴擧を以て獲たる權利は、以て女子の傳寳たる、溫順の性格、優雅の態度の喪失を償ふに足れりや。

新字:読者、請ふ予を難ずるに、僻見以て意志の屈従を是認するものなりとする勿らんことを。予も亦た大いに識見該博、思想深遠なるへーゲルが、歴史とは自由の発展なり、実現なりと」論断せるに推服す。然るに予の爰に闡明せざるべからざるは、犠牲の精神の普く武士道の教訓に浸潤して、啻に女子のみならず、男子も亦た之を欠くべからざるものなり「しこと是れなり。故に武士道の感化の全く其跡を絶つの日に至らずんば、我社会は、彼の米国女権の代表者の猛然として、『日本の女よ、起てよ、旧慣に反抗せよ』と叫破せるの言に雷同すること能はざるべし。其反抗は果して奏効すべき乎。婦人の地位は此れによつて進善すべき乎。この暴挙を以て獲たる権利は、以て女子の伝寳たる、温順の性格、優雅の態度の喪失を償ふに足れりや。

書き下し

読者、請ふ予を難ずるに、僻見以て意志の屈従を是認するものなりとする勿らんことを。予も亦た大いに、識見該博、思想深遠なるヘーゲルが、歴史とは自由の発展なり、実現なりと論断せるに推服す。然るに予のここに闡明せざるべからざるは、犠牲の精神の普く武士道の教訓に浸潤して、ただに女子のみならず、男子も亦た之を欠くべからざるものなりしこと、是れなり。故に武士道の感化の全く其跡を絶つの日に至らずんば、我社会は、彼の米国女権の代表者の猛然として、『日本の女よ、起てよ、旧慣に反抗せよ』と叫破せるの言に雷同すること能はざるべし。其反抗は果して奏効すべきか。婦人の地位は此れによつて進善すべきか。この暴挙を以て獲たる権利は、以て女子の伝宝たる温順の性格、優雅の態度の喪失を償ふに足れりや。

現代語訳

読者よ、どうか私を、偏った見方で意志の屈従を是認する者だと責めないでください。私もまた、識見が広く思想の深いヘーゲルが、歴史とは自由の発展であり実現である、と論じたことに大いに敬服しています。しかしここで明らかにしておかねばならないのは、犠牲の精神が広く武士道の教えに染み渡っていて、女性だけでなく男性にも欠かせないものだった、ということです。ですから武士道の感化がまったく跡を絶つ日が来ない限り、わが社会は、あのアメリカの女権論の代表者が猛然と、日本の女よ立ち上がれ、古い慣習に反抗せよ、と叫んだ言葉に同調することはできないでしょう。その反抗は果たして効果があるでしょうか。婦人の地位はこれによって良くなるでしょうか。この暴挙によって得た権利は、女性が受け継いできた温順な性格や優雅な態度を失うことを償うに足りるでしょうか。

解説

女性の従属を是認しているのではない、と先回りして弁明しつつ、犠牲の精神は男女ともに求められたと主張します。そしてアメリカの女性解放論への反論が置かれます。反抗して得た権利は、失うものに見合うのか、と。今日から見れば守旧的な立場で、この問いの立て方自体が当時の限界を示しています。ただし次の数段で、女性の地位を測る物差しそのものを問い直す議論へ進みます。

この章句が説くこと

犠牲女権反抗保守限界

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