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武訓 / 上・第27段

もろこしの風俗、昔より、君をいさめて殺さるゝ、ことをしれども、いさむる人多きはなんぞや。其の國の人、うまれつき忠義ありて、風俗も、亦、氣節をたつとぶ。其の上、文字ありて、諫の道をしればなり。是、もろこしの長ずる所なるべし。日本の武士は、古より、戰塲にて、君のためたゝかひ死して、命をしまざる人多きはなんぞや。此の國の人は、天性武勇つよく、其の上、昔より、國の風俗にて、名をおもんずればなり。是、和漢の人の、各長ずる所なり。士氣ありて、死をおそれざるとは、和漢同じけれども、其志す所かはれるは、國のならはしにて文を好み、武を尙ぶの道異なるべし。故に、わが日の本は、世界の內にて、すぐれたる武國といふべし。只、中夏に比するに、文學甚おとれるのみ。

新字:もろこしの風俗、昔より、君をいさめて殺さるゝ、ことをしれども、いさむる人多きはなんぞや。其の国の人、うまれつき忠義ありて、風俗も、亦、気節をたつとぶ。其の上、文字ありて、諫の道をしればなり。是、もろこしの長ずる所なるべし。日本の武士は、古より、戦塲にて、君のためたゝかひ死して、命をしまざる人多きはなんぞや。此の国の人は、天性武勇つよく、其の上、昔より、国の風俗にて、名をおもんずればなり。是、和漢の人の、各長ずる所なり。士気ありて、死をおそれざるとは、和漢同じけれども、其志す所かはれるは、国のならはしにて文を好み、武を尚ぶの道異なるべし。故に、わが日の本は、世界の内にて、すぐれたる武国といふべし。只、中夏に比するに、文学甚おとれるのみ。

書き下し

もろこしの風俗、昔より、君をいさめて殺さるゝ、ことをしれども、いさむる人多きはなんぞや。其の國の人、うまれつき忠義ありて、風俗も、亦、氣節をたつとぶ。其の上、文字ありて、諫の道をしればなり。是、もろこしの長ずる所なるべし。日本の武士は、古より、戰塲にて、君のためたゝかひ死して、命をしまざる人多きはなんぞや。此の國の人は、天性武勇つよく、其の上、昔より、國の風俗にて、名をおもんずればなり。是、和漢の人の、各長ずる所なり。士氣ありて、死をおそれざるとは、和漢同じけれども、其志す所かはれるは、國のならはしにて文を好み、武を尙ぶの道異なるべし。故に、わが日の本は、世界の內にて、すぐれたる武國といふべし。只、中夏に比するに、文學甚おとれるのみ。

現代語訳

中国の風俗では、昔から、主君をいさめて殺される例が知られていますが、いさめる人が多いのはなぜでしょうか。その国の人は生まれつき忠義があり、風俗もまた気節を尊ぶからです。そのうえ、文字があって諫言の道を知っているからです。これは中国の優れたところでしょう。日本の武士が、昔から戦場で主君のために戦って死に、命を惜しまない人が多いのはなぜでしょうか。この国の人は天性、武勇が強く、そのうえ昔から国の風俗として、名を重んじるからです。これは日本と中国の人が、それぞれに優れたところです。士気があって死を恐れないという点では日本も中国も同じですが、その志すところが違うのは、国の習わしで、文を好むか武を尊ぶかの道が異なるからでしょう。ですから、わが日本は世界の中で、すぐれた武の国といってよいでしょう。ただ、中国に比べると、文学がはなはだ劣っているだけです。

解説

日本と中国の気風を比べ、中国は諫言の人が多く、日本は戦場で命を惜しまない人が多いとする段です。益軒は、どちらも士気がある点で同じとしつつ、文を好むか武を尊ぶかという習わしの違いで志す方向が分かれると見ます。結びには、日本は武の国として優れるが、文学では中国に劣ると、率直な自己評価が置かれています。外国観や国の優劣論は当時の価値観によるものなので、そのまま受け取る必要はありません。ただ、自分の組織の強みと弱みを、他と比べて素直に言葉にするという姿勢は、いまの経営にも通じます。

この章句が説くこと

気風強みと弱み諫言文と武比較武訓

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