武教小学 / 夙起夜寐
凡爲士之法。先夙起。而盥漱櫛。正衣服。佩用具。(盥洗手也。漱漱口也。櫛梳也。用具者腰刀扇火打袋之類也。)能養平旦之氣。(出孟子。)而體認君父之恩情。思量今日之家業。可觀身躰髮膚受之父母。不敢毀傷孝之始也。立身行道。揚名於後世。以顯父母。孝之終也。而後示家事。謁賓客。事君。則速出仕。事父母。則行察其安否矣。出而事。則謀不出其位。侍長者。則敬如父兄。能謙退而不爭。(右事君事父母序長幼之說也。皆明倫之事也。)以文會友。以友輔仁。(曾子言也。朱子曰。講學以會友。則道益明也。云云。)有益友則問事。(孔子曰。益者三友。損者三友。友直。友諒。友多聞。益也矣。友便辟。友善柔。友便佞。損也。)能信而不僞。常思士之正義。而不可懈。是全交之道也。(以上言明朋友之交也。曲禮曰。君子不盡人之歡。不竭人之忠。以全交也。)凡仕官之途。朝出先人。夕退後人。歸宅之後。先謁父母。下氣怡色。(內則曰。下氣怡色。問衣燠寒疾痛苛養。而敬抑搔之。云々。)着席而問留守之用所。(問家事也。)計急緩而行其事。閑則顧今日之行事。暇則披書傳。而考士之正道。知義不義之行。日旣沒則爲夜戒。(禦火難備不虞之戒也。更不可間斷也。)入寢所。休氣寬躰。而令安士卒之體。(凡家司下人者。先主而起。後主而寢。其所休息暫時也。故夜寐而令安也。)
新字:凡為士之法。先夙起。而盥漱櫛。正衣服。佩用具。(盥洗手也。漱漱口也。櫛梳也。用具者腰刀扇火打袋之類也。)能養平旦之気。(出孟子。)而体認君父之恩情。思量今日之家業。可観身体髪膚受之父母。不敢毀傷孝之始也。立身行道。揚名於後世。以顕父母。孝之終也。而後示家事。謁賓客。事君。則速出仕。事父母。則行察其安否矣。出而事。則謀不出其位。侍長者。則敬如父兄。能謙退而不争。(右事君事父母序長幼之説也。皆明倫之事也。)以文会友。以友輔仁。(曽子言也。朱子曰。講学以会友。則道益明也。云云。)有益友則問事。(孔子曰。益者三友。損者三友。友直。友諒。友多聞。益也矣。友便辟。友善柔。友便佞。損也。)能信而不偽。常思士之正義。而不可懈。是全交之道也。(以上言明朋友之交也。曲礼曰。君子不尽人之歓。不竭人之忠。以全交也。)凡仕官之途。朝出先人。夕退後人。帰宅之後。先謁父母。下気怡色。(内則曰。下気怡色。問衣燠寒疾痛苛養。而敬抑搔之。云々。)着席而問留守之用所。(問家事也。)計急緩而行其事。閑則顧今日之行事。暇則披書伝。而考士之正道。知義不義之行。日既没則為夜戒。(禦火難備不虞之戒也。更不可間断也。)入寝所。休気寛体。而令安士卒之体。(凡家司下人者。先主而起。後主而寝。其所休息暫時也。故夜寐而令安也。)
書き下し
凡そ士為るの法は、先ず夙に起きて、盥漱櫛し、衣服を正し、用具を佩ぶ。(盥は手を洗うなり。漱は口を漱ぐなり。櫛は梳るなり。用具とは腰刀・扇・火打袋の類なり。)能く平旦の気を養い、(孟子に出ず。)而して君父の恩情を体認し、今日の家業を思量す。身体髪膚、之を父母に受く、敢えて毀傷せざるは孝の始めなり、身を立て道を行い、名を後世に揚げ、以て父母を顕すは孝の終わりなり、と観るべし。而る後、家事を示し、賓客に謁し、君に事う。則ち速やかに出仕す。父母に事うれば、則ち行きて其の安否を察す。出でて事うれば、則ち謀は其の位を出でず。長者に侍すれば、則ち敬すること父兄の如し。能く謙退して争わず。(右は君に事え父母に事え長幼を序するの説なり。皆倫を明らかにするの事なり。)文を以て友を会し、友を以て仁を輔く。(曾子の言なり。朱子曰く、学を講じて以て友に会すれば、則ち道益々明らかなり、と。云云。)益友有れば則ち事を問い、(孔子曰く、益する者三友、損する者三友。友直、友諒、友多聞は、益なり。友便辟、友善柔、友便佞は、損なり、と。)能く信にして偽らず、常に士の正義を思いて、懈るべからず。是れ交わりを全うするの道なり。(以上は朋友の交わりを明らかにするを言うなり。曲礼に曰く、君子は人の歓を尽くさず、人の忠を竭くさず、以て交わりを全うするなり、と。)凡そ仕官の途は、朝は人に先んじて出で、夕は人に後れて退く。