武訓 / 上・第24段
少壯の時、人の一言をとがめて、口論し、小なる義をはげみ、勇みだてをして、道理なきことに身をわすれ、父母をすてゝ、鬪ひ死す、不仁不孝のいたりなり。是、學問せずして、仁義忠孝の道をしらず、あたら命をすてゝ、道理にそむくこと、愚なるかな。孟子曰、以て死すべし、以て死することなかるべし、死すれば勇をやぶるといへり。死ぬまじきことに死ぬるは、勇を失ふ。古人の曰、生を捨つると、豈やすからざらんや、死に處すること、誠にひとりかたしとは、これをいふなり。いふ意は、死ぬることはやすし、死して道理にかなふことかたしとなり。死ぬべき道理に當りて死ぬるは、死に處する道を得たるなり。もし、死ぬべからずして死ぬるは、愚なる故なり。是、犬死なり。
新字:少壮の時、人の一言をとがめて、口論し、小なる義をはげみ、勇みだてをして、道理なきことに身をわすれ、父母をすてゝ、闘ひ死す、不仁不孝のいたりなり。是、学問せずして、仁義忠孝の道をしらず、あたら命をすてゝ、道理にそむくこと、愚なるかな。孟子曰、以て死すべし、以て死することなかるべし、死すれば勇をやぶるといへり。死ぬまじきことに死ぬるは、勇を失ふ。古人の曰、生を捨つると、豈やすからざらんや、死に処すること、誠にひとりかたしとは、これをいふなり。いふ意は、死ぬることはやすし、死して道理にかなふことかたしとなり。死ぬべき道理に当りて死ぬるは、死に処する道を得たるなり。もし、死ぬべからずして死ぬるは、愚なる故なり。是、犬死なり。
書き下し
少壯の時、人の一言をとがめて、口論し、小なる義をはげみ、勇みだてをして、道理なきことに身をわすれ、父母をすてゝ、鬪ひ死す、不仁不孝のいたりなり。是、學問せずして、仁義忠孝の道をしらず、あたら命をすてゝ、道理にそむくこと、愚なるかな。孟子曰、以て死すべし、以て死することなかるべし、死すれば勇をやぶるといへり。死ぬまじきことに死ぬるは、勇を失ふ。古人の曰、生を捨つると、豈やすからざらんや、死に處すること、誠にひとりかたしとは、これをいふなり。いふ意は、死ぬることはやすし、死して道理にかなふことかたしとなり。死ぬべき道理に當りて死ぬるは、死に處する道を得たるなり。もし、死ぬべからずして死ぬるは、愚なる故なり。是、犬死なり。
現代語訳
若い盛りに、人の一言をとがめて口論し、小さな義理にこだわって勇み立ち、道理のないことに我が身を忘れ、父母を見捨てて、争って死ぬのは、不仁不孝のきわみです。これは学問をせず、仁義忠孝の道を知らないで、惜しい命を捨て、道理に背くもので、愚かなことです。孟子は「死んでよい場合もあり、死ななくてもよい場合もある。死んでよくないのに死ねば、勇を損なう」と言っています。死ぬべきでないことで死ぬのは、勇を失うことです。古人が「生を捨てるのがどうして易しくないことがあろうか、死に身を処することこそ、まことに難しい」と言ったのは、このことです。言う意味は、死ぬことは易しいが、死んで道理にかなうことが難しい、ということです。死ぬべき道理に当たって死ぬのは、死に処する道を得たのです。もし死ぬべきでないのに死ぬのは、愚かだからです。これが犬死にです。
解説
この章句が説くこと
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『文武訓』武訓上一少壮の時、人の一言をとがめて口論し、小なる義をはげみ、勇みだてをして、道理なきことに身をわすれ、父母をすてて闘ひ死す、不仁不孝のいたりなり。是学問せずして仁義忠孝の道を知らず、あたら命をすてて、道理にそむくこと、愚なるかな。孟子曰、以て死すべし、以て死することなかるべし、死すれば勇をやぶるといへり。死ぬまじきことに死ぬるは勇を失ふ。古人の曰、生を捨つる事、豈やすからざらんや、死に処ること、誠にひとりかたしとは、これをいふなり。いふ意は、死ぬることはやすし、死して道理にかなふことかたしとなり。死ぬべき道理に当りて死ぬるは、死に処する道を得たるなり。もし死ぬべからずして死ぬるは、愚なる故なり。是犬死なり。
