武訓 / 上・第11段
古人の曰、いにしへは、兵を農に寓す。事あれば戰はしめ、事なければ武をならはしむといふこと、大將の、必、しるべきことなり。いふこゝろは、古の軍法を以て、國を守る君將は、つねに、無用なる士をば、多くはめしつかはず。無用の武士多ければ、國土は限あるものなれば、財祿たらずして、國用ともしく、臣民困窮す。故に、平生用なき武士は、多くは養はず。農人の內、勇氣あらんものをえらんで、少の祿をあたへ、扶養し置くべし。農人は、商工にかはりて、其の志いやしからず、養をうけ恩をかうふれば、戰にのぞんで、其の勇氣をはげまして、つたなからず。平生の扶持をあたへ、其の身を養ふの費は、無用の武士をかゝへ置きたる十分一の費なり。無事なる時は、耕作してみづから養ふ。多く祿をあたへざれども、飢寒せず。平治の時は、四時のひまには、狩をして、軍法をまなぶ。戰にのぞんで、軍法ありて兵つよし。
新字:古人の曰、いにしへは、兵を農に寓す。事あれば戦はしめ、事なければ武をならはしむといふこと、大将の、必、しるべきことなり。いふこゝろは、古の軍法を以て、国を守る君将は、つねに、無用なる士をば、多くはめしつかはず。無用の武士多ければ、国土は限あるものなれば、財禄たらずして、国用ともしく、臣民困窮す。故に、平生用なき武士は、多くは養はず。農人の内、勇気あらんものをえらんで、少の禄をあたへ、扶養し置くべし。農人は、商工にかはりて、其の志いやしからず、養をうけ恩をかうふれば、戦にのぞんで、其の勇気をはげまして、つたなからず。平生の扶持をあたへ、其の身を養ふの費は、無用の武士をかゝへ置きたる十分一の費なり。無事なる時は、耕作してみづから養ふ。多く禄をあたへざれども、飢寒せず。平治の時は、四時のひまには、狩をして、軍法をまなぶ。戦にのぞんで、軍法ありて兵つよし。
書き下し
古人の曰、いにしへは、兵を農に寓す。事あれば戰はしめ、事なければ武をならはしむといふこと、大將の、必、しるべきことなり。いふこゝろは、古の軍法を以て、國を守る君將は、つねに、無用なる士をば、多くはめしつかはず。無用の武士多ければ、國土は限あるものなれば、財祿たらずして、國用ともしく、臣民困窮す。故に、平生用なき武士は、多くは養はず。農人の內、勇氣あらんものをえらんで、少の祿をあたへ、扶養し置くべし。農人は、商工にかはりて、其の志いやしからず、養をうけ恩をかうふれば、戰にのぞんで、其の勇氣をはげまして、つたなからず。平生の扶持をあたへ、其の身を養ふの費は、無用の武士をかゝへ置きたる十分一の費なり。無事なる時は、耕作してみづから養ふ。多く祿をあたへざれども、飢寒せず。平治の時は、四時のひまには、狩をして、軍法をまなぶ。戰にのぞんで、軍法ありて兵つよし。
現代語訳
古人は言いました。昔は兵を農に寓した。事があれば戦わせ、事がなければ武を習わせた、と。これは大将が必ず知るべきことです。その心は、古の軍法で国を守る君主や将は、ふだんは用のない士を多くは召し使わないということです。用のない武士が多ければ、国土は限りのあるものなので、財禄が足りなくなり、国の費えが乏しく、臣民は困窮します。ですから、平生用のない武士は多くは養いません。農人の中から勇気のある者を選んで、少しの禄を与え、扶養しておくのがよいのです。農人は商工と違って、その志が卑しくなく、扶養を受け恩をこうむれば、戦に臨んでその勇気を励まし、拙くはありません。平生の扶持を与え、その身を養う費えは、用のない武士を抱えておく費えの十分の一です。無事な時には耕作して自ら養います。多く禄を与えなくても、飢えや寒さに苦しみません。治まった時は、四季の暇に狩りをして、軍法を学びます。戦に臨んでは、軍法があって兵は強いのです。
解説
この章句が説くこと
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