帰宅の後、先ず父母に謁し、気を下し色を怡ばしむ。(内則に曰く、気を下し色を怡ばしめ、衣の燠寒、疾痛苛痒を問いて、敬いて抑え搔く、云々、と。)席に着きて留守の用所を問い、(家事を問うなり。)急緩を計りて其の事を行う。閑なれば則ち今日の行事を顧み、暇なれば則ち書伝を披きて、士の正道を考え、義不義の行を知る。日既に没すれば則ち夜戒を為す。(火難を禦ぎ不虞に備うるの戒めなり。更に間断すべからざるなり。)寝所に入り、気を休め体を寛くして、士卒の体を安んぜしむ。(凡そ家司下人は、主に先んじて起き、主に後れて寝ぬ。其の休息は暫時なり。故に夜寐ぬるに安んぜしむるなり。)
現代語訳
士としての心得は、まず早く起き、手を洗い、口をすすぎ、髪を梳き、衣服を整え、身につける道具を帯びることです。(注:「盥」は手を洗うこと、「漱」は口をすすぐこと、「櫛」は髪を梳くことです。「用具」とは腰の刀・扇・火打袋のたぐいをいいます。)そして夜明けの清らかな気を養い、(注:『孟子』に出る語です。)主君と父の恩情をかみしめ、その日の家の務めを思い巡らします。「身体髪膚は父母から受けたもの、これを傷つけないのが孝の始めである。身を立て道を行い、名を後世に揚げて父母の名を顕すのが孝の終わりである」という教えを思うべきです。その後、家の用事を指示し、客に会い、主君に仕えます。出仕は速やかに行います。父母に仕える場合は、出向いて安否を確かめます。外に出て務めるときは、考えることをその職分の外に出さず、年長者に付き従うときは、父や兄に対するように敬います。よくへりくだり、争いません。(注:以上は主君や父母に仕え、長幼の序を守る話で、すべて人の道を明らかにする事柄です。)学問によって友と集い、友によって仁を助けます。(注:曾子の言葉です。朱子は「学問を講じて友と会えば、道はますます明らかになる」と言っています。)役に立つ友がいれば事を相談し、(注:孔子は「益のある友が三種、害のある友が三種ある。まっすぐな友、誠実な友、見聞の広い友は益になり、見かけを取り繕う友、人当たりだけ良い友、口先だけうまい友は害になる」と言いました。)誠実で偽らず、常に士としての正しい義を思って、怠ってはなりません。これが交友を全うする道です。(注:以上は友との交わりを明らかにする話です。『曲礼』には「君子は人の喜びを尽くさせず、人の誠意を出し尽くさせず、そうして交わりを全うする」とあります。)およそ仕官の道では、朝は人より先に出て、夕は人より後に退きます。帰宅したらまず父母に会い、気を和らげ顔色を穏やかにします。(注:『内則』には「気を和らげ顔色を穏やかにし、衣服の暖かさ寒さ、病や痛みやかゆみを尋ね、敬って押さえたり掻いたりする」などとあります。)席に着いて留守中の用事を尋ね、(注:家の事を尋ねることです。)急ぎか緩やかかを見計らって処理します。暇があればその日の出来事を振り返り、さらに暇があれば書物を開いて士の正道を考え、義か不義かの行いを知ります。日が暮れたら夜の警戒を行います。(注:火事を防ぎ、思いがけない事態に備えるための戒めで、決して途切れさせてはなりません。)寝所に入り、気を休め体を楽にして、家臣たちの身も休ませます。(注:家来や使用人は、主人より先に起き、主人より後に寝ます。その休息は短いものなので、夜に寝るときには安らげるようにするのです。)
解説
この章句が説くこと
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『翁問答』上卷之本此宝は天に在ては天の道となり、地に在ては地の道となるは、元来名はなき物なれ共、衆生に教へ示さん為めに、昔しの聖人其光景をかたどりて、孝と名付け玉ふ、夫よりこの方愚痴不肖の賤男賤女に至る迄も、其名をば知ると云共、其真実の道理は、老師宿儒知見抜群の人さへ悟り得る事稀なり、然る故に世俗孝は親に事ふる一事となして、浅近の道理なりと思へり、孔子嘆かはしく思召して、万世の盲聾を開かん為めに、孝徳神妙不測広大深遠にして、無始無終の神道を孝経に発明し玉ふ、孝徳の感通を手近く名付け言へば、愛敬の二字に極まれり、愛は懇に親しむ心なり、敬は上をうやまひ下を軽しめ侮らざる義なり、孝は譬へば明なる鏡の如し、向ふ物の形と色とに因て、鏡の中の影は品々かはれ共、明らかに写す鏡の体は同じ者なり、其如く父子君臣の人倫に相交ることは、千々万々品変れ共、愛敬の至徳は通せざる所なし、
