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武訓 / 下・第25段

敵、川を越來るを待ちて戰ふに、古法に、半渡るをうつといふ。半渡とは、敵川半まで渡り來るとにはあらず。身方は、川ばたより、二三町ほど引退きて、陣をなし、敵の川をこし來るをうつ。敵兵半ば岸よりあがりて、備いまだ定まらず、半ば未だ川中にありて渡る時、此方よりさそひかゝりて、敵の備なきを急にうつて、敵を川に追ひはめうつをいふ。是必、利ある謀なり。大將の旗を立つるに、春夏は、將の左に立て、秋冬は、將の右に立つ。是、陰陽にしたがへるなり。

新字:敵、川を越来るを待ちて戦ふに、古法に、半渡るをうつといふ。半渡とは、敵川半まで渡り来るとにはあらず。身方は、川ばたより、二三町ほど引退きて、陣をなし、敵の川をこし来るをうつ。敵兵半ば岸よりあがりて、備いまだ定まらず、半ば未だ川中にありて渡る時、此方よりさそひかゝりて、敵の備なきを急にうつて、敵を川に追ひはめうつをいふ。是必、利ある謀なり。大将の旗を立つるに、春夏は、将の左に立て、秋冬は、将の右に立つ。是、陰陽にしたがへるなり。

書き下し

敵、川を越來るを待ちて戰ふに、古法に、半渡るをうつといふ。半渡とは、敵川半まで渡り來るとにはあらず。身方は、川ばたより、二三町ほど引退きて、陣をなし、敵の川をこし來るをうつ。敵兵半ば岸よりあがりて、備いまだ定まらず、半ば未だ川中にありて渡る時、此方よりさそひかゝりて、敵の備なきを急にうつて、敵を川に追ひはめうつをいふ。是必、利ある謀なり。大將の旗を立つるに、春夏は、將の左に立て、秋冬は、將の右に立つ。是、陰陽にしたがへるなり。

現代語訳

敵が川を越えて来るのを待って戦うとき、古法に「半ば渡るをうつ」という。半渡とは、敵が川の半ばまで渡って来るのをいうのではない。味方は川端から二、三町ほど引き退いて陣を構え、敵が川を越えて来るのを討つ。敵兵が半ば岸に上がり、備えがまだ定まらず、半ばはまだ川中にいて渡っているとき、こちらから誘いかけて、敵の備えのないところを急に討ち、敵を川に追い込んで討つことをいう。これは必ず利のあるはかりごとである。大将の旗を立てるには、春夏は将の左に立て、秋冬は将の右に立てる。これは陰陽に従うのである。

解説

古法「半ば渡るをうつ」の意味を、取り違えやすい点から正しく説明する段です。益軒は、川の半ばまで来た敵を討つのではなく、味方が川端から二、三町引いて陣を構え、敵が岸に上がって備えが定まらないところを急に討つのだと述べます。相手の態勢が整わない瞬間を狙う、利のあるはかりごとだと位置づけています。末尾では、旗の立て方が季節の陰陽に従うことも付記されています。競合が新しい市場に入ってきたとき、足場が固まる前に動くか、様子を見るかの判断は、経営でもよく問われます。相手の隙が生じる時機を見極める目は、今も有効です。

この章句が説くこと

半渡時機隙陣陰陽武訓

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