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文明一統記 / 藝能・藝能と酒は、ほどよく楽しむもの

弓馬の道は、もとより御家のことなれば不及申、其外歌道、蹴鞠、諸藝に至までも、御好にしたがふべし、鹿薗院殿は、節會の內辨なども勤仕し給ひ、管絃聲明の道までも嗜給へり、それまでの事は、御數奇のあまりなり、何事にても、近習の輩などに心をゆかさしめん事は、時に隨ひて嗜ませ給ふべし、酒なども歡伯と號て、よろこびのともにするわざなれば、たれ〱にも給はるべき、何の子細かあるべきや、さりながら論語の文にも、たゞ酒ははかりなし、亂にをよぼさずと見えたり、下戶上戶によりて、更に法令なき物なればはかりなしとはいへり、亂に及さずといふは、本性を失ふ程醉まじき事を申侍り、いかにも面白く、興あるほど是を翫びて、醉と思しめさん時は、たれ〱も早く寐たらんにはしくべからず、いかにも失有事おほき故也、近習の輩など、酒に醉ふて緩怠をいたさば、醉たるほどは、中〱仰らるべらず、酒醒て本性に成たらん時、かゝるふるまひの有しは覺侍らぬか、いかにも向後は斟酌をいたすべしと仰られんと、御扶持のあまり成べし、

新字:弓馬の道は、もとより御家のことなれば不及申、其外歌道、蹴鞠、諸芸に至までも、御好にしたがふべし、鹿薗院殿は、節会の内弁なども勤仕し給ひ、管絃声明の道までも嗜給へり、それまでの事は、御数奇のあまりなり、何事にても、近習の輩などに心をゆかさしめん事は、時に随ひて嗜ませ給ふべし、酒なども歓伯と号て、よろこびのともにするわざなれば、たれ〱にも給はるべき、何の子細かあるべきや、さりながら論語の文にも、たゞ酒ははかりなし、乱にをよぼさずと見えたり、下戸上戸によりて、更に法令なき物なればはかりなしとはいへり、乱に及さずといふは、本性を失ふ程酔まじき事を申侍り、いかにも面白く、興あるほど是を翫びて、酔と思しめさん時は、たれ〱も早く寐たらんにはしくべからず、いかにも失有事おほき故也、近習の輩など、酒に酔ふて緩怠をいたさば、酔たるほどは、中〱仰らるべらず、酒醒て本性に成たらん時、かゝるふるまひの有しは覚侍らぬか、いかにも向後は斟酌をいたすべしと仰られんと、御扶持のあまり成べし、

書き下し

弓馬の道は、もとより御家のことなれば不及申、其外歌道、蹴鞠、諸藝に至までも、御好にしたがふべし、鹿薗院殿は、節會の內辨なども勤仕し給ひ、管絃聲明の道までも嗜給へり、それまでの事は、御數奇のあまりなり、何事にても、近習の輩などに心をゆかさしめん事は、時に隨ひて嗜ませ給ふべし、酒なども歡伯と號て、よろこびのともにするわざなれば、たれ〱にも給はるべき、何の子細かあるべきや、さりながら論語の文にも、たゞ酒ははかりなし、亂にをよぼさずと見えたり、下戶上戶によりて、更に法令なき物なればはかりなしとはいへり、亂に及さずといふは、本性を失ふ程醉まじき事を申侍り、いかにも面白く、興あるほど是を翫びて、醉と思しめさん時は、たれ〱も早く寐たらんにはしくべからず、いかにも失有事おほき故也、近習の輩など、酒に醉ふて緩怠をいたさば、醉たるほどは、中〱仰らるべらず、酒醒て本性に成たらん時、かゝるふるまひの有しは覺侍らぬか、いかにも向後は斟酌をいたすべしと仰られんと、御扶持のあまり成べし、

現代語訳

弓馬の道は、もとより将軍家の務めですから言うまでもなく、そのほか歌道、蹴鞠、諸々の芸に至るまで、お好みに従うのがよいでしょう。鹿苑院殿(足利義満)は、節会の内弁などもお務めになり、管絃や声明の道までたしなまれました。そこまでのことは、お好みのあまりのことです。何事であれ、近習の者などに気持ちを通わせることは、折に応じてたしなみなさい。酒なども歓伯と呼んで、喜びの友とするものですから、誰にでもお与えになって、何の差し支えがありましょう。とはいえ『論語』の文にも、ただ酒は量を決めず、乱れるまでには至らない、とあります。酒の強い弱いによって決まりのないものですから、量は定めないと言うのです。乱に及ばないというのは、本性を失うほど酔ってはならないことを言います。おもしろく興が乗るほどに楽しみ、酔ったと思われたら、誰であれ早く寝るのが一番です。失敗が多いからです。近習の者などが、酒に酔って怠慢をしたら、酔っている間は強くおっしゃってはなりません。酒が醒めて本性に戻ったときに、このような振る舞いがあったのを覚えていないか、今後は慎みなさいとおっしゃるのが、ご配慮というものでしょう。

解説

芸事や酒は、折に応じてほどよく楽しむことで人の心を通わせるが、乱れるほどに及んではならないと述べる一節です。注目すべきは、酔って怠慢をした者を酔いの最中には叱らず、醒めてから穏やかに諭すという配慮です。管理職が部下を指導するときも、相手が感情的なときや疲れているときを避け、落ち着いたタイミングで事実を伝えるほうが届きます。懇親の場の節度とあわせ、場面と時を選ぶことが指導の効果を決めます。

この章句が説くこと

『文明一統記』一条兼良芸能酒近習論語

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