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『武訓』上・第25段勇士は、命をすつることかたからず。すてゝ、道にあたることかたし。道にかなはずして死するは、犬死なり。たとへば、狂愚なる者の、われに無禮なるをとがめて口論して、一朝の怒によりて、人と鬪ひて身をすつ、是、其の身をかろんず。是、不孝なり。武にあらず。死ぬべくして死なざる、是、命をしむ、勇なきなり。義にあらず。戰にのぞみ、君のために、節に死なず。是、不忠なり。君父のために、忠孝を行ひて、一かどの用に立つべきあたら身を、よしなき少しのことをいかりて、狂人愚人のために命を捨つること、おろかなり。をしむべし。
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『文武訓』武訓上一勇士は命を捨つることかたからず。捨てて道にあたることかたし。道にかなはずして死するは犬死なり。たとへば狂愚なる者の、われに無礼なるをとがめて口論して、一朝の怒によりて、人と闘ひて身を捨つ、是其身をかろんず。是不孝なり、武にあらず。死ぬべくして死なざる、是命ををしむ、勇なきなり、義にあらず。戦にのぞみ、君のために節に死なず、是不忠なり。君父のために忠孝を行ひて、一かどの用に立つべきあたら身を、よしなき少しのことをいかりて、狂人愚人のために命を捨つること、おろかなり。をしむべし。
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『文武訓』武訓上一士たる者、戦にのぞんで身を捨つることはかたからず。血気の勇は盗賊もよくするものなり。只身を捨てて義にかなふことかたし。故に、死ぬべからずして死ぬるは、是其身をかろんず。父母よりうけし身をいたづらにするは不孝なり。死ぬべくして死なざるは、是其死をおそれ、命ををしみて君の為にせず、不忠なり。是李太白が言なり。年わかく血気さかんなる人、勇をこのまば、忠孝の道を知りて、生死只義にかなふべし。学問なければ忠孝の道を知らず、死ぬべくして死なず。いやしむべし。死ぬべからずして死ぬ、かなしむべし。勇怯ことなれども、義理にそむけることは一なり。武士は、学問して義理を知れば、死生する理にかなふ。
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『武訓』上・第13段士たる者、戰にのぞんで、身をすつることはかたからず。血氣の勇は、盜賊もよくするものなり。只、身をすてゝ、義にかなふことかたし。故に、死ぬべからずして死ぬるは、是、其の身をかろんず。父母よりうけし身をいたづらにするは、不孝なり。死ぬべくして死なざるは、是、其の死をおそれ、命をしみて君の爲にせず、不忠なり。是、李太白が言なり。年わかく血氣さかんなる人、勇をたのまば、忠孝の道をしりて、生死、只、義にかなふべし。學問なければ、忠孝の道をしらず。死ぬべくして死なず。いやしむべし。死ぬべからずして死ぬ。かなしむべし。勇怯ことなれども、義理にそむけることは一なり。武士は、學問して義理をしれば、死生する理にかなふ。
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『文武訓』武訓上されども、わが方よりは、人をあなどりて悪口すべからず。悪口すれば、いかなる臆病者も又いかりをおこしてたたかひに及ぶ事あり。妄人とたたかひ勝ちても、我も亦自殺せずんばあるべからず。是一朝のいかりに其身をわすれて、其親に及ぼすなり。不孝不智の至、もとより武勇にあらず、犬死といふべし。君父のため忠孝を行ふべきあたら身を、かかる妄人に対して捨つるは、いとをしむべし。彼の愚人は、人に責られざればこりず。少しこらして大にいましむるは、小人の福なりと、易にも見えたり。凡朋友の交は、互に礼をあつくうやまふべし。如斯なればあらそひ出来ず。あらそひは必ず無礼よりおこる。闘論なからんことを議する事、甲陽軍鑑にしるせし内藤修理が説、むべなり。
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