導師導古典を学びたいすべての人に 法人向けワークシート法人向けワークシート

武教講録 / 與受・家子に文武と生業を兼ねさせる

自ら其身を食ふと成らぬ程の虛氣者、他人の家を嗣て君祿を食したりとて、何を以て三民の長となり國家を裨益するとを得んや、若し中人ならしめば他家へ分出せざるは、却て其家を富强するの一計とも云べし、世素より二十以外にして未だ他家に分出せざる者多し、而して悠々泛々として徒に父兄を喰靡し以て歲月を玩愒する者あり、是早く之が計をなさゞるに由る也、家子を處するの計、文武は士の家業なれば是を習練するは論を俟たず、又其餘暇を以て躬耕する可なり、工作するも可也、梁鴻が如く賃春するも可也、班超が如く雇書するも可也、阮孚が如く屐を蠟するも可也、嵇康が如く鐵を鍛するも可也、兵械戰具の制作、繕修書畫、金石の謄寫彫刻等を始め、農工凡百の事爲して可ならざるとなし、出ては士となり、文武の業を習ひ、君家の用に供し、入ては則ち農工の事を治め、私家の計を營す、是最も古武士の風と云べし、是を本として郎黨等も才能の浪士を網羅し、文武の學生として吾家に寄寓せしめ、是を家子に均ふせば小祿の士と雖ども、何ぞ家子郎黨なきを憂へん、是を闔國に行ふ時は足食足兵の大計也、然ども、是紙上口頭の號令にて行るゝとに非ず、君臣上下、首を朝堂に聚め、相共に憂國の赤心を吐露して是を謀るに非ずんば、亦何ぞ成功を見るに至らん、是を以て敢て妄議せず、而して是を有志の士に責ざることを得ざるなり、

新字:自ら其身を食ふと成らぬ程の虚気者、他人の家を嗣て君禄を食したりとて、何を以て三民の長となり国家を裨益するとを得んや、若し中人ならしめば他家へ分出せざるは、却て其家を富強するの一計とも云べし、世素より二十以外にして未だ他家に分出せざる者多し、而して悠々泛々として徒に父兄を喰靡し以て歳月を玩愒する者あり、是早く之が計をなさゞるに由る也、家子を処するの計、文武は士の家業なれば是を習練するは論を俟たず、又其余暇を以て躬耕する可なり、工作するも可也、梁鴻が如く賃春するも可也、班超が如く雇書するも可也、阮孚が如く屐を蝋するも可也、嵇康が如く鉄を鍛するも可也、兵械戦具の制作、繕修書画、金石の謄写彫刻等を始め、農工凡百の事為して可ならざるとなし、出ては士となり、文武の業を習ひ、君家の用に供し、入ては則ち農工の事を治め、私家の計を営す、是最も古武士の風と云べし、是を本として郎党等も才能の浪士を網羅し、文武の学生として吾家に寄寓せしめ、是を家子に均ふせば小禄の士と雖ども、何ぞ家子郎党なきを憂へん、是を闔国に行ふ時は足食足兵の大計也、然ども、是紙上口頭の号令にて行るゝとに非ず、君臣上下、首を朝堂に聚め、相共に憂国の赤心を吐露して是を謀るに非ずんば、亦何ぞ成功を見るに至らん、是を以て敢て妄議せず、而して是を有志の士に責ざることを得ざるなり、

書き下し

自ら其身を食ふと成らぬ程の虛氣者、他人の家を嗣て君祿を食したりとて、何を以て三民の長となり國家を裨益するとを得んや、若し中人ならしめば他家へ分出せざるは、却て其家を富强するの一計とも云べし、世素より二十以外にして未だ他家に分出せざる者多し、而して悠々泛々として徒に父兄を喰靡し以て歲月を玩愒する者あり、是早く之が計をなさゞるに由る也、家子を處するの計、文武は士の家業なれば是を習練するは論を俟たず、又其餘暇を以て躬耕する可なり、工作するも可也、梁鴻が如く賃春するも可也、班超が如く雇書するも可也、阮孚が如く屐を蠟するも可也、嵇康が如く鐵を鍛するも可也、兵械戰具の制作、繕修書畫、金石の謄寫彫刻等を始め、農工凡百の事爲して可ならざるとなし、出ては士となり、文武の業を習ひ、君家の用に供し、入ては則ち農工の事を治め、私家の計を營す、是最も古武士の風と云べし、是を本として郎黨等も才能の浪士を網羅し、文武の學生として吾家に寄寓せしめ、是を家子に均ふせば小祿の士と雖ども、何ぞ家子郎黨なきを憂へん、是を闔國に行ふ時は足食足兵の大計也、然ども、是紙上口頭の號令にて行るゝとに非ず、君臣上下、首を朝堂に聚め、相共に憂國の赤心を吐露して是を謀るに非ずんば、亦何ぞ成功を見るに至らん、是を以て敢て妄議せず、而して是を有志の士に責ざることを得ざるなり、

現代語訳

自分で身を養うこともできないほどの虚弱で意気地のない者が、他人の家を継いで君の禄を食んだとして、どうして農工商の長となり、国家に利益をもたらすことができるでしょうか。もし中くらいの人物であれば、他家へ分け出さないのは、かえってその家を富ませ強くする一つの計とも言えます。世間には、二十歳を過ぎてもまだ他家へ分け出ていない者が多くいます。そして悠々とぶらぶらして、ただ父兄の世話になって食いつぶし、歳月をむだに過ごす者があります。これは早くその対策を立てないからです。家子の処遇の計は、文武は士の家業ですから、これを習練することは言うまでもなく、そのほかの暇に自ら耕すのもよく、工作するのもよいのです。梁鴻のように賃仕事で米をつくのもよく、班超のように書写を請け負うのもよく、阮孚のように履き物に蠟を塗るのもよく、嵇康のように鉄を鍛えるのもよいのです。兵器・戦具の製作、修理、書画、金石の書写・彫刻などをはじめ、農工のあらゆる事で、してはならないことはありません。出ては士となり、文武の業を習って君家の用に供し、入っては農工の事を治めて、私家の生計を営みます。これが最も古い武士の風と言うべきです。これを本として、郎党なども才能ある浪士を広く集め、文武の学生として自家に寄宿させ、家子と同じに扱えば、小禄の士であっても、どうして家子・郎党のないことを憂えるでしょうか。これを国中に行う時は、食を足らし兵を足らす大計となります。しかしこれは、紙の上や口頭の号令で行えるものではありません。君臣上下が朝堂に首を集め、共に国を憂える真心を吐露して謀るのでなければ、どうして成功を見ることができましょう。ですから、あえて軽々しく論じません。そして、これを志ある士に求めないわけにはいかないのです。

解説

二十歳を過ぎても家に頼って日を送る人を出さないために、文武の本業に加え、耕作や工作などの生業を持たせるという提案です。出ては士として務め、入っては生計の仕事を営む二つの顔が、古い武士の姿とされます。現代の管理職にとっては、若手や周辺の人材に本業のほかの技能や学びの場を与え、多能な人として育てる発想に重なります。人を遊ばせず、早くから自立の道筋を示すことが、小さな組織を強くします。

この章句が説くこと

武教講録吉田松陰与受家子自立多能化

関連する章句

『人生の方程式』の表紙

人生を、一行の式にしてみた。

志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。

本の中身を見る
本2冊(人生の方程式・人生の教科書)+師導1か月=700円本を見る