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武訓 / 上・第25段

勇士は、命をすつることかたからず。すてゝ、道にあたることかたし。道にかなはずして死するは、犬死なり。たとへば、狂愚なる者の、われに無禮なるをとがめて口論して、一朝の怒によりて、人と鬪ひて身をすつ、是、其の身をかろんず。是、不孝なり。武にあらず。死ぬべくして死なざる、是、命をしむ、勇なきなり。義にあらず。戰にのぞみ、君のために、節に死なず。是、不忠なり。君父のために、忠孝を行ひて、一かどの用に立つべきあたら身を、よしなき少しのことをいかりて、狂人愚人のために命を捨つること、おろかなり。をしむべし。

新字:勇士は、命をすつることかたからず。すてゝ、道にあたることかたし。道にかなはずして死するは、犬死なり。たとへば、狂愚なる者の、われに無礼なるをとがめて口論して、一朝の怒によりて、人と闘ひて身をすつ、是、其の身をかろんず。是、不孝なり。武にあらず。死ぬべくして死なざる、是、命をしむ、勇なきなり。義にあらず。戦にのぞみ、君のために、節に死なず。是、不忠なり。君父のために、忠孝を行ひて、一かどの用に立つべきあたら身を、よしなき少しのことをいかりて、狂人愚人のために命を捨つること、おろかなり。をしむべし。

書き下し

勇士は、命をすつることかたからず。すてゝ、道にあたることかたし。道にかなはずして死するは、犬死なり。たとへば、狂愚なる者の、われに無禮なるをとがめて口論して、一朝の怒によりて、人と鬪ひて身をすつ、是、其の身をかろんず。是、不孝なり。武にあらず。死ぬべくして死なざる、是、命をしむ、勇なきなり。義にあらず。戰にのぞみ、君のために、節に死なず。是、不忠なり。君父のために、忠孝を行ひて、一かどの用に立つべきあたら身を、よしなき少しのことをいかりて、狂人愚人のために命を捨つること、おろかなり。をしむべし。

現代語訳

勇士にとって、命を捨てることは難しくありません。難しいのは、捨てて道にかなうことです。道にかなわずに死ぬのは犬死にです。たとえば、常軌を逸した愚かな者が自分に無礼を働いたのをとがめて口論し、一時の怒りから人と争って身を捨てるのは、自分の身を軽んじることです。これは不孝であり、武ではありません。死ぬべきときに死なないのは、命を惜しむことで、勇がないということです。義ではありません。戦に臨んで、主君のために節に殉じないのは不忠です。君や父のために忠孝を行い、一かどの役に立つはずの惜しい身を、つまらない些細なことに怒って、狂人や愚か者のために捨てるのは、愚かなことです。惜しむべきことです。

解説

前の段を受けて、死に方の是非を整理した段です。命を捨てること自体は難しくなく、道にかなって捨てることが難しい、と益軒は言います。つまらない怒りで命を捨てるのは不孝、死ぬべきときに惜しむのは不義と、両方向の誤りが並べられている点に注意が要ります。言い方は強いものの、骨子は、命の使いどころを見極めよという話です。仕事に置き換えれば、一時の感情で退職や衝突に走ることも、必要な責任を取らずに逃げることも、どちらも誤りです。自分の力を何のために使うのか、そこから逆算して判断する姿勢が問われます。

この章句が説くこと

犬死命の使いどころ忠孝感情責任武訓

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