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文子 / 上德

水雖平,必有波,衡雖正,必有差,尺雖齊,必有危,非規矩不能定方圓,非準繩無以正曲直,用規矩者,亦有規矩之心。太山之高,倍而不見,秋毫之末,視之可察。竹木有火,不鑽不熏,土中有水,不掘不出,矢之疾,不過二里,跬步不休,跛鱉千里,累土不止,丘山從成。臨河欲魚,不如歸而織網。弓先調而後求勁,馬先順而後求良,人先信而後求能。巧冶不能消木,良匠不能斲冰,物有不可,如之何君子不留意。使人無渡河,可,使河無波,不可。無月不辜,甑終不墮井矣。刺我行者,欲我交,呰我貨者,欲我市,行一棋不足以見知,彈一弦不足以為悲。今有一炭然,掇之爛緋,相近,萬石俱熏,去之十步而死,同氣而異積。有榮華者必有愁悴,上有羅紈下必有麻□,木大者根瞿,山高者基扶。

新字:水雖平,必有波,衡雖正,必有差,尺雖斉,必有危,非規矩不能定方円,非準縄無以正曲直,用規矩者,亦有規矩之心。太山之高,倍而不見,秋毫之末,視之可察。竹木有火,不鑽不熏,土中有水,不掘不出,矢之疾,不過二里,跬歩不休,跛鱉千里,累土不止,丘山従成。臨河欲魚,不如帰而織網。弓先調而後求勁,馬先順而後求良,人先信而後求能。巧冶不能消木,良匠不能斲冰,物有不可,如之何君子不留意。使人無渡河,可,使河無波,不可。無月不辜,甑終不堕井矣。刺我行者,欲我交,呰我貨者,欲我市,行一棋不足以見知,弾一弦不足以為悲。今有一炭然,掇之爛緋,相近,万石倶熏,去之十歩而死,同気而異積。有栄華者必有愁悴,上有羅紈下必有麻□,木大者根瞿,山高者基扶。

書き下し

水は平らかなりと雖も、必ず波有り。衡は正しと雖も、必ず差有り。尺は斉しと雖も、必ず危有り。規矩に非ざれば方円を定むる能わず、準縄に非ざれば以て曲直を正す無し。規矩を用うる者も、亦た規矩の心有り。太山の高きは、倍すれば見えず、秋毫の末は、視れば察す可し。竹木に火有れども、鑚らず熏かざれば出でず、土中に水有れども、掘らざれば出でず。矢の疾きは二里に過ぎず、跬歩休まざれば、跛鼈も千里、土を累ねて止まざれば、丘山従って成る。河に臨みて魚を欲するは、帰りて網を織るに如かず。弓は先ず調いて而る後に勁きを求め、馬は先ず順いて而る後に良きを求め、人は先ず信にして而る後に能を求む。巧冶も木を消す能わず、良匠も氷を斲る能わず。物に不可有り。之を如何ぞ、君子留意せざらん。人をして河を渡る無からしむるは、可なり。河をして波無からしむるは、不可なり。月の辜に無くとも、甑は終に井に墮ちざらん。我が行を刺す者は、我が交わりを欲し、我が貨を呰る者は、我が市を欲す。一棋を行いて以て知らるるに足らず、一弦を弾きて以て悲しむに足らず。今一炭の然ゆる有り、之を掇れば爛緋たり、相近づけば、万石倶に熏り、之を去ること十歩にして死す。気を同じくして積を異にするなり。栄華有る者は必ず愁悴有り、上に羅紈有れば下に必ず麻□有り、木大なる者は根瞿り、山高き者は基扶く。

現代語訳

水は平らでも必ず波があり、秤は正しくても必ず誤差があり、物差しは揃っていても必ず狂いがある。コンパスと定規がなければ丸と四角を決められず、水準器と墨縄がなければ曲がりと真っ直ぐを正せない。だが、規矩を用いる者にも、規矩の心がなければならない。泰山の高さは、倍にしても見えないが、秋の獣毛の先は、よく見れば確かめられる。竹や木には火があるが、きりもみしたりいぶしたりしなければ出ず、土の中には水があるが、掘らなければ出てこない。矢の速さは二里を過ぎないが、半歩ずつでも休まなければ、足の悪い鼈も千里に至り、土を積んで止まなければ、丘や山も出来上がる。河のほとりで魚を欲しがるのは、帰って網を織るのに及ばない。弓はまず調えてから強さを求め、馬はまず従順にしてから良さを求め、人はまず信を得てから能力を求める。巧みな鋳物師でも木を溶かせず、腕のよい大工でも氷は彫れない。物事にはできないことがある。それをどうして、君子は気に留めないでいられようか。人に河を渡らせないのはできるが、河に波を立たせないのはできない。月に罪がなくても、甑はついに井戸に落ちたりはしない(この句は意味が取りにくい)。私の行いを咎める者は、私と交わりたいのであり、私の品物をけなす者は、私と取引したいのである。ひとつの碁石を打っても知られるに足りず、ひとつの弦を弾いても悲しむに足りない。いま一つの炭が燃えており、それを手に取ると赤くただれ、近づけば万石の薪も燃え、十歩離れれば死んでしまう。同じ気でありながら積み重ねが違うのである。栄華のある者は必ず愁いと衰えがあり、上に薄絹があれば下には必ず粗い麻があり、木が大きければ根は絡み、山が高ければ基は広がる。

解説

規則を使う人の心まで問う、冒頭の一節が要です。水平器や秤でも誤差はある。「規矩を用うる者も、亦た規矩の心有り」。基準を守る人自身に、基準を守ろうとする心がなければ、仕組みは機能しない、という視点です。続く「弓は先ず調いて而る後に勁きを求め、馬は先ず順いて而る後に良きを求め、人は先ず信にして而る後に能を求む」も要点です。能力を求める前に、信頼があるか。採用でも評価でも、信を後回しにして能力で選ぶと、後で破綻するという示唆があります。「河に臨みて魚を欲するは、帰りて網を織るに如かず」は、準備を先にする大切さを説くおなじみの句です。

この章句が説くこと

規矩を用うる者も人は先ず信にして而る後に能を求む河に臨みて魚を欲するは土を累ねて止まざれば信頼準備

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