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武訓 / 下・第10段

或武人、敵と我、兩人戰ふ時のこゝろをよめる描き歌あり。「身はすてつ心ばかりははふらさじ人のうごきをまちてぞうつべき」、いふ心は、敵と戰ふにのぞまば、身はすつべし。身をのがれんとおもへば、心みだれ、おそれひるみて、敵にかつべきちからなし。されど、心ひとつは失ふべからず。敵とたゝかふ時に、つねのごとくにして、心をうごかすべからず。わがかたより、みだりにかゝらず、こらへて早くうつべからず。人のうごきをまちて、其のすきまを見て、はやくうつべし、是、敵にかつの道なりといへり、

新字:或武人、敵と我、両人戦ふ時のこゝろをよめる描き歌あり。「身はすてつ心ばかりははふらさじ人のうごきをまちてぞうつべき」、いふ心は、敵と戦ふにのぞまば、身はすつべし。身をのがれんとおもへば、心みだれ、おそれひるみて、敵にかつべきちからなし。されど、心ひとつは失ふべからず。敵とたゝかふ時に、つねのごとくにして、心をうごかすべからず。わがかたより、みだりにかゝらず、こらへて早くうつべからず。人のうごきをまちて、其のすきまを見て、はやくうつべし、是、敵にかつの道なりといへり、

書き下し

或武人、敵と我、兩人戰ふ時のこゝろをよめる描き歌あり。「身はすてつ心ばかりははふらさじ人のうごきをまちてぞうつべき」、いふ心は、敵と戰ふにのぞまば、身はすつべし。身をのがれんとおもへば、心みだれ、おそれひるみて、敵にかつべきちからなし。されど、心ひとつは失ふべからず。敵とたゝかふ時に、つねのごとくにして、心をうごかすべからず。わがかたより、みだりにかゝらず、こらへて早くうつべからず。人のうごきをまちて、其のすきまを見て、はやくうつべし、是、敵にかつの道なりといへり、

現代語訳

ある武人が、敵と自分の二人が戦うときの心を詠んだ歌があります。「身は捨てつ心ばかりは葬らじ人の動きを待ちてぞ打つべき」。その意味は、敵と戦うに臨むなら、身は捨てるべきである。身を逃れようと思えば、心が乱れ、恐れひるんで、敵に勝つ力がない。しかし、心一つは失ってはならない。敵と戦うとき、常のようにして、心を動かしてはならない。こちらから、みだりにかからず、堪えて早く討ってはならない。人の動きを待って、その隙を見て、早く討つべきである。これが敵に勝つ道であるというのです。

解説

武人の歌を引き、敵に向かうときの心構えを語る段です。歌の意味は、身は捨ててかかっても、心だけは失わず、相手の動きを待って隙を討てということです。益軒の解説では、身を逃れようとすると心が乱れて恐れひるみ、勝つ力が出ないとされます。前の段の「忍」と同じく、焦って自分から仕掛けないことが強調されています。大きな勝負どころで、失敗を恐れて身を守ろうとすれば、判断が鈍ります。結果への執着を手放し、平常心で相手や状況を見る姿勢は、プレゼンや交渉、重要な局面での意思決定に生かせます。

この章句が説くこと

平常心身を捨てる隙待つ歌武訓

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