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『徂徠先生答問書』卷中一孝行の儀御尋に候。成程聖人の教には孝弟忠信を中庸の徳行と名付け、是を貴賤によらず人たる者の勤め行ふべき事といたし申候。君子の道も、是を土台にいたし不申候得ば、高きにのぼるに楷梯なきがごとくに御座候。舜の契を司徒の官になされ、五倫を教へしめ給ふも、孔子の民に中庸の徳なき事を御なげき被成候も同意にて御座候。孝は父母によくつかへ候事、弟は兄長によくつかへ候事、忠は君につかゆるにても、又たれにても、人のためになし候事をば我身の事のごとくに如在なく身にかけ申候事に候。信と申候は、朋友其外あまねくの人にまじはり申候には言語を慎み偽り違候事なきやうに致し候を申候。是にて父母兄弟君臣朋友の道こもり申候故、五倫と申候も、中庸と申候も、孝弟忠信と申候も、ひとつ事にて御座候。
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『翁問答』上卷之本体充問曰庶人の孝行はいかゞ。師の曰農工商何れも其所作を能勤め怠らず財穀を貯へ、むざと費やさず身持心立能慎み、公儀を恐れて法度に背かず、我身子の事をば第二とし、父母の衣服食物を第一に思ひ入、心力を尽して及ぬきはをも調へて父母の受悦ぶ様にもてなして能く養ふは庶人の孝なり。体充問曰五等の孝の内、只庶人に計り父母を養ふと説給ふは、如何なる故にて候や。師の曰士より上は財乏しからず養ふ事は云ふに及はず、庶人は財乏しくして、充分に心を苦しめ力を尽さゞれば、衣服食物足らざる故に、庶人に計り養ひを説給ふ五等皆其位の内にて第一重き所を取りて、説給ふ道理は皆相通するなり、能く体認すべし。
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尚書・君陳王若(かく)のごとく曰く、「君陳よ、惟れ爾令徳にして孝恭なり。惟れ孝にして、兄弟に友に、克く有政に施す。汝に命じて茲の東郊を尹(をさ)めしむ、敬せよや。昔周公万民を師保し、民其の徳を懐く。往きて乃の司を慎み、茲に厥の常に率へ。懋めて周公の訓を昭らかにせば、惟れ民其れ乂まらん。我聞く、曰く、
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論語・為政篇孟武伯孝を問う。子曰く、「父母は唯其の疾(やまい)を之憂う。」
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『十善法語』巻第五・不綺語戒若或ハ父母カ悪事ニ随順シテ止ヌコトアレハ。此ハ変ト知ヘシ。其時ニハ事ノ軽重。時ノ進不ヲ斟酌スヘキコトシヤ。自心ノ及ハヌ処ハ。智者明師ノ指示ヲ受ルガヨイ。要ヲ取テ云ハ。此孝道。思惟度量シテ別ニムツカシキ一法ヲ造作スルナラス。唯子タル者ノ平生安ンスル処。コレヲ孝ノ道ト云。何故ニ如是ソ。此父母コレ我自性善根ノ開発セル儀シヤ。若業障深キ衆生ハ父母ノ名字タモ聞コトナラヌシヤ。梵網経ニ。若有犯者不得現身発菩提心。乃至二却三却不聞父母三宝名字トアル。余経ニ。夢ニ父母師僧ヲミル。皆福分ノアル処ト云。魚ノ水中ニ游フ如ク。鳥ノ空中ニ飛カ如ク。孝子順孫ノ父母王母ノ膝下ニアル。此ニ同シ。実実ニカクノ如クナラバ。地中ニ金一釜ヲ得ズトモ或ハ冬時筍ヲ得ストモ。孝道全トス。世ニ不孝ノ子アル。或ハ功利名誉ニ蔽ハル。或ハ博奕婬酒ニ蔽ハル。ミナ宿悪深重ノナス所ト知ルヘキシヤ。
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